最初から傑作である必要なんかない やり散らかすくらいの心構えで

Vol.48
映画監督・活弁士 山田広野(Hirono Yamada)氏
 
今回の取材に際して調べてみたら、実は大御所的な存在の方もまだ現役でいらっしゃるとわかったのですが――それまで、てっきり、現代日本で活弁士として活動しているのはこの方だけかと思い込んでいました。山田広野さん――正確には、自分でつくった映画を、自分で活弁する自作自演活弁映画監督です。このスタイルは1998年頃に映画ファンの間で噂になり、注目され、以降、現在もコアなファンを引きつけつつ、ライブ活動を地道につづけていらっしゃいます。 で、今回は、そんな山田さんが、なんと、活弁のない、つまりトーキーの劇場公開用長編映画をリリースするとの情報を得て、勇躍インタビューに出向きました。作品名は、『バサラ人間』。イラストレーター/長尾みのるさんの傑作として名高い『イラストーリー バサラ人間』(よるひるプロ)を原作に、新宿を舞台に繰り広げられるファッショナブルな変態群像なのです。

山田広野の劇場公開用映画『バサラ人間』 いよいよ3月28日(土)から 渋谷ユーロスペースにてレイトショー公開!

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69年≒現代サイケデリック・レトロフューチャー! 『バサラ人間』という、不思議な映画。

え~、『バサラ人間』は、山田広野さんがトーキーを撮ったと表現して間違っていませんか?

はい、それでいいです。普通の映画を撮ったということです(笑)。

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きっかけは?

まず、原作である『イラストーリー バサラ人間』との出会いがあります。あまりに面白くて、本のあるカフェに何度も通ううち、そのお店の方と一緒に盛り上がり、ついにはその方が再出版することになった。で、再版用の巻末企画として僕と長尾さんの対談が行われ、対談中にご本人から映画化の許可をいただきました(笑)。 以来、劇場公開作を撮るならこれと決めていたところに、北庄司知宣プロデューサーから「映画やろうよ」とお誘いを受け、僕からお願いして映画『バサラ人間』が実現しました。

主役の団時朗さんの役は、かなり解釈の難しい役。劇場公開用映画で、プロの役者に演出するのはたぶん初めてのはずですから、いろいろ大変だったのでは?

出演が決まる前に一度お会いしたのですが、その段階で、団さんは十分に役柄を消化していらっしゃると感じました。ですから、演出に関する不安はなかったですね。

団さん以外にもベテラン俳優、女優が多く主演していますね。

もし役者さんのどこかに不安や不満があったら、確実に僕は危機に瀕していたと思いますが、今回はそんなことはまったくなかったです。「デビュー作品の撮影に入っている映画監督」なんて、何人もつきあってきているということなのでしょう(笑)、どの方もとても懐が深くて、その中でのびのびやらせていただけたと感じています。

脚本は脚本家を立てている。つまりは、正真正銘、監督だけを担当したのですね。早のみこみすると、山田さんの自主制作映画と思い込んでしまいそうですが、まったく違いますね。

そうです。この映画は、プロデューサーも、脚本家も、撮影スタッフも、プロの映画人が集まってできあがっている商業映画です。演出は担当しましたが、編集はプロデューサーと一緒に行いました。企画の発端は僕にありますが、脚本が上がって来た段階で「おお、これ、面白い話だな」と見事に人ごとになった(笑)。多くのスタッフのうちの1人として参加させていただいたという意識を持っています。

どうなるかわからないストーリーを、 ハラハラしながら楽しんでいただければと思います。

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とは言え、たとえばファッションも含めた美術の解釈などは、見事だと思うし、あれは山田さんのアイデアでしょう?

プロデューサー、美術、撮影といった主要メンバーとの打ち合わせで決まったことですが、もちろん僕の意見も採り入れられています。 僕が重要と思ったのは、設定となっている60年代後半のサイケな風俗をどれくらい再現すべきかという点です。僕は、完全再現する必要はなく、少々誇張が入るくらいがいいと考えた。現代を誇張して描くと時としてまずいことにもなりますが、過去は誇張を受け入れる余地のある世界だと思うのです。

ロケ地は新宿のゴールデン街界隈のようですね。この映画を撮るためにはうってつけの、そこだけ時間が止まったような空間ですよね。

僕もそう思い、ロケ地は絶対に新宿と考えていました。実は僕、ゴールデン街にはよく飲みに行くので、そういう意味でも愛着がありますしね。

年配の映画人に、いじめられたりしません?(笑)。

あっ、それは先入観ですね。あそこではむしろ、年配の映画人が、若い奴にからまれているんですよ(笑)。

「こういう設定の映画なら、俺が撮った方がうまくいく!」と思う先輩方も、多いでしょうね。

そうかもしれない(笑)。いかに傾倒しているとはいえ、しょせん僕には時代体験はないですからね。資格は薄いかもしれない。そんなことを考えたことも、事実あります。 ですが、そう、及び腰になっていては、何も生み出すことはできないと思うのです。ですから、最後は、「えい、やっ」と飛び込みました。もし作品公開後にネガティブな反応があったとしても、受け入れる覚悟はできています。それもまた、つくったからこそ出てくる反応であり、つくらなければわからなかったことなのですから。

で、できあがってみての感想は?

編集の課程や試写で観て、「面白いんじゃないか」と思いました(笑)。「じゃないか」が「面白い」になるか「つまらない」になるかは、観た方の感想次第だと思うのです。

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どんなところを観て欲しい?

この映画は、お話が3部構成のように組み上がっていて、初めて観るほとんどの人は、物語の全体像をすぐには飲み込めないはずです。つまりは、どうなるかわからないストーリーがどんどんすすむわけで、その辺をハラハラしながら楽しんでいただければと思います。

活弁映画は、 目の前に移っている映像が、カンペです。

多くの人が山田広野を知るのは、活弁が注目された1998年ごろだと思います。それ以前は、何をしていた?

映画の専門学校を卒業して、いわゆるフリーターをしてました。助監督の道には進まず、とにかく作品を発表することをめざした。アルバイトをしてお金を貯めて、映画を撮るという生活です。

無声映画で活弁をつけて、というスタイルはいつ頃から?

卒業してすぐ(笑)。8ミリで撮った作品に上映会までにアフレコしなければならないのだけど、役者たちがみんな「忙しい」と録音に参加してくれない。困り果てているうちに当日になり、苦肉の策として活弁をつけました。

偶然の産物?ドロ縄?

どちらも、その通りです(笑)。当時はもう、8ミリには同録のシステムがなくて、アフレコというめんどくさい工程が必要だった。もしビデオでやっていたら、同録できていて、活弁の必要はなかったかもしれませんね。

そんないきさつでいきなり活弁をやって、うまくいったんだ。

そうですね。活弁に失敗するかなんていう恐怖より、「上映会の日なのに、完成していないのか」と怒られる恐怖の方が勝ったんです(笑)。

でも、上映会の様子を拝見すると、その才能はあったんですね。これはもう、山田広野にしかできない「山田ワールド」になっている。活弁には、脚本のようなものはあるんですか?

ないです。すべて、その場で考えてしゃべっています。

それもまた、すごい。

カンペは、あるんです。目の前に映っている映像が、言わばカンペです。映ったものに反応して、言葉を出せばいいんです。

なるほどねえ。まあ、プロットは自分でつくって撮影しているわけで、突然知らないシーンが出るというわけでもないですからね。自動的にカンペになるわけだ。

本来、映画というのは完成させたらもう、制作者はなんら手出しできない。そういう怖さというか、潔さがあるわけですが、活弁はそこが違う。 その場で自由自在に編集している感覚も、ありますね。1日に3回上映する機会があって、3回ともストーリーを変えたこともあります。もし、3回連続同じ映像を流して、1話、2話、3話にしろと言われれば、できます(笑)。

結果、石を投げられるかもしれないけど(笑)、 とにかくもう一度観てもらわないと気が済まない。 そういう思いでいっぱいなんです。

今後の活動方針は?

活弁映画は、今後も手を緩めずつくり、上映会を開催していきます。今年はすでに、2本撮り上げています。 そんな中で、長編映画、劇場公開映画を撮るチャンスが、定期的に巡ってくるのが理想的な流れですね。

ジャンルや、作品の傾向に関しては?

特別なこだわりはないです。とにかく、つくりつづけ、発表しつづけることが大切だと思っています。

「どん欲」と言っても間違いのない姿勢ですよね。その原動力は?

僕を知らない人、僕の映画を観たことのない人が、日本中にまだまだたくさんいることでしょうか。結果、石を投げられるかもしれないけど(笑)、とにかく一度観てもらわないと気が済まない。そういう思いでいっぱいなんです。

では最後に、読者である若手クリエイターたちにエールをお願いします。

パソコンやインターネットが発達した現代は、つくりたい、発表したいと考える人たちにとても豊かな環境を与えてくれていると思います。だから、みなさん、どんどんつくり、どんどん発表すべきです。 最初の一本が傑作である必要なんかないと、僕は思う。やり散らかすくらいの心構えで、調度いいと思うのです。 コンテストを否定する気はありませんが、賞を獲得する、審査に通るという点にこだわりすぎるのは、結局、悪しき「待ちの姿勢」につながる。僕は、そう思っています。認められてからでないと始まらないなんてことはまったくなく、認められないけど無理矢理やって、やり続ける中から見えてくるものもあるんですよ。だから及び腰ならず、積極的に発表し、発信してほしいですね。

取材日:2009年1月16日

Profile of 山田広野

int048-07 自作自演活弁映画監督。 1998年より自らが撮影した映画に活弁を付けるという独自のスタイルで上映活動を開始。新宿ロフトプラスワンにおけるリリー・フランキー氏主催イベントにて頭角を現わし、 以後様々な上映イベントにて数多くの作品を制作・発表。 雑誌連載、テレビ・ラジオ出演、ミュージッククリップ制作等様々な方面で活躍中。
 
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