映画『東京逃避行』誕生秘話|24歳・秋葉恋監督が撮る“歌舞伎町の若者たち”の現実

Vol.84
映画『東京逃避行』監督
Ren Akiba
秋葉 恋
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23歳にして第2回東京インディペンデント映画祭のグランプリを受賞した秋葉恋が初めて手掛けた長編映画『東京逃避行』は、居場所を失った若者の逃亡サスペンス。藤井道人をエグゼクティブプロデューサーに迎え、東京・歌舞伎町に集まる現代の若者の姿を描いた意欲作だ。
実体験にもとづく完全オリジナルで描かれた本作は、トー横が閉鎖された後の歌舞伎町が舞台。トー横で暮らす日々を綴った自伝的ネット小説に憧れた女子高生・飛鳥(寺本莉緒)が作者・日和(池田朱那)と出会い、トー横に流れ着いた人を保護するエド(綱啓永)や若者たちのリーダー格であるメリオ(髙橋侃)との忘れられない一夜の逃亡劇を描く。
リアルを追い求める監督の製作へのこだわりや短編から長編作品へのアップデートでこだわった点、映画を撮る上で大事にしていることなどを聞いた。

高校時代に出合った匿名の短編小説が原案

本作は第2回東京インディペンデント映画祭のグランプリを受賞した同名作品が基となっているとのことですが、どのようにしてこの物語が生まれたのでしょうか?

高校生の頃、SNS上で匿名のグループを作って短編小説を書いていて、その中に女の子2人の逃亡劇を描いた3行ぐらいの作品があって。僕は作者の顔も名前も知らなかったのですが、その物語はかなり現代性があってずっと気になっていました。ちょうどコロナ禍だったのですが、途中から更新されずどうもそれを書いていた子は亡くなってしまったという話も出てきて、友人から背中を押されて僕がその物語を引き継ぐことにしました。そしてその逃亡劇を基にして、コロナで失業する風俗嬢の女の子が過去の自分と出会って夜の歓楽街を逃げ回るという話にファンタジー要素を入れて1本の作品にしました。その後、虐待されていた女の子が家出して街を彷徨う中で愛を見つけていく物語をミニドラマにし、その次は以前から僕にとっては身近だったLGBTQ+の問題を背景に入れつつ、バイセクシャルの男の子と貧困に苦しむ風俗嬢の女の子が2人で自殺するために逃亡する映画へと生まれ変わっていきました。この作品は『カクレクマノミ』というタイトルなのですが、内容はほぼ『東京逃避行』と同じです。高校の頃に出会った小説がどんどん形を変えて今の『東京逃避行』になっていきました。

なぜ歌舞伎町を舞台にトー横問題を描こうと思ったのでしょうか?

原案を書いた女の子が歌舞伎町にいた子だったという話が以前からあって気になっていました。そして、ちょうどトー横問題(家庭や学校に居場所を失った若者が集まりトラブルに巻き込まれている社会問題)が騒がれ始め、原案を書いた女の子のことを知りたくなりました。つまり『東京逃避行』での日和(池田朱那)のモデルが原作者の彼女なのです。彼女のレイヤーだけを掘っていくことで『東京逃避行』の短編(第2回東京インディペンデント映画祭のグランプリ受賞作)が生まれていきました。

どのようにして日和のレイヤーを深めていったのですか?

本作で、トー横の児童相談所で働くレイカを演じてくださった、さとうほなみさんと、短編で日和を演じてくださった橋口果林さんと一緒に、日和という人物はどのような女の子なのか、なぜトー横界隈にいるのかなどを話し合いながら、実際に歌舞伎町に住んだり取材を重ねて掘っていきました。スタート地点では何者か分からなかった日和に、最終的には長編にもつながるような物語や設定が生まれて、はっきりとした輪郭が見えてきました。日和のセリフだけではなくキャラクターもすべて橋口さんと一緒に作っていったという実感があります。

あくまでも脚本は骨組み、現場に行ったら俳優の意見を最優先

監督は脚本も担当されていますが、どのようにして作品を作っているのですか?

僕自身、役者としてほかの監督作品に出たりすることもあり、役者と一緒に脚本を作っていくスタイルを取っています。本作も同じです。短編同様、日和を演じた池田さんと一緒にトー横の子どもたちを保護している団体さんなどを取材して、実際の現場を見て何を感じたのかを一緒に話し合いました。これは全キャスト同様で、役に関わる部分は取材した内容を共有して資料をひたすら見てもらって、キャラクターたちが本当に生きているとしたらどう行動するのかを自分のことのように捉えてもらいました。そうすることで僕とはまた違った見え方が生まれて、セリフに深みが出てくるんですよ。そうやってできた脚本ですが、撮影当日は、「台本どおりではなく自由に演じて」と伝えています。基本、現場は俳優に任せています。ここまで一緒に作りあげてきたことを信じて、あくまでも俳優がやりたいことをやるのが、僕が考える“秋葉組”です。俳優に任せることで、“秋葉組”の現場こそ自分が一番輝ける場所だと思い、今できることをぶつけていい作品が生まれてくる。僕は作品が良ければ過程にはこだわっていません。

セリフを変えた部分で印象的だった箇所を教えてください。

ラスト近くの飛鳥と日和が別れるシーンは台本とまったく違いますね。当日、池田さんに、「最後に『ありがとう』って言いたい」と言われたんですよ。理由は、罪悪感でいっぱいだけどそれを超えるぐらい感謝したい飛鳥への思いがあるので、「ありがとう」が言えない日和はダメかもと。僕はそれを聞いて池田さんがそう感じるなら最後のセリフは「ありがとう」が正解なんだろうと思い撮影しました。だから短編と本作は日和と飛鳥の歌舞伎町での別れのセリフが変わっています。

現場でセリフが変わることもあるんですね。監督にとっては脚本とはどのような存在ですか?

脚本は骨組みとして非常に大事なものです。ただ現場に行ったらやはり俳優を信用したいので俳優の意見が最優先になります。もちろん信用するまでには話し合いは事前にかなりやりこんでいますが…。正直、僕は現場でセリフを噛んでしまっても平気でOKを出すタイプなんです。なんならその方がよりリアルで人っぽいと考えていて。もちろん商業映画としてみると完璧さは大事かもしれないですが、それ以上にこの街に生きている人を描くとなったときに完璧さはそこまで必要ではないというか。それより、俳優がそのキャラクターそのものになっている方が大事だと思っています。

エグゼクティブプロデューサー藤井道人の案で社会に届く作品に

本作は今の歌舞伎町が描かれていますが、監督には歌舞伎町はどのように映りましたか?

僕はいつも一つの街を舞台にして作品を作っています。というのも実は僕は街を決めないと脚本が書けないんですよ。人が街にいるからドラマが生まれるという考え方で脚本を書いているので。今回は歌舞伎町という東京のド真ん中の街を舞台に、孤独を抱えた人たちが集まる。そこにはどのようなドラマが向いているのか。調べていったら驚きましたね。歌舞伎町はあまりにもいろんな見え方がして。たとえば、東京の街でも下北沢や高円寺はカルチャーが集まる街と一本強いイメージみたいなものがあるんですが、歌舞伎町はカルチャーもありながら、アルコールもあるし風俗もあるし若者文化もあるし少し怖いものもある…。要素が多すぎるんですよ。でもそのぐちゃぐちゃになって言語化できないのが歌舞伎町で。とても不気味で、でも魅力的に映りました。

SNSで逃亡劇の短編小説を見つけてから6年ほど歌舞伎町を舞台に撮っているんですよね。

他の作品も撮りつつですが、日和を6年ぐらい撮っている感じで。まさかここまで描くとは思っていなかったです。ただ、歌舞伎町を舞台にその時代の若者たちが直面している問題を描いた逃亡劇を何年も描いていったら今のようになっていただけで。ただ今回はこれまでのように自分たちの仲間と私情で映画を撮っていたのと違い、新しいスタッフや大人の方々と一緒に長編を作りあげたことで僕の『東京逃避行』は何か一つ終わったような気持ちになりました。やれることをやったというか。これが商業の監督、プロになるということなのかな?と思いました。そしてここからは本作ができるまでに物語を紡ぐ力をくれた人たちを大事にして、もう一回、何か違う作品を作って新たな思い出を作っていきたいと思っています。

今回、商業長編作品初監督でしたが、長編にする上で気をつけた点を教えてください。

そもそも短編は、“YouTubeを何気なく見た人が大事にしてくれる作品”を目指していました。でも長編では、それだけではない、「なぜ今、この映画が必要なのか」をプラスしようとエグゼクティブプロデューサーの藤井さんに言われたんです。そこで、“観ることで何かを考えてもらうきっかけになる”という映画が本来持っている意義を味わえる作品にしないといけないと考えました。若者の居場所となっているトー横がなくなってしまったらどうやって若者が生きていくのかをベースにしながら、子どもが叫んでいるだけの映画ではダメで。大人の目線のパートとして、“親たちは子どもが歌舞伎町にいるときに何をしているのか”を描こうと自然に舵が取れた気がします。それにより短編では描けなかった日和の親や、エド(綱啓永)やメリオ(髙橋侃)といった歌舞伎町にいる大人にもフォーカスを当てることができました。

長編になることで藤井さんをはじめ新たなスタッフが加わったことで影響はありましたか?

短編は、ほぼ同級生で撮っているんですよ。ワタワタしながら自分たちの得意な分野を活かしつつ撮っていて。でも長編はカメラを学(がく)さんにお願いしました。学さんに変わって大きかったのは、彼は生きている人を撮りたがるんですよ。僕が考えていないほどのアップでその人の表情を漏らさないように撮っていて。あれには驚きました。そしてあらためて本作は秋葉恋だけのパーソナルな作品ではないと感じられました。さまざまな目線が入ったことで、より社会に届きやすくなっていると思います。

商業作品を撮っていかがでしたか?

ふらっと入った映画館で上映していた作品が人生を変えることがある。それができるのが映画の魅力だと思っているのですが、今回、間口を広くしたことで誰かの心に残る作品になっていればいいなと思っています。日和がこのような決断をして生きたことを肯定してあげる優しさを持っていただければと思います。そして本作を観て自分の子どもに電話する、親に話をするといった行動のきっかけになれたら。居場所がないと思っている人に居場所は無限にあることを伝えられたらと思います。

7歳で映画監督を志す、自分の描く世界に入りたかった

監督は7歳から映画監督を目指していたとのことですが。

絵を動かしたい、自分が作った物語の中に入りたいという興味からアニメーターになりたかったのですが、自分で撮った方が表現したいことが表現できると思い、映画監督になりたいと思うようになりました。最初はHi8(1990年代に流行った家庭用ビデオカメラ)で撮影し、その後は運動会用のビデオカメラで撮影、編集までして作品を作っていました。17歳の頃から助監督をやり、現場でアクション部とかを経験させていただき、初めて買った一眼レフで撮ったのが、高校生映画甲子園で最優秀監督賞を受賞した作品。あれはカメラが弟で衣装は母親が担当して。それぐらい昔から映画が身近にありました。同時に、子どもの頃に「仮面ライダー 電王」(テレビ朝日系)を見て仮面ライダーになりたくて。作品の世界に入るのが楽しそうという思いから演じるのも好きになり、俳優もするようになりました。そしてその気持ちは監督になった今も変わらず。所属会社(BABEL LABEL)としては監督に専念してもらいたいかもしれないですが、僕は俳優も辞めないと決めていて(笑)。僕は現場にいないと死んでしまう人間なので、監督や脚本を担当するときもあれば、俳優をするときもあるというスタンスで映画と向き合っています。

本作も俳優として出演したかったという思いはありますか?

その気持ちがないといえばウソですが、できることはすべて俳優のみなさんに預けました。そうしたらやはり、みなさんすごいんですよ。僕が考えていたことを超えてきましたから。俳優の魅力と物語がミックスした作品になっていてうれしかったです。

監督は現実を切りとるイメージですが、ドキュメンタリーに興味はありますか?

僕はそもそも、映画の中に入りたい人間なんですよ。映画監督になるのも、自分の描く世界に入ることが目標だったので。だから事象を一歩引いたところから撮影するドキュメンタリーは見るのは好きですが、監督にはなれないです。ちなみに今一番興味あるのは、物語をドキュメンタリー映像のように見せて演出するモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)です。これまで映画館で映画を観ることが作品の中に入れる一番の方法だと思っていたのですが、最近リアルイベント系と組み合わされた作品を体験して、ここまで作品に没入できるのか!とかなり驚きました。モキュメンタリーは見終わった後も現実の延長上に作品のかけらがあり、実生活を狂わせてしまう力があるんですよ。何かに怯えたり、何かに感動し続けるようになる…など今までの生活に影響を与えてしまうモキュメンタリー作品を作って、映画と日常が交差する瞬間を見てみたいです。

『東京逃避行』もモキュメンタリーっぽくしてみようと思いましたか?

モキュメンタリー要素を入れられるかな?と思ったけど、意外と難しかったです。現在進行している、『2045 FILMS WORKSHOP vol.1』(5月29日(金)よりテアトル新宿で公開)という企画では、商業長編作品のデビューが決まった映画監督が、初恋の人を忘れられずに映画を撮れない姿を追う話を作っているのですが、これが完全にモキュメンタリーで。監督は僕だし、その映画で出てくる出来事は『東京逃避行』だし、なぜ撮れないかを探っていく主人公が短編で日和を演じた橋口さんです。彼女が『東京逃避行』をどう感じたのか、監督である僕をどう見ているのかなど、ドキュメントとフィクションを織り交ぜています。これが本当におもしろい作品になっているんですよ。『東京逃避行』は、短編、長編、ワークショップ版の三部作として1本の作品なのかもしれないです。

俳優の人生に名前を残す作品をつくりたい。同時に、観客を楽しませたい。

監督にとって映画を作る上で大事にしていることを教えてください。

二つあります。一つは作品に出てくれた俳優の人生にきちんと名前を残せる作品にしてあげることです。これは出てくださった俳優への監督としての命題。もう一つは観客を楽しませること。これが非常に大事で。最近、社会の問題などが描かれていて、知識が必要な映画が多いような気がします。そういう社会的意義のある映画も必要ですが、観客が何も考えずに楽しめる、ポップコーンを食べながらゲラゲラ笑える1本を作ることができればいいなと考えています。観客に楽しんでもらえる、そういう作品を今後も作っていきたいです。

取材日:2026年2月13日 ライター:玉置 晴子 動画撮影:布川 幹哉 動画編集:鈴木 夏美

©2025 映画「東京逃避行」製作委員会

『東京逃避行』
2026年3月20日(金)全国公開

寺本莉緒 池田朱那
綱啓永 高橋侃
松浦祐也 深水元基 さとうほなみ

監督・脚本:秋葉恋
主題歌:町田ちま『ネオンと残像』(Altonic Records)
エグゼクティブプロデューサー:藤井道人 音楽:堤 裕介
プロデューサー:道上巧矢/駒奈穂子
アソシエイトプロデューサー:鈴木祐介
協力プロデューサー:久那斗ひろ
撮影:学 照明:渡邊大知 録音・サウンドデザイナー:吉方淳二
美術:畦原唱平 衣裳:横市智昭
ヘアメイク:西田美香 キャスティング:伊藤尚哉
編集:増井佑哉 VFX スーパーバイザー:平野宏治
カラリスト:渡邊将 カラースーパーバイザー:石山将弘
助監督:福田和弘 制作担当:磯本淳 協賛:Simeji
製作:サイバーエージェント ABEMA ライツキューブ
製作幹事:サイバーエージェント
制作プロダクション:BABEL LABEL
配給:ライツキューブ
©2025 映画「東京逃避行」製作委員会

公式サイト https://tokyotohiko.babel-pro.com/
オフィシャルX @tokyotohiko2026
オフィシャルインスタグラム @tokyotohiko2026

ストーリー
家にも学校にも居場所がない女子高生・飛鳥は、トー横で暮らす少女の自伝的ネット小説「東京逃避行」に憧れて歌舞伎町を訪れ、偶然にも作者の日和と出会い意気投合する。トー横に流れついた人々を保護して面倒をみるエドや、トー横の若者たちのリーダー的存在であるメリオを紹介された飛鳥は、メリオが仕切る集会に参加するが、そこで衝撃的な現実を目撃。日和の手を取って逃げ出したものの、2人は半グレ組織の怒りを買い、追われる身となってしまう。一方、若者たちの居場所を守ろうと戦うエドと、危うい選択を重ねて飛鳥たちを追うメリオ。やがて警察をも巻き込み、事態は急展開を迎える。

プロフィール
映画『東京逃避行』監督
秋葉 恋
2001年生まれ、東京都出身。7歳より映画製作を始め、2019年『残されたもの、残せるもの、』では高校生映画甲子園にて最優秀監督賞を受賞。藤井道人監督と出会う。その後も『カクレクマノミ』(2022年)など自主映画を製作。2021年監督・主演を務めた『RINGO~林檎~』は海外のインディーズ映画祭で多数受賞し、横浜インディペンデントフィルムフェスティバルにてU22部門最優秀賞を受賞。2024年『東京逃避行』(短編)が東京インディペンデント映画祭グランプリを受賞、藤井道人が立ち上げた映像集団「BABEL LABEL」の新レーベル、「2045」に所属。

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