仮面ライダー「カブト」「電王」「クウガ」…“平成ライダー”監督が明かす、ヒーローの撮り方とメガホンの重圧
平成ライダーシリーズをはじめ、数多くのヒーロー作品を撮り続ける映画監督の柴﨑貴行さん。最新監督作『死神遣いの事件帖 終(ファイナル)』では、作風の異なるアクション時代劇を描いています。柴﨑さんのキャリアの軸にある仮面ライダーは、時代を問わない子どもたちにとってのヒーローです。将来、仮面ライダーを見てクリエイターを目指す可能性がある以上は「業界の“スタート地点”を支えている」という誇りもあると語ります。熱い思いを抱く柴﨑監督に映像業界での歩みや、最新監督作のみどころ、そして、クリエイターへのメッセージを聞きました。
フィルム撮影の学びが監督としての礎に
四半世紀にわたって、ヒーロー作品に関わる柴﨑監督。両親が共働きで、幼い頃からテレビっ子だったそうですね。
父は自動車関係の部品メーカーに勤めるサラリーマン、母は看護師でした。当時は、小学校から帰ったら真っ先にテレビを付けるのが日常で、留守番をしながらよく見ていました。大人になった今も自宅に帰ったら部屋の電気よりテレビを付けるのが習慣になっています。
当時から、ヒーローや特撮へのゆかりはあったんでしょうか?
見ていましたが、特別好きだったわけではないです。男子が普通に見る程度で、小学校で友だちと戦隊ヒーロー『太陽戦隊サンバルカン』(1981〜1982年)ごっこをやったのは覚えています。仮面ライダーもオダギリジョーさんが主演の平成ライダー1作目「クウガ」(2000〜2001年)で初めて関わるまで、シリーズを見たことがほとんどなかったです。
意外です。高校卒業後は映像関係の千代田工科芸術専門学校に進学したそうですね。
サラリーマンの父が同じ日常を繰り返しているように見えて、僕は毎日「違う刺激がほしい」と思ったんです。テレビの映画番組はよく見ていたし「映画を作るのはおもしろそう」と思って、入学手続きギリギリのタイミングでとっさに決めました。
専門学校では、何を学んだんですか?
一番は、フィルム撮影ですね。入学当時はフィルムからデジタルへの移行期で、フィルム撮影を学べるのは貴重だったんです。映像制作の流れや現場で使われる用語は変わりませんし、監督となった今も当時の経験は役立っています。テレビ版の仮面ライダーは、映画と同じ24コマで撮影して、テレビ用に30コマへ変換する作業があるんですが、そこでもフィルム撮影を学んだ知識がベースとなっています。
立てた目標に沿ってスピード出世を叶えた
専門学校時代には「燃えろ‼ロボコン」(99〜00年/※以下、ロボコン)をきっかけに、助監督として特撮に関わりはじめます。
2年生の夏に学校へ通いながら、特撮の現場で働きはじめました。学生として東映の撮影所を見学したときに、スタッフの方々が派遣会社から派遣されていると知って、すぐに履歴書を送ったんです。後日、派遣会社から「いつから来られる?」と電話を受けて、トントン拍子で決まりました。ただ、特撮の現場で働きたいと思ったのではなく、あくまでも、映像の仕事に就きたいと思っていただけだったんです。
きっかけが他のジャンルだったら、その道に進んでいた可能性も?
そうかもしれません。学生時代はいわゆる“普通”のドラマや映画を作るものだと思っていましたから。ただ、監督や助監督といった演出サイドの求人がなかなかなく、たまたま現場に関われたのが特撮でした。
初めて特撮に関わった「ロボコン」の現場では、何を担当していたんですか?
助監督にはチーフ、セカンド、サードがいて、僕は一番下のサード助監督でした。美術まわりを担当して、現場ではキャラクターの衣装を運び、劇中に登場する「ロボパチ新聞」の原稿も書いていました。
その後も助監督として、仮面ライダーシリーズの「クウガ」、「アギト」(01〜02年)、「龍騎」(02〜03年)に関わり、続く、半田健人さん主演の「仮面ライダー555」(2003〜2004年)ではチーフ助監督に昇格します。
同時間帯の番組が「ロボコン」から「クウガ」に引き継がれて、制作チームもそのまま移ったんです。サード、セカンド、チーフといわば“出世”できましたが、戦略的に考えてはいました。「ロボコン」で働きはじめた時点で、監督を視野に年齢ごとの目標をノートに書き出していたんです。清潔感を大事にするなど、作品の舵取りをするプロデューサーが「任せたい」と思う人物像を演じていました。
そんな柴﨑さんを、認めてくださった方がいたんですね?
「クウガ」の現場で出会った、鈴村展弘さんです。チーフ助監督の鈴村さん、セカンド助監督の田澤裕一さんと僕の3人が“助監督チーム”として動いていて、当時から「コイツを早く上に行かせたい」と認めてくださっていたそうなんです。チーフ助監督に抜てきされたのは24歳で、昇格までのスピードが異例だったようで、撮影所では「何をすれば、そんな若さでチーフ助監督になれるんだ!?」と驚かれました。
仮面ライダーでは「悪」から発想を広げる
特撮に関わって8年目。水嶋ヒロさん主演「仮面ライダーカブト」(2006〜2007年)の第43話で監督デビューを果たします。
東映の白倉伸一郎プロデューサーが、抜てきしてくださったんです。仮面ライダーの現場は若いスタッフにチャンスをくれる環境ですし、僕ひとりの力ではなく、チーム全体で支えてもらった結果でした。
助監督から監督になって、心境の変化もあったんでしょうか?
想像以上に責任が重かったです。監督にとって一番の仕事は現場での「最終判断」ですが、僕の決定が自分自身だけではなく、作品全体の評価にも関わってくる重圧はいまだに強く感じています。正解も不正解もない世界ですし、常に不安はあるんです。特に、激しいアクションシーンでは「最終判断」によって事故が起きる可能性もありますし、重圧からか、現場で事故が起きる夢を見てハッと飛び起きる日もしょっちゅうあります。
そして、映画『仮面ライダー×仮面ライダー×仮面ライダー THE MOVIE 超・電王トリロジー EPISODE YELLOW お宝DEエンド・パイレーツ』(2010年)では、念願の長編映画監督を務めます。
映画館で自分の作品が上映されるのは、長年の目標のひとつでした。先に述べた目標を書いたノートにも「30歳くらいで映画を撮りたい」と書いていて、撮影当時は31歳でしたし、有言実行できたんです。『〜超・電王トリロジー』以前に、仮面ライダーシリーズの佐藤健さん主演作「電王」(2007〜2008年)に登場するキャラクター・モモタロスの短編映画も撮っていましたが、長編映画ならではのプレッシャーを感じながらも「やってやろう!」と、意気込んでいました。
その後、特撮に関わって17年目には『特命戦隊ゴーバスターズ』(2012〜2013年)をきっかけに、スーパー戦隊シリーズにも関わりはじめます。
プロデューサーの意向で、両方を担当することになったんです。仮面ライダーシリーズとは異なる現場で、映像づくりの幅も広がりました。それぞれのシリーズでターゲットが違い、スーパー戦隊シリーズは幼児向けで、仮面ライダーシリーズよりも”わかりやすさ”が求められるんです。セリフが理解できない子どもにもわかりやすくするため、オーバーな表情やリアクションを演出しています。
ヒーローといっても異なり、スーパー戦隊シリーズには、仲間が「力を合わせて戦う美学」があって。複数のライダーが登場する作品もありますが、仮面ライダーシリーズは「個対個で戦う美学」がある印象です。
そうですね。スーパー戦隊シリーズは異世界の侵略者と戦う世界観が多く、仮面ライダーシリーズは同族の争いがベースにあります。原点となった初代『仮面ライダー』で、悪の秘密結社「ショッカー」に改造された主人公の本郷猛が、ショッカーを抜け出し、やがて対峙する“抜け忍”のような構図は昭和、平成、令和と受け継がれているんです。そのため、勧善懲悪のスーパー戦隊シリーズとは違い、仮面ライダーシリーズの制作では「悪」から作品の発想を広げています。
ヒット作を生み出す以上に「監督で居続けるのが重要」
柴﨑監督の長編映画最新作『死神遣いの事件帖 終』が、2025年6月13日より全国公開。ヒーロー作品とは作風が異なる、アクション時代劇です。
シリーズの集大成となります。最新作では主人公・幻士郎と、死神・十蘭の関係性をしっかり描きました。過去作が分からなくても入り込めると思いますし、本作からさかのぼってもらえるならうれしいです。
シリーズ1作目『死神遣いの事件帖 ‐傀儡夜曲‐』の公開は2020年6月。『〜終』の5年前で、当時はコロナ禍のまっただ中でした。
1作目の撮影が2019年末で、公開したのは最初の「緊急事態宣言」が解除された直後でした。当時、映画は不要不急のもので「なくても生きていける」とされた時期だったんです。ただ、他の作品が軒並み公開を延期する状況下で公開へと踏み切り、苦しい時期であっても「映画はやはり必要だ」と再認識した作品でした。
作風の違う撮影現場では、ヒーロー作品と異なる刺激もありましたか?
京都の撮影所で、ヒーロー作品の現場とは違うスタッフで作品と向き合えるのは新鮮です。時代劇シリーズ『暴れん坊将軍』のスタッフとの縁もありました。時代劇は小道具をいちから作らなければいけなかったりと、現代劇よりも手間がかかるんです。ただ、僕が子どもの頃に見ていたような時代劇が地上波から消えてしまった時代で、これからも力を注いでいきたいジャンルではあります。『死神遣いの事件帖』シリーズは最新作で「ファイナル」となりますが、別のシリーズも視野に、時代劇を作り続けていきたいです。
映画監督として、将来をどのように描いていますか?
46歳となりましたが、この世界へ入った当時に掲げた「ハリウッド映画を撮りたい」という夢が叶っていないんです。道なかばですし、思い描く目標は様々あります。ただやはり、仮面ライダーシリーズは自分の軸として撮り続けたいです。仮面ライダーで初めてヒーローにふれる子どもたちが将来、映像クリエイターとして活躍する可能性もありますし、業界の“スタート地点”を支えている誇りは大切にしていきます。
最後に、映像業界での活躍を夢見るクリエイターへのメッセージもいただきたいです。
先日、僕も登録する日本映画監督協会で「映画監督とは何か」が話題になったんです。スマホひとつあれば誰でも映像クリエイターを名乗れる時代ですし、映画監督になるハードルも下がりました。ただ、僕としては「監督で居続けるのが重要」だと伝えたいです。単発のヒット作を生み出せたとしても、その後も生み続けるのは大変で、監督であり続けるためには映像づくりにおける基礎知識や経験から浮かぶ戦略も必要になってきます。僕自身、助監督の期間は短かったんですが、当時の経験は今も役立っているんです。ですから、将来の活躍を夢見るのであれば、下積み期間を無駄と思わず、続ける力を養ってほしいと思います。
取材日:2025年4月23日 ライター:カネコシュウヘイ スチール:あらいだいすけ 動画撮影:村上光廣 動画編集:布川幹哉
2025年6月13日(金)【映画「死神遣いの事件帖 終」】

監督:柴﨑貴行
出演:
鈴木拡樹 安井謙太郎(7ORDER)
生駒里奈
梅津瑞樹 崎山つばさ 陳内将 小林亮太
森崎大祐 田淵累生 松浦司 松本寛也 櫻井圭登
松角洋平 田辺幸太郎 浜田学 峰蘭太郎
神尾佑 西田健
脚本:須藤泰司
音楽:YODA Kenichi
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◆公式サイト(死神遣いの事件帖):https://shinitsuka.com/
◆映画配給:東映ビデオ
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