グラフィック2026.07.22

人生では「色に裏切られてきた」色覚特性のプロダクトデザイナーが抱くクリエイティブの芯とは

Vol.247
株式会社博報堂プロダクツ
プロダクトプロデュース事業本部 プロダクトデザイン部
クリエイティブディレクター/プロダクトデザイナー
Shigetake Uchida
内田 成威

赤・緑・青の光を感知する目の器官「錐体」のいずれかに異常がみられる「色覚特性」。近年は「色覚多様性」とも呼ばれます。
株式会社博報堂プロダクツのクリエイティブディレクターで、プロダクトデザイナーの内田成威(うちだ しげたけ)さんは「色覚特性」を持つ当事者です。ものづくりが好きだった幼少期には「色覚特性」の発覚で美術分野への夢をあきらめかけましたが、苦労を乗り越えて描いていた天職に就きました。
人生では「色に裏切られた経験」を数々味わいながらも、努力と工夫によってデザイナーの道に。プロダクトデザインの世界で活躍する内田さんに「色覚特性」が発覚した当時の心境や、クリエイターとしての歩み、ユニバーサルデザインへの熱意もみなぎるクリエイティブへの思いを聞きました。

色覚特性の発覚で「世界がガラッと変わった」

内田さんは「色覚特性」を公表されています。自覚されたのは、いつ頃だったのでしょうか。

小学校3~4年の頃ですね。学校の健康診断で色覚検査があり、発覚しました。元々、幼い頃から紫色の服を好んで着ていたのですが、私にとってはずっと青色に見えていました。母から見ると私はいつも紫色の服を好んで選んでいるように見えていたため、その好みを少し意外に感じていたそうです。ただ、小学校に入ってから色覚特性だと判断されて以降は、自分にとって当たり前だった世界がガラッと変わるほどの衝撃を受けました。
学校で健康診断を受けてから、実際に病院のお医者さんから「将来、色の識別が必要な仕事には就けないかもしれない」と言われたのは、ハッキリと覚えています。乗り物の運転手や電気工事士などに加えて、絵を描くことやものづくりが好きだった自分にとっては「美術分野での仕事が難しい」と言われたのがショックで、その場で夢が閉ざされたような気分でした。

それでも、高校卒業後は金沢美術工芸大学へと進学し、プロのデザイナーになりました。人生においては、色覚特性による苦労もあったのでしょうか。

大学受験が一番大変でした。高校時代は、美術大学に進学するため予備校に通っていたんです。入試では、色にまつわる問題もあって。自分にとっては難しく、見たままでは分からないので「この色はコントラストが高い」「この色とこの色を組み合わせると彩度がこう変わる」と、理屈で覚えていきました。
ただ、無事に合格した大学では周りの友人に助けられ。課題制作のため、画材店でマーカーを選ぶときに「何色?」と聞くと色の名前を教えてくれたり、色覚特性を理解してくれる仲間には恵まれていました。現在の会社でも同様ですし、一人きりで抱え込まなくなりました。

見えないからこそ「色だけではない要素でも勝負できる」

かつては夢が閉ざされるかもしれないと不安をおぼえながらも、現在は、博報堂プロダクツでクリエイティブディレクター 及びプロダクトデザイナーとして活躍していらっしゃいます。

大学卒業後のキャリアとしては2社目で、2007年に中途入社しました。前職はストリートファッション系の会社で、Tシャツやスノーボードなどのデザインを手がけていたんです。元々、大学時代から友人と趣味でTシャツやキーホルダーのグッズを制作していましたし、ずっとその延長線上で仕事を続けられていますね。
現職では主に、企業のプロダクトに関わっています。企業におけるキャンペーンの景品やオリジナルグッズの企画から開発までを手がけており、新商品の開発支援にもたずさわっているんです。ビールサーバーやコーヒーサーバー、スポーツ用品、ステーショナリー(文房具)など、ジャンルや分野も様々ですね。

仕事としてデザインに携わるにあたり、色覚特性をともないながら周囲とのコミュニケーションをはかる場面などで、工夫もあるのでしょうか。

初対面となるクライアントの方には「色覚特性を持つデザイナーです」と前もってお伝えしています。チームで動きますので、プロジェクトにアサインする一般的な色覚のデザイナーも同じくです。クライアントの方に「一般的な色覚と色覚特性の両面から色を検証し、ユニバーサルデザインの観点から提案します」と伝えると、むしろ興味を持っていただけるんですよね。

この仕事をはじめたばかりの頃は一般的な色覚を持つ方とのすり合わせが大変で、自由に表現できないもどかしさがあったんです。ただ、経験を重ねるにつれて、プロダクトデザインでは形や構造、素材など、色だけではない要素でも勝負できるとわかりました。
またユニバーサルデザイン視点での提案も行っており、例えば、注意事項を伝える取扱説明書にしても、赤で特記事項を強調するケースもありますよね。でも、僕のような色覚特性を持つ人間にとっては赤よりも濃い朱色の方が、目立って見える。そこに気付けるのは僕自身の提案価値でもありますし、この仕事の面白さだと思っています。

幼い頃の経験をたよりに「色が伝わる折り紙」を開発

デザイナーとして、クリエイティブを手がけるにあたってのこだわりは何でしょうか。

色に頼らない設計です。僕自身、人生でやはり「色に裏切られてきた経験」がたくさんあったんですよね。花屋で「キレイな水色だな」と思って買った花が家族から「ピンク色だよ」と言われたこともありますし、そうした経験が日常茶飯事なんです。
ですから、平面であっても立体であっても、僕の場合はまず「白黒で全体の骨格を作る」のが基本となっています。色鉛筆のように、前提として色分けが必要なプロダクトの場合には、あらかじめモノ自体に色名を併記して、色に頼らずとも判別できるようにするのもこだわりです。白黒の状態であっても伝わるデザインにはブレない強さがありますし、現在のクリエイティブチーム全体でその考えを共有しています。

そうした過去の経験から、色覚特性の方々に向けたプロダクト「色が伝わる折り紙」を開発されたんですね。

そうです。プロダクトの出発点は、幼い頃に感じていた「色を選ぶ不安」でした。色がたくさん並んでいるとカラフルだとは分かるんですが、区別がしづらいんです。学校で折り紙で遊ぶとき、友だちに「ピンクの折り紙を取って」と言われても正しいか自信がなく、いつも緊張していた記憶があって。同じ不安を抱える子たちのために、身近で色を理解するための何かを作れないかと考えたんです。
実際の「色が伝わる折り紙」では、表面の色に合わせて、裏面に属する色相、色の明暗、色の濃淡をひらがなで記載しています。うぐいす色のような曖昧な色であっても視覚的に分かるように、感覚によらず、情報として色を理解できるプロダクトとして作りました。

さらに、ご自身の経験をふまえた「色覚多様性」がテーマの写真作品「光と感覚」も手がけられました。

社内展示のために、弊社のカメラマンとともに制作しました。作品自体は色鮮やかに見えますが、被写体として使用しているのは、無色透明のポリプロピレンフィルムです。2枚の偏光板に挟み、光を当てると様々に色付く特性を利用しました。
この作品で伝えたかったのは「正しい色は存在しない」ということですね。「あなたが見ている色も、私が見ている色も正解である」というメッセージとともに「誰の見え方も否定する必要はない」という思いを込めました。

クリエイターには「強みとコンプレックス」をかけ合わせてほしい

クリエイターとしてこの先、どのような夢や目標を持っていらっしゃいますか。

昨年新たなクリエイティブチームも立ち上げましたし、デザイナーをずっと続けていきたいです。チームとしてのブランディングに力を入れながら、トロフィーのように歴史や人の記憶に残るような、ユーザーが長く使い続けてくださるプロダクトを世に出していきたいですね。
併せて、色覚特性や色覚多様性、ユニバーサルデザインについての発信も続けたいですし、その視点を活かしてクライアントのお仕事でも僕ならではの提案を行っていきたいですね。その先にある社会課題解決をめざして「自分の視点から見える色の面白さ」を伝える、ライフワークに近い活動を大切に育てていきたいです。

内田さんと同じく、色覚特性を持つ方々との出会いもあるのでしょうか。

少しずつです。最近、私の発信をきっかけに同じく色覚特性を持つ社員がいると知りました。ある日、営業担当者で「実は、私もなんです」と打ち明けてくれて、同じ経験をしてきた者同士だからこそ分かりあえる感覚もありますし、さらに、出会いたいと考えています。

内田さんのように、色覚特性を持つ方々へ伝えたいメッセージも伺いたいです。

僕自身、かつては自分の弱みだと思っていました。ずっと「自分の見え方は間違っているかもしれない」と不安を抱えながら生きていましたが、今は、新たな価値を生み出すきっかけになると信じています。
青だと思っていたものを「紫だよ」と教えられて、相手にとっては親切心だったとしても、自分が否定されたかのような感覚に陥ることもあったんです。ただ、「自分にとって青く見えるなら、それもまた正解かもしれない」と考えられるようになりました。ときには周囲の力も借りながら、勇気を出せるなら、自分が見ている世界を誰かに伝えてほしいと思います。

そして最後に、クリエイティブ業界での成功を夢見る方々にもメッセージをお願いします。

一つは、自分の強みとコンプレックスをかけ合わせる大切さですね。色覚特性は「克服するべき弱み」だと考えていた僕は「色が伝わる折り紙」など、プロダクト開発を通して、自分にしか生み出せない価値に気づいたんです。得意なことと苦手なこと、コンプレックスは誰しもあると思いますが、かけ合わせてみると不思議なことに独自の発想が生まれます。
また、人との感覚の違いにも目を向けてみてください。色の見え方にしても、人によって感覚が異なる。モノの形や質感にしても、同じだと思っているんです。誰かとの違いに目を向けるのは、新たな発見や創造につながりますし、その先では「世界が豊かで面白い」ときっと気が付けるはずです。

取材日:2026年6月4日 ライター:カネコ シュウヘイス 動画撮影:浦田 優衣 動画編集:鈴木 夏美

プロフィール
株式会社博報堂プロダクツ
プロダクトプロデュース事業本部 プロダクトデザイン部
クリエイティブディレクター/プロダクトデザイナー
内田 成威
金沢美術工芸大学美術工芸学部製品デザイン専攻卒業。2007年に博報堂プロダクツ入社。
クライアント商品の企画・開発からプロダクトデザイン、キャンペーンプロモーションのグッズ制作まで、幅広い領域を手がけるクリエイティブディレクター。独自性の高い発想力と造形力を強みとし、多様なプロジェクトを推進している。また、デザイナーでありながら色覚特性を持ち、自身の見え方と感性を活かした色覚多様性・インクルーシブデザインの提案や作品制作にも積極的に取り組んでいる。

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP