くすぶった状況を一転させたのは自らかけた1本の電話。人の心を動かす映像クリエイターに

広島
株式会社結movie 代表取締役
Yui Ishii
石井 祐尉

企業のマーケティング動画制作をはじめ、さまざまな映像制作を行う、2022年に設立された株式会社結movie。人の心を動かす映像制作をめざす代表取締役の石井 祐尉(いしい ゆい)さんは、2023年には安芸高田市の元市職員の作家と共同で映画制作(※安芸高田を舞台にした『ベルサーマ 声をなくした二人』)にも取り組むなど、常に新たな挑戦をしています。映像の世界に飛び込む以前はハウスメーカーの営業マンとして売上トップ3を成し遂げたという経歴ももつ石井さんに、設立のきっかけや事業内容、今後の展望などを伺いました。

やりたいことが見つからなかった学生時代。営業力を身につけ、独立を見据える

新卒でハウスメーカーに就職、営業職で活躍されていたと伺いました。

学生のころ特に夢がなかった私は、周りが次々と就職先を決めていくなかで就活を始めるのも遅く、やりたいこともありませんでした。父が事業をしているのもあって、自分もいつかは何かの事業を始めてみたいと思っていましたが、「これだ」というものがありませんでした。私は工業大学の建築学科出身だったので、建築の仕事をしたほうがいいだろう、ということでハウスメーカーを選びました。営業職に就いたのは、将来独立するなら何であれ営業は絶対必要なスキルだと思ったからです。
入社時点で、とりあえず3年は働いて辞めようと決めていました。「3年で辞めたい、それまでに絶対トップに行きたい」と配属先の支店長にも伝えました。支店長は全国展開するハウスメーカーで全国トップ3の成績をあげたすごい人。そんな人の元で鍛えられ、1年目は新人賞を、1人で契約をとれるようになった2、3年目には会社の営業でトップ3の成績をあげ、区切りの3年で自信をつけて退職しました。

それからすぐ映像制作の世界へ?

いえ、結局達成感だけで何もやりたいことが見つからないまま辞めてしまったので、3カ月ほどは家でダラダラする日々を送っていました。いよいよヤバいと思い始め、自分にできることは何だろう、好きなことでないと続かない、では何が好きだろうと考え、クリエイティブ関連の仕事と、飲食がいいと思いました。
それから日中はクリエイティブなことが学べる学校に通い、午後は飲食店でバイトを始めました。飲食は体力的にきつく、現場で働くのは現実的ではないと気づき、クリエイティブの方へ進むことに。そして広告代理店勤務をはさみ、映像制作会社で9年働きました。
昔から動画を撮るのは好きで、バイトの送別会で動画を制作したこともありました。その時に喜んでもらえたうれしさが自分のなかにずっと残っていて、それがこの道を志すきっかけになりました。

利益を度外視して取り組んだ一つの仕事が、独立への自信に

映像制作会社に長く在籍されていますが、独立のきっかけは?

独立は入社当初から視野に入れていたので、9年勤める間に何度も辞めようと考えました。それができなかったのは、独立する手立てが見つからなかったから。
独立の大きなきっかけになったのは新型コロナです。ブライダル関連の撮影が中心だったため、コロナ禍では仕事がなく、給料をもらいながら家にいるという状態が3~4カ月続いていました。その時「しめた!」と思いました。「今なら動ける」と。会社で働きながら営業で個人の仕事を受注することはできても、撮影が仕事と被ると動けないのがネックでしたが、在宅で自由な時間が生まれ、動きやすくなったんです。

その時に独立への足掛かりとなる仕事をつかんだのですね。

はい。そのあと私は、とあるセミナーでご一緒したモデル事務所ジャパニーズビューティ株式会社の勝 さやか(かつ さやか)社長に電話をかけました。「何か撮影が必要なことはないですか」と尋ねてみると、ちょうど「ミスなでしこ」という大会が開催されるタイミングでした。映像にかける予算は少なく、2万円くらいしか出せないと言われましたが、それでも「撮りに行きます!」と機材をそろえて本気で挑みました。求められるもの以上の動画を撮影し、「すごいものをつくったね」と認めていただけました。
ジャパニーズビューティの事務所は、多様な施設が入った複合施設で観光名所でもあるおりづるタワー内にあり、そのつながりからマツダ株式会社のオーナーの目にも留まりました。おりづるタワーのカフェで開催されるイベントのCMを制作するなど何度か仕事をいただくうちに、ただ撮影ができるというだけで意外と何とかなることに気づきました。
独立前から何か変化球で新しいコンテンツをつくって仕事につなげようと考えては失敗を繰り返していましたが、奇をてらう必要はなく、撮影・編集のスキルだけでも需要があるんだと。それがわかった時、やっと自信をもって独立へ踏み出せたんです。この仕事がなければ今の私はいません。

クライアントから直接仕事を受注することが多いのでしょうか。

直接やりとりする場合もありますし、広告代理店を通じて仕事をいただくこともあります。これを言うと結構皆さんに驚かれますが、メリットはたくさんあるんです。私の知らない多くのクライアントとつながりをもつ代理店に認められたら、自分から新規開拓しなくてもどんどん仕事が入ってくるようになります。
それに、二つの軸で営業をすることで、片方が倒れてももう片方が支えになってくれます。

映画制作という新たな挑戦で思い出した映像をつくる喜び。「心を動かす動画を」

事業内容についてお聞かせください。

企業のブランディングや採用、商品プロモーションビデオの制作から、YouTube、TikTokなどの小さな案件まで、映像関係であれば何でもやっています。単なる映像制作というより、お客さんが求める価値を提供することが私たちの仕事だと思っています。お客さんが成果をあげるためのすべを身につけ、人の心を動かす動画をつくることが第一。それができなければ生き残ることはできないと考えています。
そのために、「これをやらないと先がないな」と思ったらどんなことでも一度はやってみるようにしています。今取り組んでいる映画制作もその一つです。

安芸高田市の元市職員の作家・稲田 幸久(いなだ ゆきひさ)さん脚本の映画で共同監督を務められたそうですね。

角川春樹小説賞受賞作家の稲田さん自身がメガホンを取り、映像を撮ってくれるクリエイターを探しているなかで、知人を通じて私に白羽の矢が立ちました。もともと稲田さんが賞を取ったことで映画をつくらないかと誘われたことはあったそうですが、映画業界では人に見てもらうために作品が改良され、思ったものとは違うものになってしまうことが往々にしてあります。それが嫌で思うままにつくりたいと思ったそうで、映画を撮影した経験のない私に声がかかったようです。結局私もあれこれ口を出したので「すごく嫌だ」と言われましたけど(笑)。
でも、お互い一から始める者同士、そして同い年でもあります。終わってみると、「撮影がすごく楽しかった」と言ってくれました。
高価なシネマカメラを購入、人件費もかかり赤字のうえで撮影しましたが、ただ好きで映像をつくっていた昔のわくわくをもう一度味わえました。すべてが初めての経験で、手探りの挑戦でしたが、映像をつくる楽しさを思い出しました。

「映像×何か」。映像の枠にとらわれない挑戦

映画制作の経験は今後の事業に生きると思われますか?

今、広告らしい広告は見られなくなってきています。広告だとすぐにわかってしまうようなもののことです。そうではなく、一つのドラマやドキュメンタリーを観ているかのように見入ってしまう広告が求められています。いわゆるブランデッドコンテンツですね。消費者は見て楽しく、広告主は商品をちゃんと見せられる。そういうものがつくれるクリエイターをめざしているので、視聴者をストーリーに引き込む手法を学べた映画制作はいい経験になりました。

今後、どんな会社にしていきたいですか。

今の時代はオンラインで何でもできるので事務所を構えていませんでしたが、何か大きなことに挑戦するならハコがいるということで、撮影スタジオ兼レンタルスペースのある事務所を用意しました。まだいろいろ試行錯誤している最中ですが、事務所を呼び水に新しい仕事につなげ、事業の幅を広げていきたいです。
現在、映像制作と一緒にデジタルサイネージディスプレイごとリースする事業も始めています。こんなふうに、映像制作の枠から出てできることをもっと見つけていきたいですね。
ただ映像制作するだけの会社ではおもしろくないので、「映像×何か」を求めています。 新しい何かに取り組んで、私自身、そして会社をもっと価値のあるものにしていく。これが経営者として取り組んでいかなければならないことだと捉えています。

誰にでもできる作業にかける時間は減らして、学びの時間をもってみて

未来のクリエイターに向けてアドバイスをお願いします。

私は今、クリエイター育成講座で次世代を育てることにも力を注いでいます。多くのクリエイターを見てきて思うのは、みんな作業ばかりしているということ。私が考えるベストな時間の使い方は、作業・営業・学びの三つの時間をバランスよく取ることです。1本1万円の仕事を30日間取り組んでも、どうしたって30万円以上にはなりません。作業ばかりではなく学びの時間を設け、そこで得たスキルを武器に営業をかけて単価をあげていくことで、自分の価値はあがっていきます。クリエイターは「つくること」が好きで始めた人が多いと思いますが、それが誰にでもできる作業なら手放してしまいましょう。
また、クリエイターを志す人はコミュニケーションが苦手だという人も多いですが、人との付き合いは大切です。パソコン1台でできる仕事ではありますが、外に出て人と顔を合わせて知ってもらうと、意外と仕事につながるものです。特に新人なら愛嬌が大事。愛嬌はネット上のやり取りでは見えませんから。直接会って話してみると、「頑張っているからこれやってみないか」と、愛嬌で仕事をもらえることもあります。一人で黙々と目の前の作品にだけ向き合うのではなく、たまには外に出て、ぜひいろんな人と交流してみてください。

取材日:2023年12月14日 ライター:東 滋実

※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。

 

株式会社結movie

  • 代表者名:石井 祐尉
  • 設立年月:2022年8月
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:マーケティング動画制作、その他動画撮影・編集、クリエイター育成講座など
  • 所在地:
    〒733-0872 広島県広島市西区古江東町25-19-403(本店)
    〒730-0049 広島県広島市中区南竹屋町9-22 1F(撮影スタジオ/レンタルスペース)
  • URL:https://www.yui-movie.com/
  • お問い合わせ先:080-1924-8432

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