福田雄一が語る『SAKAMOTO DAYS』で見せた目黒蓮の本気
大人気コミック「SAKAMOTO DAYS」が福田雄一監督によって実写化。主演を務める目黒蓮が、特殊メイクで“ふくよかな坂本”と“スマートな坂本”を演じ分けることでも注目を集めている。
史上最強といわれた元殺し屋の坂本太郎。今では愛する妻と娘のいいパパになって当時の面影がないほど太っていた。ある日、彼に10億円の懸賞金がかけられ、世界中から刺客が集結。愛する家族を守るため壮絶なバトルを繰り広げる。
アクションとコメディが融合した本作を作る上で福田監督が大事にしていたこととは……。「福田組には豪華キャストが集まる」と言われる理由も教えてもらった。
原作の魅力を徹底リサーチして脚本を制作

現在26巻まで発売されている同名のマンガが原作ですが、2時間に収めることに不安などなかったのですか?
「SAKAMOTO DAYS」を映画化するという話が来たのは今から少し前のお話です。2時間という時間の中、派手な映像でお客様を楽しませる映像を作れるような脚本を考えていたところ、16巻の鹿島との戦いのクライマックスまで読んだ時に、映画にできるなと確信が持てました。
これまでも数々のマンガを実写化されていますが、実写化する上で大事にしていることを教えてください。
僕が“原作を愛せるかどうか”は大前提です。そして最初に原作を愛している人たちがどういうことを支持しているのかを徹底的に調べるようにしています。そうすると原作のファンが大好きなシーン、カット、セリフ……などが確実に出てきて。それを逃さずに、原作ファン以外の方が見てもわかるためのポイントを押さえて組み立てていくと、案外、いい具合に2時間のストーリーになっていきます。脚本に関しては、原作を活かしたものを書きますが、撮影に入ったら役者さんにアレンジしていってもらっています。
俳優さんに委ねる部分も多いのですか?
実写をやるからには原作を超えないと意味がないと僕は思っています。僕はクランクインの前日までは原作漬けの毎日を送るのですが、クランクインした日からは原作を一切見ないようにしています。その理由として、実写版の主役は原作の主役ではなく、主役を演じる役者さんになるんですよ。つまり今回でいうと、実写版の主役は目黒蓮。そこからは目黒くんが選んだ選択を紡いでいくのが僕の作業になります。たとえアニメで杉田智和さん(坂本太郎役)がどんなにカッコいい言い回しをしていても、クランクインをしたら僕にとって映画の坂本は目黒くんのものになっていきます。
演じる人が作る芝居が絶対になるんですね。
(演じる)本人がやっていることですから、それが一番いいんです。たとえ原作と違っていたとしても、僕は口が裂けても「原作はこっちだよ」とは言わないです。そうなると、彼が演じる意味がなくなってしまいますから。やはり演技は、役者さんが自分で発信して生んだものが一番。だから原作の坂本と違う姿勢で言っていようが、セリフの言い回しが違っていようが、演じる人がそれを選択したなら、それがベストだと思います。それこそが実写化の意味だと思うので。
誰が何を演じるかも大事になってきますね。
キャスティングはかなり大事ですが、僕はあまり苦労したことはないんですよ。原作を読んでいると、わりとこれは誰に演じてもらいたいというのが見えてくるというか。「この人にこれをやってもらったらおもしろい」というのは出てきます。そしてありがたいことに、僕の映画は僕自身がキャスティングするのがおもしろいとプロデューサーが言ってくださるので、自分でこの人がいいとお願いしています。
キャストのコメディセンスはどのようにして見極めているのですか?
僕は、コメディに上手い下手はないと思っていて、コメディが好きな人は間違いなくできるし、嫌いな人はできないと思っています。おもしろいことが好きという人は、すでに素質があるはずで、僕のレーダーには、おもしろいことが好きでない人は入ってきません。ちなみにそのレーダーをより強固にするためにドラマよりトーク番組をよく見るようにしています。その方が役者さんの人となりが出てくるので。意外とこれが大事な気がします。
作品への向き合い方で現場を引っ張っていった座長・目黒蓮

主人公である坂本太郎を目黒蓮さんにオファーした理由を教えてください。
目黒くんに関しては奇跡としか言いようがなかったです。僕はあまり連続ドラマを見る習慣がないんですが、珍しく時間ができたので「海のはじまり」(2024年フジテレビ系)を見たんです。そしたらシックなお芝居をする目黒くんがいて。これまでの彼の作品を1作も見たことがなかったのですが、とにかくずっと見ていたいという感想を持ちました。この感想は、木村(拓哉)くんを初めて見たときと同じで。
当時は『SAKAMOTO DAYS』のキャスティングに着手すらしていない時期でしたが、この感動をついXにポストしたら、ファンの方々が次から次へと目黒くんの作品を勧めてくれて。勧められるままに見て、作品の感想をポストして…という日々を過ごしていたら、『SAKAMOTO DAYS』のキャスティングが動き始めました。
本作はコメディもアクションもできないと成立しませんが、そこに対してはどのように感じていましたか?
目黒くんは、これまでコメディ作品に出ていませんが、そこはバラエティー番組にも出演していておもしろいことも好きそうだったので大丈夫だと思っていました。またアクションに関しても確信があって…。彼の事務所の人たちは何でもできるんですよ。僕は堂本剛が19歳のころから一緒にやっていますが、もうおもしろいぐらいにどのようなこともサラッとやってのけるのを見てきたので。ただ、こちらもどうしても外せないこだわりがあって……。それが受け入れられるかは心配でした。
何にこだわられたのですか?
4時間かかるといわれていた特殊メイクです。僕はふくよかな坂本もスマートな坂本も同じ人に演じてもらいたく、それが絶対条件でした。プロデューサーからは「その条件を受けてくれる人はいないです」って言われ続けたのですが、僕はその条件を絶対に外せなかったです。やはり同じ人が演じていないと芝居はつながらないし、カタルシスを感じないと思っていて。ふくよかでも強いですが、スマートなら最強!というモードに自然と切り替わるためには、どちらも本人がやっていないと。そしたら「目黒くんがやってくれると言っています」と連絡が来て。最初は驚きしかなかったです。このような夢みたいな奇跡はあります?って。
実際お会いしてどのような話をされたのですか?
年末のSnow Manのライブで初めてお会いしました。そのとき「死ぬ気で頑張りますので、よろしくお願いします」と言われ、これでもう何も怖いものはないと感じました。さらにクランクイン前、僕は脚本をこのように変えてほしいと相談されるのが好きな方なので連絡先を伝えたんですよ。
そしたらクランクインの日に連絡が来て。目黒くんの提案は納得できるものだったので撮影が終って、夜12時ごろに直して手書きの台本を目黒くんに送ったんですよ。で、僕は少しウトウトしてしまい気づけば朝4時30分ごろで。慌てて携帯を見たら目黒くんからまた新たな提案が入っていて。待たせたかも……と思いつつ僕はまたすぐに送り、朝にでも話ができればいいかなと思っていました。そしたら3分後に「ありがとうございます。これでやらせてください」と返事が来て。もしかしたら僕の返信を夜中まで待ってくれていたかもしれないと思い、彼の熱量を感じました。
その後、「僕はすべての仕事において、関わってくださるスタッフ、キャストの皆さんが、この作品が一番楽しかったと言ってもらえるように頑張ることにしています」という内容のメッセージが届いて。これはうれしかったですね。目黒くんの本気がとても伝わってきました。シン役の(高橋)文哉くんも言っていましたが、「どう考えても大変な特殊メイクを目黒さんがやっているので、自分も一瞬たりとも手を抜けない」って。これは本作に関わった人みんなの思いだと思います。目黒くんは言葉数が多い方ではないですが、背中を見るだけで私たちも気を引き締めなきゃと思うんですよ。素晴らしい座長でした。
得意な人が責任を持って自分の得意なことをする現場

福田組はいつも笑顔があふれている現場ですが、監督として現場でのポリシーはあったりしますか?
実は今回出演していただいた加藤浩次さんからもなぜ撮影現場の雰囲気がいいのか聞かれたのですが、その答えは明白で。自分の意に沿わないことをやっている人間が1人もいないからだと思っています。
実は僕、カット割りには口を挟まないんですよ。なぜなら現場にはカメラマンがきちんといるから。監督が作ったカット割りが書かれた割本どおりにしか撮らないカメラマンもいますが、どんなカメラマンも最初は自分で画を作りたくて始めたんだと信じています。だから画を作りたい人が画を作るという当たり前のことを僕の現場はやっています。それは照明でもアクションでも同じ。
そして僕は、芝居と笑いをつける担当です。得意な人が得意なことを責任を持って担当するので、これは違うのになと思いながら現場に立っている人が1人もいない。もし違うと思うなら自分のやりたいようにやってくれていいわけですから。そう考えたら楽しいと思うんですよね。
それはキャストも同じですか?
役者さんも自己表現をしたいという気持ちが絶対にあって始めていると思っているので同じです。だから僕は撮影前にお会いしたときに必ず「楽しみにしています」と言うようにしています。この一言で「よし、やったるぞ!」と思ってくれる役者さんが多いと僕は信じていて。よく「福田組に豪華キャストが集まるのはなぜ?」と言われるのですが、福田組は単純に自分の好きな芝居ができるというのが大きいんだと思います。
以前、「勇者ヨシヒコと魔王の城」(2011年、テレビ東京系)で古田新太さんがゲストで来たとき、楽屋にいた俳優さんが全く台本を読まない古田さんに台本を覚えたのか聞いたらしいんですよ。そうしたら古田さんは「福田組って何を言っても許されるんでしょ」って答えたらしく。それも当たらずも遠からずで。僕は役者さんを信じているので、楽しんでやってくれるのが一番だと考えています。
その考えは昔から持っていたのですか?
監督を始めたときから、僕が1人で考えることなんて小さいものだという思いはあります。スタッフみんなで考えて役者さんの力をお借りした方がいいものができるのは間違いない事実なので。どうしても少しこうして欲しいみたいな気持ちが出たときは伝えます。ただ提案程度で。それくらい、皆さんに任せた現場になっています。
俳優は、言い方・トーン・表情・動きといった複合体で笑いを表現

監督は劇団「ブラボーカンパニー」の座長として作家や演出を行い、バラエティー番組の放送作家をされていましたが、いつごろから監督を目指されたのですか?
監督になろうと思ったことは一度もないです。昔からバラエティー番組の台本を書くととても細かく、芸人さんが遊ぶ余白がないと怒られていたんですよ。ただ、僕は極楽とんぼとココリコの座付き作家をしていたこともあり、やはりオチはボケの方に落としてもらいたいし、僕の考えを上回るおもしろいことを言ってほしいというラブレターの感覚で台本を作っていました。
そのような時期にいいきっかけになったのが、体験談をもとにコントで再現する「ココリコミラクルタイプ」(2001~2007年、フジテレビ系)。松下由樹さんや坂井真紀さん、八嶋智人さん、小西真奈美さんといった俳優さんにコントをしてもらうのですが、最初に「アドリブができないのでしっかりとした台本を書いてもらわないと困ります」と言われました。これが僕にとってありがたいことで。そして初めて役者さんが作る笑いのすさまじさを知りました。これまでワードで笑いを取っていく芸人さんの笑いしか体験したことがなかったのですが、役者さんはセリフの言い方、トーン、表情、動き……といった複合体で笑いを表現してくるんですよ。それを見せられたときに、役者さんの笑いっておもしろいと感じました。
そして縁があって「THE3名様」(2005年)で監督をしませんか?と声をかけられて。初めは断ったのですが、プロデューサーから「画的なものは僕らが考えるんで、舞台で芝居をつけている感覚でお願いします」と言われて。それでも出演者が宮藤官九郎くんの作品によく出ている方だったので、「宮藤くんの色が強すぎるのでちょっと」と断って(笑)。そうしたら「今後、宮藤さんとの勝負を避けて生きていくのですか?」と言われて、これがぶっ刺さりましたね。もう数秒後には「やります!」と。そしたらこれがありがたいことにかなり人気を集めて。デビュー作に恵まれました。
その後も放送作家との二足のわらじで活躍されていましたよね。
堂本剛と「33分探偵」(2008年、フジテレビ)を作ったりしていたのですが、ついにフジテレビの代表的なドラマ枠である月9の仕事が舞い込んできたんです。これまでもゴールデンタイムのドラマは断っていたのですがどうしてもとなり受けました。それが「東京DOGS」(2009年、フジテレビ系)。このときはバラエティー番組を8本ほど担当しながらドラマもやってという状況でした。ただこのタイミングで妻が次男を妊娠するんです。そこで妻から言われたのが、「生まれる2か月、生まれた後の4か月は一切仕事をしてはいけない。家にいなさい」で。初めは冗談だと思ってごまかしていたのですが、めちゃくちゃ本気で。この出来事が僕にとって大きな転機になりました。
仕事漬けの毎日から激変ですよね。何をしていたのですか?
毎日、やることがないんですよ。毎日の食事や上の子のお弁当など作ったり家事をしたり……。それ以外はテレビを見る毎日でした。仕事もオファーが来たものも断り、バラエティー番組の会議に行かせてくれないので全部断って。そして毎晩、同じ説教を食らうんですよ。「仕事の仕方を変えろ。片手間で書いた台本では失礼だ」と。そして「半年経ったらまた仕事を再開するけど、そのときはこの仕事が終わったら死んでもいいと思うぐらいの意気込みで臨みなさい」と。
当時、育休明けにテレビ東京の深夜ドラマの「勇者ヨシヒコ」にインすることだけは決まっていたんですよ。決まったときは忙しかったのもあり監督業をやりたくなかったのに、育休明けで仕事を始めると、監督業がもう楽しくて仕方がない。そして監督として仕事にきちんと向き合おうと考えが変わっていきました。仕事も掛け持ちをしなくなりましたし。あとテレビを見る時間ができたので、人気の役者さんや芸人さんなど、視聴者のリアルな“今”を知ることができたのも大きかったです。
監督が映画を作る上で大事にしていることを教えてください。
肝に銘じているのは、「すべての世代が楽しめること」。僕が映画監督として何をしたいかと言えば、おそらく“子どもたちにとってのドリフターズ、若者にとってのとんねるず”の作品を作りたいんです。僕が子どものころ、お茶の間でドリフターズを見て笑っていたように、家族みんなで笑って楽しめるものを作りたいと思っています。もちろんその裏には地獄のような作業があるんですが、それでも“楽しそう”と思わせてくれる、そのような存在でありたいです。
(子どもたちが)本作を見て、目黒くんのような大人になりたい、映画監督になりたいと思ってくれることが、僕にとっての最高の喜びです。もちろん興行面で考えると、平日時間がある大人が何度も足を運ぶ作品が成功するのは分かっているのですが、それは僕がすることではない。やはり僕はファミリー映画を作りたいし、作り続けるべきだと思っています。日本のエンターテインメントが偏らないためにも、僕みたいな人も必要かなと思います。
エンターテインメント業界を目指すうえで意識しておいた方がいいことはありますか?
明日、「監督してよ」と言われたときに、いつでも手を挙げられる準備はしておくべきだと思います。そのためにも僕はいつでもキャスティングができるように、トーク番組のチェックが大事で。実写を撮る人間は役者さんと組まないと絶対にできないですから、役者さんを知っておく必要があるんですよ。
では自分の作品にどういう人が向いているのかといえば、僕はとてもいい子でひたむきに作品に取り組んでくれる子と考えています。もちろん芝居の上手下手はありますが、それよりも作品にどう向き合うのかが大事だと思っていて。本作の目黒くんも、単純におもしろくてカッコいいものを作りたいという欲求で動いている人でしたし。そのようにして周りを見ていけば、いずれ目が養われて、自分の作品にピッタリの人が見極められるようになると思います。
取材日:2026年3月22日 ライター:玉置 晴子 動画撮影:指田 泰地 動画編集:鈴木 夏美

©鈴木祐斗/集英社 ©2026映画「SAKAMOTO DAYS」製作委員会
『SAKAMOTO DAYS』
2026年4月29日(水・祝)公開
原作:鈴木祐斗「SAKAMOTO DAYS」(集英社「週刊少年ジャンプ」連載)
脚本・監督:福田雄一
出演:目黒蓮、高橋文哉、上戸彩
横田真悠、塩野瑛久、渡邊圭祐、戸塚純貴
八木勇征、生見愛瑠
北村匠海
配給:東宝
主題歌:Snow Man「BANG!!」(MENT RECORDING)
©鈴木祐斗/集英社 ©2026映画「SAKAMOTO DAYS」製作委員会
ストーリー
かつて「史上最強」と言われた元殺し屋、坂本太郎。
しかし、ある日、彼は恋に落ちたことであっさりと殺し屋から引退!
結婚し、娘の誕生を経て、街の個人商店の店長となった坂本は、かつての面影が無いほどに……太った!!
だが、そんな彼の首に突如、10億円の懸賞金が掛けられたことで日常は一変。
世界中から刺客が集結する――。
愛する家族と平凡な日常を守るため、決して人を殺さずに
迫りくる危険な敵と命を懸けた壮絶なバトルを繰り広げる!







