「正直不動産」がついに映画化! 川村泰祐監督が語る俳優・山下智久の作品への向き合い方
2022年から2シーズンにわたりNHKでドラマ化され、社会派コメディとして大きな反響を呼んだドラマ「正直不動産」が映画『正直不動産』としてスクリーンに登場。山下智久演じる嘘をつこうとすると強烈な風が吹き、本音しか言えなくなってしまった不動産営業マン・永瀬財地が、正直さと誠実さだけを武器に海千山千の不動産業界で悪戦苦闘する姿を描いた本作。
映画版では、元同僚で不動産ブローカーの桐山貴久(市原隼人)が自らの故郷で進める大規模開発計画や、ライバル会社が仕掛ける悪質な地上げなどを前に、永瀬が正直を武器に人々の笑顔と街の未来を守るために立ち向かっていく。
テレビシリーズから演出を務める川村泰祐監督に、山下智久の作品に対する姿勢や芝居について、ここまで愛されるシリーズになった理由を語ってもらった。
(※本文中に作品について触れている部分があります。)
作品やキャラクターを愛した視聴者の力で映画化に

原作マンガからテレビドラマ、映画化という流れですが、ここまで愛される作品になるという手ごたえはいつごろから感じていましたか?
最初は無我夢中で撮っていたのですが、なんとなく手ごたえは感じていました。その理由はやはり原作のおもしろさ。不動産屋さんを舞台にした物語でここまで細かく扱った作品はないと感じましたね。同時に、忖度なしにマンガのエッセンスをきちんとドラマ化できるという話だったので、不動産屋さんのいいところ悪いところを含め、かつ、ためになり少しお得感があるものを作れたらいいと考えました。ただ、嘘をつこうとすると吹く風をどのようにして表現したらいいか、悩みどころも多かったです。
コメディ色が強いのも特徴ですよね。
不動産屋さんの話なので難しくなりすぎるといけないと思い、なるべく入り口を入りやすいように原作よりコメディ色を強くしました。風が吹いたときの動きも含め、少し大げさのほうがおもしろいのではないかと。そのように舵を取れたのは、永瀬財地を山下智久さんが演じるから。永瀬はシリアスからコメディまで幅広いお芝居が必要ですが、こなせる人間はなかなかいないんですよ。ただ山下さんなら確かな演技力があるのでできると確信でき、作品の形が見えました。

2022年にシーズン1、2024年にスペシャルドラマとシーズン2、2025年にはスペシャルドラマ、そしてついに2026年で映画化になりました。評判はどのように届いていたのですか?
シーズン1は収録を終えてからのオンエアで、編集をしている間に放送が始まったんですよ。そしたらすごい反響で、本作を振り返る「正直不動産 感謝祭」という特番も作られました。多くの人に愛されている作品だなと思っていたら、すぐにスペシャルドラマやシーズン2を作りたいという話になり、またスペシャルを……という感じで映画化になりました。この4年半は無我夢中に走ったという感じ。映画になるなんて最初は考えもしていなかったので、本当に「正直不動産」を愛してくださった視聴者の力でここまでたどり着いたと思います。
スペシャルドラマではライバルの不動産会社が舞台となるなど、主人公以外のキャラクター人気も大きいですよね。
各キャラが主人公に負けず劣らず相当インパクトが強く、多くの人に愛されたんだと思います。 ライバル会社であるミネルヴァ不動産の神木涼真役を、ディーン・フジオカさんが演じてくれたのが大きかったですね。神木は、永瀬の師匠で嘘もいとわない営業のカリスマであり、気合の入ったときは華麗なタップを踏むのが特徴ですが、正直、このような役を乗り越えられるのは誰がいるのか……と議論になったんですよ。そしてディーンさんの名前があがったのですが、やはりディーンさんしかできない役でした。神木を含め各キャラクター、確かな実力のある役者さんたちが演じていて、みんな主役級。これが本当にすごいことだと思います。僕が何もしなくて皆さんが正解をしっかり捕まえてきてくれる。とても頼もしかったです。
山下智久さんがさまざまなパターンの芝居を提案して唯一無二の永瀬が誕生

永瀬というキャラクターはどのように作っていったのですか?
当初、風を受けているときの姿、正直になった後の表情や仕草などイメージはできてもこれという明確なお芝居が決まらなかったんです。そのような中、山下さんが「こういうのはどうですか?」と何パターンもお芝居をしてくれたんですよ。訥々(とつとつ)と話すものやコミカルなもの、暴れるものまで本当にさまざまで。その中から想像しているものに近いものを見つけ、キャラクターを肉付けしていきました。これって今までさまざまなお芝居をしてきた山下さんだからできることなのですよ。山下さんが表現することで、人間味のある魅力的な永瀬になったような気がします。
山﨑努さん演じる石田さんはシーズン2にも映画のラストシーンにも登場していましたね。
石田さんが出てくると、永瀬という人間の現在地が見えるような気がするんですよ。ただ最初はここまでの登場を考えていたわけではないんです。ただ山﨑さんと山下さんの掛け合いのお芝居が素晴らしく、せっかくなので最終話にも登場してもらえませんかとなり、スペシャル、シーズン2、映画となっていきました。本当にありがたいです。
山下さんといえばアドリブも多いとの話ですが……。
その状況に応じて、演技を変えてくるからさすがですね。シソンヌの長谷川さん演じる大河部長とのやり取りは毎回秀逸で。長谷川さんがボケとツッコミの両方ができるため、あうんの呼吸で山下さんはセリフを変えてくるんですよ。長谷川さん曰く、「山下さんはやりすぎないのが素晴らしい。やりすぎるとスベりやすくなるけど、その一歩手前でサッと引く。その感覚は芸人と同じなんですよ」と言っていました。やはり山下さんにはコメディセンスがあるってことなんでしょうね。山﨑さんが「こいつはおもしろいんだよ」と買っていた理由がわかりました。

映画化ならではのスケールの大きさは山下智久さんが提案
ドラマから映画となるとスケールを大きくしなければならないですが、気をつけた点はありますか?
映画の企画が立ち上がったのも作品のファンのおかげだと思っていて。となるとその方たちが見たいものをきちんと見せようと考えました。そしてせっかくなら映画館だからできることも取り入れなきゃと、大きいスクリーンで見せる風のパワーや素早さ、5.1chサラウンドの音、スケールの大きいアメリカでのロケなどをプラスしました。ちなみにアメリカでのロケは山下さんからの提案でした。アメリカが舞台になると風もハリケーンのような大きなものまで登場させられるし、風に感情を乗せることができるということとなり。あと英語を話せない永瀬が実は話せるようになっていたらおもしろくないですか?みたいなアイデアもどんどん生まれてきて。今回は山下さんにはクリエイターとしても参加していただいたのですが、かなり力強かったです。
ストーリーは、シーズン1から登場している永瀬のライバルでもある市原隼人さん演じる桐山にスポットを当てていたのも印象的でした。
シーズン1で桐山の話は出てきましたが、僕の中でいつか桐山のことをもっと深堀りしたいと思っていたんです。それで今回、脚本家の根本ノンジさんが桐山の話をやりたいと言ってくれて、よかったと思いました。とくに今回のテーマである「自分にとってかけがえのないものはなにか」と仕事にポリシーを持っている2人の関係性を絡ませることができたことで、より深い作品ができたと思っています。
キャストやスタッフの写真が流れるエンドロールも必見ですね。
テレビシリーズから見てくれたファンの方に対しての感謝の気持ちをエンドロールで伝えたいと思っていたので、これまで参加してくださったキャストのクランクアップシーンや印象的だったシーンなどの写真を選んで並べています。この作品に参加してくださったキャストとスタッフ、お客さん、みんなへのありがとうの意味を込めたものになっているので、ぜひ最後まで見てくれるとうれしいです。
「まぁいいか」をそのままにしないことが一番大事

いつごろから監督になりたいと思われたのですか?
小中学生のころから映画を見るのが好きだったのですが、撮りたいと思ったのは高校生のころです。いわゆるエンターテインメントが好きで、スティーヴン・スピルバーグや宮崎駿の作品が大好きでした。『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年)や『E.T.』(1982年)、『インディ・ジョーンズ』シリーズ(1984年ほか)など、世代問わず見て楽しいを味わえる映画を作りたいと思っていましたし、その気持ちは今も変わらないです。
若いころはテレビドラマに携わることが多かったんですよね。
フジテレビのドラマの助監督をやっていたら、後に「闇金ウシジマくん」シリーズ(2010年ほか、TBS系)を一緒に作る山口雅俊プロデューサーに連続ドラマの中の1本撮らないか?と誘われたのが、「ロング・ラブレター~漂流教室」(2002年、フジテレビ系)でした。そしたら次はセカンドディレクターとして「ランチの女王」(2002年、フジテレビ系)に参加させていただいて、そこから今につながっているという感じです。
『のだめカンタービレ 最終楽章 後編』(2010年)で映画監督デビュー。テレビドラマと映画の違いは感じましたか?
テレビと劇場と出口が違うだけでやることは同じだと思いました。ただ、スケジュールはまったく違いましたね。とくに昔の連続ドラマは、撮影した3日後にオンエアがあったりと瞬間で判断する瞬発力が必要でした。振り返ると、体力がある若いころにこのような経験ができたのはよかったと思います。とはいえ映画も、時間と予算という限られた中でお客さんにどれだけ喜んでもらうかという意味では同じで。今も、自分たちができることをめいっぱい出すためには何ができるかを考える日々です。
自分たちができる最高のものを出すためにしていることはありますか?
スタートからカットと言うまでの間に「まあいいか」ではなく本当に「OK」なのかを考えることです。僕は「まあいいか」と一瞬でも感じたら、「もう一度やらせてください」と言うようにしています。「まあいいか」が出るというのは、きっと自分の中で何かが引っかかっているので、そういうときは立ち止まって考えることが大事。そしてその理由が出てこなかったとしても、役者さんに「ごめんなさい、何か引っかかるんです」と正直に伝えたほうがいいです。そうすると役者さんもプロなので一緒に考えてくれます。そして、“AでないならB”と出してくれたお芝居が違ったとしても、AとBと比較対象が出てくるので何に引っかかっているのかがわかりやすくなります。そうすると「OK」を見つけていけるはずです。必ず「まあいいか」をそのままにしないことが大事だと思います。

すぐにコミュニケーションが取れる状態にいることも大事ですね。
監督というのはどうしても目の前のことに集中してしまい客観的目線を持ちにくくなっていくので、役者さんやスタッフのアドバイスはとてもありがたいものです。だから僕はどのような意見でも聞けるようにと役者さんの近くにいるように心がけています。役者さんも「まあいいか」と思ったとき、監督が遠いとそのままになりがちですが、近くでいると話しかけてくれるようになるんですよ。今回の山下さんも、近くにいたから芝居をしながら役を一緒に作り上げることができたんだと思います。これは人それぞれのやり方なので、自分に絶対的な自信がある人は、逆に役者さんから離れたほうが思い描いている画を作りやすいかもしれないですが、僕は現場での居場所にこだわっています。
クリエイターにとって大事にしたほうがいいことを教えてください。
僕が毎回大事にしているのは、映画を見に来た人をがっかりさせないことです。安くない映画料金を払って来る人たちに、僕たちが最大限に努力したものを見せなければならないと思っています。もちろん予算と時間もあるのでその中でできることになってしまいますが、対価に見合うものを見せるのがプロの仕事だと思います。そのためには自分が見せたいものだけを作るのではなく、みんなが喜ぶものを考えることも大事。たとえば上映時間も、本当は撮ったものすべて見せたいけどテンポを考えたら役者さんに何と言われようともズバッと切ることが大事で。常にカスタマーファーストであることが求められていると思います。
最後に、本作のテーマが「かけがえのないものは何ですか?」でしたが、監督にとってのかけがえのないものを教えてください。
“仕事”です。今、この立場で仕事ができていることや、作品を作る現場を与えてくれる方々に感謝です。本作もそうですが、やはりファンの方が支えてくれておもしろいと思ってくれたからこそ映画化になったわけで。そのように愛される作品を生み出すことができる仕事は僕にとって「かけがえのないもの」です。
取材日:2026年3月24日 ライター:玉置 晴子 動画撮影:浦田 優衣 動画編集:鈴木 夏美 ディレクター:中村 美海

©大谷アキラ・夏原武・水野光博/小学館
©2026 映画『正直不動産』製作委員会
『正直不動産』
2026 年5月15 日(金)全国公開
山下智久
福原遥
市原隼人 泉里香 長谷川忍 見上愛 松本若菜
西垣匠 伊藤あさひ 財津優太郎 馬場徹 松田悟志
山﨑努 吹石一恵 岩﨑大昇(KEY TO LIT) やべきょうすけ 福士誠治 吉澤健 市毛良枝
ディーン・フジオカ 大地真央 / 倉科カナ 高橋克典 草刈正雄
原作:大谷アキラ(漫画)夏原武(原案)水野光博(脚本)『正直不動産』(小学館「ビッグコミック」連載中)
監督:川村泰祐
脚本:根本ノンジ 音楽:佐橋俊彦
製作:門屋大輔 中村高志 斎藤満 山下智久 十二竜也 冨田賢太郎
プロデューサー:菊地洋平 上木則安 山本敏彦 西啓 黒沢淳 近見哲平
アソシエイトプロデューサー:橋本恵一 宣伝プロデューサー:江上智彦 森島奈津子
撮影:金澤賢昌 照明:長谷川誠 録音:平直樹 VE:田代浩由紀 装飾:松岡秀共 小道具:谷口真梨
編集:森下博昭 VFX supervisor:岡野正広 サウンドデザイン:石井和之
整音:深井康之 音響効果:引地康文 衣裳:鈴木まさあき ヘアメイク:澤田梨沙
記録:小林昌枝 助監督:宮下直之 スケジュール:上條大輔 制作担当:千葉裕美
制作プロダクション:NHKエンタープライズ テレパック
製作幹事 / 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:https://shojiki-movie.jp/ オフィシャルX:@shojiki_movie オフィシャルインスタグラム:@shojiki_movie #正直不動産
ストーリー
登坂不動産の営業マン・永瀬財地(山下智久)は、かつて地鎮祭の準備中にある祠を壊した祟りにより、嘘をつこうとすると強烈な風が吹き、本音しか言えなくなってしまった男。嘘がつけないせいで契約を破談にしながらも、カスタマーファーストがモットーの後輩・月下咲良(福原遥)や仲間たちの助けを借りて、何とか正直な営業スタイルを模索し続けている。不動産を巡る様々な思惑や人間模様などかつてない難題に「正直」に向き合い、人々の笑顔と街の未来を守るために立ち向かっていく。







