失敗を恐れて小器用に お利口にしていては進歩はありません

Vol.59
映画監督 山崎貴(Takashi Yamazaki)氏
 
山崎貴さんです。特別な説明はいらないでしょう。『ALWAYS 三丁目の夕日』を大ヒットさせ、日本映画に新しい魅力の萌芽を植え付けた人です。VFX出身の映画監督はもう珍しくはありませんが、その技術を生かして心に響くメッセージを発信できる人はそう多くない。僕はそういう意味で、とてもフェバリットですし、今後に大きな期待を寄せています。 そんな山崎さんに、昨年9月公開の『BALLAD 名もなき恋のうた』DVD化PRの一環でお話をうかがうことができました。

『BALLAD 名もなき恋のうた』が、いよいよDVD化される。

『BALLAD 名もなき恋のうた』2010.4.7.DVD&Blue-ray同時発売!

『BALLAD 名もなき恋のうた』
2010.4.7.DVD&Blue-ray同時発売!

DVD化にともなって、あらためて、『BALLAD 名もなき恋のうた』のPRをお願いします。どんなところを楽しんでもらいたいですか。

主演の2人の心の移り変わり。戦乱の時代に戦(いくさ)に巻き込まれていく武将と姫の心の動きを丁寧に追いかけたドラマになっているので、ぜひそこをじっくりと観ていただきたいと思います。「いい人」のイメージが強い草彅剛くんの、ちょっと恐い武将ぶりも、現代劇の多い新垣結衣さんの姫役も、どちらもとても魅力的に仕上がっています。

この作品は、『クレヨンしんちゃん』劇場版のリメイクということでも話題になりました。

同作のストーリーに惚れこみ、企画を立ち上げたのは僕自身です。大成功した作品のリメイクにはリスクがあるとわかっていますから、無茶なことしているという自覚も十分にありましたよ(笑)。でも、「やりたい」と感じた気持は大事にしたいし、リスクにひるむのが悔しくもあり、突き進みました。

なるほど、「やりたい」を大事にしたいという気持ちですね。その「やりたい」は、戦国合戦ものを「やりたい」だったのでは?

たしかに、その側面は強いです。戦国合戦ものが、大好きですから。大好きな合戦ものにチャレンジするには、完全に納得できる、自分にとって№1のストーリーが必要でした。それが、このリメイクにこだわった理由でもあります。

「今回は、VFX少なかったね」とよく言われます。 実際には、バリバリに使っているんですが(笑)。

僕も合戦ものは大好きなので、ピンとくるものがありました(笑)。はっきり申し上げて、かなりいいできと思います。

デジタルを駆使して合戦を描いたらどれくらいできるかは、僕自身もとても興味あることでした。たとえば今回は、考証とディテールにかなりこだわった。時代設定から言って城はどうあるべきかとか、建物内の柱は、当時はカンナではなく手斧で削っていたとか。後者は美術さんの努力で、前者はわかっていても予算的にそんなセットが組めないという難題をデジタルで解消したわけです。

長槍部隊同士の叩き合いの戦いや、「終業時間の太鼓が鳴ったろう、帰れ」と追い返すエピソードなど、通も唸るような描写があちこちに。

そう言っていただけると、嬉しいですね。草彅剛くんや新垣結衣さんを観に来たお客さんが、「へえ、戦国の合戦って、ああなんだ」と意外な勉強した感じで帰ってもらえたらいいなとも考えました。あの時代の合戦は「ルールある戦い」だったし、合戦上手だからこそ陥る隙を就き合うような頭脳戦の側面も大きかったんです。

戦場を鳥瞰で自由自在に切り取るカメラワークも、印象的でした。デジタルなしで構想したら、予算はいくらかかるかわからない贅沢な映像だと思いますよ。黒澤明監督がご存命なら、「俺にもやらせろ」と叫んだんじゃないかな(笑)。

僕も大ファンであるので、お元気だったら、何があってもお見せして、感想をうかがいたかったですね。「きみ、やっぱり本物じゃなきゃだめだよ」と言われて、しょんぼりして帰ってくるかもしれませんが(笑)、それでもいい。

失敗しちゃいけないんだけど、失敗を恐れて小器用に、 お利口にしていては、進歩はありません。

『BALLAD 名もなき恋のうた』を拝見してつくづく思うのは、「VFXって、すごい進歩をとげたな」です。正直、そう思ってみなければわからない合成ばかりでしたし、とても自然な感覚で観ることができました。

「今回はVFX少なかったね」とよく言われます(笑)。実際には、バリバリに使っているわけで、「やったね」という感想は正直あります。たしかに技術もスタッフの技量もとても上がって、VFXはかなり進歩したと実感します。

一昔前は、「ああ、ここCGだよお」とわかる合成が多かったですけどね。むしろ使わない方がいいのでは? と思うような作品や場面もけっこうあった。

僕だって、公開してみて「ああ、やっちゃった」と思うような経験ありますよ。でも、それを恐れずにチャレンジすることがVFXには必要ですね。失敗しちゃいけないんだけど、失敗を恐れて小器用に、お利口にしていては、進歩はありません。 かなり進歩しましたが、まだまだ進歩の余地のある分野ですから、そういう姿勢は大切にしていきたいです。

突然ですが、VFX一切なしの山崎貴監督作品を観てみたくなった。そういうものが発表される可能性は、ありますか?

もちろんあります。興味もある。ただ、ある時期、「山崎はCG上がり」と言われるのがすごくいやで、反発心からVFXのない作品を撮ろうと考えてました。そのころにくらべると、実は、今は、そういう気持ちは薄らいでいるんです。いろいろ言われても気にならなくなった。 だって今や、デジタル合成を一切使わない映画なんてあり得ないでしょう。どこでどう使うかは選択だけの問題で、いちいちデジタルがあるからどうのなんて、つくる人も、観る人も気にしてなんかいない。大切なのは、できあがった映像ですからね。ある時期までは、「これは山崎がVFX一切なしでつくりました」という作品を、みんなにバーンとお見せしたい気持ちありました。でも、今はもう、そういうことへのこだわりは、ほとんどありません。

ところで、DVDには特典映像がつきものです。購入する人も、十分にそこに期待してると思うんですが。

僕自身、DVDを購入の最大の動機が特典映像だったりするので、自分の作品をDVD化する際には時間と予算の許す限りのめりこんでつくります。 僕は、特典映像は「ごった煮」であるのがいいと思う。つくる側が見せることを限定するのではなく、いろいろと、しょうもないものも(笑)かまわずに特典映像として提供して、観る人に選んでもらう。作品を立体的に、マルチに楽しんでもらうには、それがいいと思っています。誰がどこにひきつけられるかなんて、事前にはわからないことですからね。

最後に、読者のクリエイターの皆さんに、エールを贈っていただきたいです。

いろいろ制約があるだろうし、うまくいかないことの方が多かったりするでしょうが、「ものづくり」に携わっている皆さんには、ぜひその喜びを忘れてほしくありません。 僕だって実際には、愚痴や文句を言いたくなることもありますが、でも、ものづくりに携わっていられる状況そのものを「贅沢だよなあ」と思い直すものです。いろいろ言うけど、「結局それ、やりたくってやっているでしょう?」と自問すると、答えは「そうです」もんね。ものづくりを仕事にできるなんて、そうそうできることじゃないし、ほとんどの人が子供のころの夢を叶えていることにもなるのだから、それだけですごいし、幸せなことだと思うんです。

取材日:2010年2月24日

Profile of 山崎貴

山崎貴氏

1964年生まれ、長野県出身。1986年に株式会社白組に入社。CMや映画でのミニチュア製作、SFXやデジタル合成を担当する。2000年公開の『ジュブナイル』で監督デビューし、 2005年、『ALWAYS 三丁目の夕日』で大ヒットを記録する。同年、第30回報知映画賞で最優作品賞、日本アカデミー賞の監督賞を受賞。2006年の日本アカデミー賞では主演女優賞を除くすべての部門(12部門)で最優秀賞を受賞した。

【監督作品】 2000年 『ジュブナイル』 2002年 『Returnerリターナー』 2005年 『ALWAYS 三丁目の夕日』 2007年 『ALWAYS 続・三丁目の夕日』 2009年 『BALLAD 名もなき恋のうた』

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