グラフィック2011.02.18

「こびと大百科」は 心からこれがやりたかったという作品

Vol.70
イラストレーター なばたとしたか(Toshitaka Nabata)氏
 
独特の作風を持ったイラストレーターです。その作風でつくりあげた、「こびとづかん」や「こびと大百科」が絵本として大ヒットし、「こびと」の世界が子どもたちに強烈に支持されています。 生まれ故郷である石川県でコツコツと書きつづけ、新聞社のコンクールで受賞したのを機にプロとしての活動を開始。すばらしい出会いがあって、「こびと」を世に送り出すチャンスを手にしました。サクセスストーリーの渦中に身をおく方と言っても大げさではないなばたさんに、いろいろな考え、胸中をいろいろうかがえたインタビューでした。

「こびとづかん」は3歳から80歳まで 幅広く読んでもらいたいと考えてつくりました。

なばたさんの、肩書きは?

基本的に気にしませんが、あえて聞かれたらイラストレーターと答えています。

絵本作家では、ない?

その自覚は、ないですね。

こびとづかん

「こびとづかん」
(2006/長崎出版)

「こびとづかん」は、どんな風にして誕生したんでしょう。

あれは、僕がずっと昔から温めていた世界であり、キャラクターです。それで、いわゆる自主制作で冊子にまとめて、デザインのイベントで店頭販売してみて、500部売れるようだったら出版社に売り込もうと決めていました。 そうしたら、なんと売れた(笑)。それで、持ち込んだ出版社で作品を観てくれた編集者の方が、「絵本にして出そう」とアドバイスをくださいました。そしてその方が、長崎出版に移籍して出版してくれたのが「こびとづかん」です。

「これは、いける」という確信があったんでしょうね。

どうなんでしょうか。僕が出版社の社長だったり、編集者だったら二の足を踏むかもしれませんね(笑)。編集者が個人的に気に入ったとしても、出版社としてあれを出すのは、かなり勇気がいることだけは確かと思います。ですから、その勇気を持ってくださった長崎出版さんには、心から感謝しています。

なばたさん自身には、確信は?

ないです(笑)。確信はなかったですが、ターゲットの年齢層を特別定めずに制作したことが、結果的に良かったようです。通常絵本というのは子どもを意識してつくると思うんですけど、「こびとづかん」は3歳から80歳にまで幅広く読んでもらいたいと考えてつくりました。

マーケティング的には、無謀な着想なんでしょうね。

そういう意味では、何も考えずにつくったに等しいです。マーケティングなし、宣伝なしで、出版できただけで満足していたんです。

それが、出してみたら、売れた。大評判になった。

すぐに売れたわけではないですが、いつの間にか口コミで広がったようです。大体、書店がとても困惑していたらしいですからね。一般の書店では、「これは、無理です」という反応ばかりで、児童書の棚には置いてもらえなかったらしいです。

こびと大百科

「こびと大百科」
(2008/長崎出版)

書店の反応がそんな感じで、よくまあヒットしたものですね。

「遊べる本屋」として有名なヴィレッジヴァンガードが、おもしろがって、平積みしてくれたのが大きかったようです。それでまず、20代女性が買ってくれた。実を言うと、こどもたちから愛読はがきが来るようになったのは2年半ほど後に出した「こびと大百科」からなんです。

なるほど。今や子どもに大人気なわけですが、火を付けたのは20代女性だったんだ。

「こびと大百科」は、僕にとっても、心から「これがやりたかった」という作品。僕の少年時代にはUFOや探検隊の本やテレビ番組のような「いかがわしいもの」(笑)が想像力をかき立てたものですが、今の時代の子どもたちにとってのああいうものがつくりたかった。 最近は、サイン会に、何度も読み返してぼろぼろになった「こびと大百科」を手にした「こびと博士」が大勢来てくれて、ちょっとぐっときます。ああ、僕のつくったものは間違ってなかったって。 今後、いろんな作品を描いていくことになるでしょうが、「こびと」はライフワークとしてずっと取り組んでいきたいです。

ディズニーの影響は受けていると思います。 かわいらしさの中にある「気持ち悪さ」が好きでした(笑)

イラストレーターとしてのデビューは、2002年?

そうですね、2002年に「GEISAI-3毎日新聞スカウト賞」をもらって、2003年に毎日新聞「weeklyくりくり」というコーナーで仕事をいただけました。 それまでは、地元でウェルカムボードを描く仕事をしていたので、あの賞と仕事は僕にとってはターニングポイントです。

地元というのは、石川県ですね。東京に出てきたのは、いつですか。

2007年です。それまではずっと、地元で活動していましたが、東京での打ち合わせが多くなったので拠点を移すことになったのです。

そういう事情がなかったら、拠点は石川県のままだった?

そう思います。地元は住みやすいですし、石川県で済むならわざわざ外に出る必要はないと考えてました。今も月に1度は地元に帰っています。結婚して子どもができたら、たぶん石川県に戻りますよ。

10人中8、9人は、受賞したら東京に出てくると思うんですけど。その方が活動はしやすいはずですから。

そんなこと考えている暇なかったですね(笑)。賞をいただき、仕事がいただけるようになって、おもしろいものが描きたいということにだけ没頭してましたから。

作風、ワンアンドオンリーと思います。このタッチは、いつから?

昔から(笑)。専門学校生の頃からずっと、こういう絵を描きつづけていました。さかのぼれば、小学校、中学校の頃から描きたいことは変っていないと思います。

悪夢、じゃないですよね。

違いますよ、Happyを描いているつもりなんですよ僕としては(笑)。ただ、批評家には「口を開けて笑ってはいるが、笑っているようには思えない」と指摘されたことがあります。なるほど、そうなのかと妙に納得しましたが。

こういう作風は、世の中に受け入れられると思っていましたか?

変な自信だけはあって、疑ったり、心配したりをしたことはありませんでした。描いていて、楽しくてしかたないのは今も昔も変わりありません。

なるほどねえ。

厳密に言うと、描く作業自体はどちらかと言えば苦手です。ただ、僕の場合は、できあがったものを見るのが好き。思い切って言いますが(笑)、自分の描いたものを見るのが好きなんです。次にどんなものができあがってくるのだろうというわくわく感が楽しくて、描きつづけているんです。だからもっと本当のことを言えば、思い浮かんだものがぱっと形になる手立てがあるなら、それが最高に理想的な状況です。

影響を受けた作家はいますか?

たとえば、ディズニーの影響は受けていると思います。子どもの頃にとても好きで、何が好きかと言えば、彼の描くもののかわいらしさの中にある「気持ち悪さ」が好きでした(笑)。「やっていることはハッピーだけど、どこなに異様さが感じられる」――それを抽出してみたいという気持ちは、僕がイラストを描く大きな原動力になっている気がします。

「こびと」に関わる人たちが全員ハッピーになり、 ハッピーでいつづけてくれるのを願っているんです。

世に出るに当たって、いろんな出会いがあったようですね。

賞をくださった方、仕事をくださった方、「こびと」を発掘してくださった方、みなさんに感謝の気持ちでいっぱいです。そういう出会いがなければ、今でも石川県の実家にパラサイトして、ニートみたいな生活をしていたはずです(笑)。

プロになるまでにも、かなり時間のかかっているタイプですよね。

自分でも、仕事にできるなんて思っていませんでしたからね。周囲からも、「いつまでそんな絵を描いてんだ」と言われてました。唯一何も言わなかったのが、両親。好きなだけ描かせてくれて、だまって見守ってくれた両親にも感謝の念が絶えません。

なばたさんも、「こびと」も、すくすくと育っている感じですね。

「こびとづかん」キャラクターグッズの一部 (写真はこびとづかん公式WEBショップhttp://shop.kobito-dukan.com/より)

そうですね、今はグッズ展開もしているのですが、この分野でも信頼できる方と出会うことができて、今はすべてそちらに任せています。 僕の考えや志向を僕以上に理解してくれて、「安売り」せずに「こびと」ビジネスを展開してもらっていると感じます。

いいですね。心をひとつにしたチームができあがっているように思える。

そう思います。ですから、「こびと」に関わる人たちが全員ハッピーになり、ハッピーでいつづけてくれるのを願っているんです。

今後も、描く姿勢は変らない?

そうありたいですね。自分の中から出てくるものを信じて描きつづけていきたいですね。

では最後に、読者のクリエイター諸氏へのエールをお願いします。

やめないこと、「変な自信」(笑)を持ってやりつづけることが大切と思います。つづけている限り、負けじゃない。僕はそう思っています。

取材日:2011年2月18日

Profile of なばたとしたか

1977年、石川県生まれ。2002年、GEISAI-3毎日新聞スカウト賞受賞、2003年、毎日新聞「weeklyくりくり」に作品を連載。『美人とは何か?』(中村うさぎ著/文芸社刊)で挿画を担当。テレビ番組のマスコットキャラクターも手掛けている。初の絵本『こびとづかん』、続編の『みんなのこびと』(長崎出版刊)は大きな反響を呼び、子どもから大人まで幅広い層で人気を集めている。

絵本 2006年「こびとづかん」 2007年「いーとんの大冒険」 2007年「みんなのこびと」 2008年「こびと大百科」

その他作品 2003年「滑稽ブギ」毎日新聞『くりくり』連載より 2003年「変愛観」毎日新聞『くりくり』連載より 2003年「主獣関係」 毎日新聞『くりくり』連載より 2005年「美人とは何か?」(中村うさぎ著)イラスト担当 2007年テレビ金沢 情報番組「Smile!」キャラクター

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