「MOZU」「ダブルフェイス」で感じた手応え 視聴者に楽しみにしてもらえる作品作りを

Vol.106
プロデューサー 井上衛(Mamoru Inoue)氏
WOWOWとTBSの共同制作で注目を集めたテレビドラマ「MOZU」。

本格的なハードボイルド小説が原作で、息も付かせぬ展開、爆破シーンなどのハードアクションが話題となりました。この「MOZU」や、同じくTBSとの共同制作「ダブルフェイス」などを手がけたWOWOWプロデューサー、井上衛さんが登場!ご自身のキャリアから、「MOZU」「ダブルフェイス」の裏話まで、気になるお話をたっぷりと伺いました!

「MOZU」Season1&2  4週連続一挙放送中!

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WOWOW×TBS共同制作ドラマ「MOZU」。 監督に映画「海猿」シリーズ、ドラマ「ダブルフェイス」を手がけた羽住英一郎、音楽にはドラマ「SP」「ダブルフェイス」「軍師官兵衛」などの菅野祐悟ら強力なスタッフと、西島秀俊、香川照之、真木よう子ら豪華な俳優陣が揃った前代未聞のエンターテインメント大作だ。

【ラインナップ】 ・MOZU Season1 ~百舌の叫ぶ夜~ 8月16日(土)毎週土曜午後3:30~(全10話)[第1話無料放送] 爆弾事件が奪ったのは最愛の妻の命。夫である警視庁公安部の刑事・倉木が、時には違法な手段をも使い、妻の死の真相を暴くため巨大な陰謀に立ち向かう!

・MOZU Season2 ~幻の翼~ 9月6日(土)午後3:30~(全5話)[第1話無料放送] Season1の半年後を描く。執拗に妻の死の真相を追い続ける倉木、そして仲間たち。国境を越えたさらなる陰謀が倉木らの前に立ちはだかる!

公式ページ:http://www.wowow.co.jp/drama/mozu_wowow/

 

学生時代に舞台に親しむ 舞台に関わりたくて新聞社から劇団四季へ

「MOZU」は大ヒットドラマとなりましたね!反響はいかがですか?

WOWOWだけで放送しているドラマとは桁違いの反応がありました。直接感想を聞く機会も多いですし、皆さんに話題にしてもらえることも多く、ネット上での盛り上がりも含め、今までにはない反響です。

井上さんはWOWOWの社員プロデューサーですが、WOWOWに入社されたのは?

実はWOWOWは3社目なんです。学生時代に舞台の真似ごとをやっていたので、社会人になってもイベントや芝居の企画に関わりたいと思い、最初は新聞社に入社し、希望して、文化企画部門に配属になりました。あまり深い企業研究もせずに就職したのですが、当時の新聞社の企画部門は、開催されるイベントを記事にするために記者につなぐような役割が主だったんですよね。2年半くらい在籍したのですが、やはり舞台の仕事がしたい気持ちが強くなり、劇団四季に入社しました。

劇団四季といえば、日本を代表するミュージカルカンパニーですよね。

当時は若くて熱意があったので(笑)、いきなり社長の浅利慶太さん宛に熱い気持ちを綴った手紙を書いたんですよ。浅利さんに「せっかく新聞社に勤めているのに、辞めてウチに来るなんてバカだぞ」と言われつつも、入社しました。劇団四季では最初は団体営業をして、その後宣伝・プロモーションの仕事をしたのですが、とにかくハードでしたね。精神的にも肉体的にも本当に大変でしたが、おかげで鍛えられました(笑)。劇団四季で4年半働いてから、2002年にWOWOWに入社しました。

WOWOWに転職しようと思ったのは?

実は仕事がつらかったので(笑)転職を考えて色々な会社を回っていたんですよ。その中でWOWOWがたまたまBSデジタルが始まるということで大量中途採用を実施したので、運良く採用してもらえたんです。 WOWOWは海外ドラマを数多く買い付けて放送しているのですが、その頃はちょうどオリジナルドラマを作り始めた時期でもありました。前職経験もあって、最初は宣伝部門にいたのですが、希望を出して2005年に制作部門に異動したんです。

希望が叶い制作部門へ 初プロデュースはファンだった吉田修一原作

制作部門を希望したのは、ドラマを作りたいという熱い思いがあったからですか?

いえ、そこまで熱くなかったのですが(笑)。まだオリジナルドラマを作り始めたばかりで、みんなで手探りでモノ作りをしている様子が楽しそうで、ぜひ自分もその中に入りたいと思ったんですよね。小さい会社で風通しも良いので、「やりたい!」と言い続けていたら希望を叶えてくれました。

制作部門に異動して、最初に担当した番組は?

スポンサー付きの情報番組でした。あまり予算もなかったので、社員はプロデューサー1名と、アシスタントの私、そして制作会社、というミニマムな体制でしたが、すべてが新鮮で楽しかったですね。ドラマのアシスタントプロデューサーも1年くらい経験しながら、ドラマの企画を出し続けていました。

企画が初めて通ったのが、初のプロデュース作品「春、バーニーズで」なんですね。

もともと原作の吉田修一さんの大ファンだったんです。2006年の作品ですが、私は今でも自分の中でこれが最高傑作だと思っています(笑)。自分にも会社にもコネクションはないので、監督の市川準さんにいきなり連絡を取り、主演の西島秀俊さんに対してもいきなり事務所に電話をかけました。西島さんは原作を読んで「西島さんしかいない!」と思ったんですよ。

すごい!アグレッシブですね!

いえ、普段はヘタレなんですけど(笑)。当時は必死だったんですよね。 一生懸命に作って、自分では最高傑作だと思っているほどに良いものができたのですが、目立った実績は出ませんでした。それでも会社は「好きにやってみたら?」と見守ってくれて、その後もコンスタントに作らせてもらいました。会社として人材を育ててオリジナルドラマを作っていこうと強い意志があったので、何とかここまでやってきました。

井上さんの中で、転機になった作品、勉強になった作品は?

すべての作品で勉強させてもらっていますが、特に「シリウスの道」の石橋冠監督にはたくさんのことを教わりました。有名な大ベテランの“大御所”監督ですが、若いスタッフ全員の名前と出身地を覚えているんですよ。また、「現場のスタッフは、まずはほめるべき」「試写のエンドロールが終わったら、誰よりも先に局のプロデューサーが『面白い!』と言うべき」など、局のプロデューサーとしての基本的な姿勢やあり方を教わりましたね。

強い信頼感・一体感があったからこそ ハードアクションが実現

TBSとの最初の共同制作「ダブルフェイス」は、どのようにして制作が決まったのでしょうか?

TBSとWOWOWの人事交流は以前からあり、共同制作の大枠も決まっていました。ダブルフェイスは香港映画の「インファナル・アフェア」がモチーフになっているのですが、キャストをあたりつつ、監督を探している時に、アクションも撮れて男の色気も撮れるロボットの羽住英一郎さんの名前が挙がり、連絡を取りました。するとたまたま、ロボットのプロデューサー森井輝さんと羽住さんで「もっと面白くて日本的なインファナル・アフェアを作りたい」と話していたようで、トントン拍子に決まりました。

「ダブルフェイス」が好評で、いよいよ「MOZU」の制作に入るわけですね。キャストもスタッフも、2作ともほぼ同じですね。

「ダブルフェイス」の制作中から、「このチームでもっと面白いことができる!」と話していたんですよ。「ダブルフェイス」も「MOZU」もハードなアクションがありますが、スタッフ同士の信頼感や一体感がないとあのような映像は撮れません。このチームならば必要なチームワークがあるので、もっと挑戦できる!と、スタッフ一同で盛り上がって「MOZU」が生まれました。

「ダブルフェイス」「MOZU」で学んだことは?

羽住監督が「とばしのテクニック」と呼んでいるのですが、面白い絵を重ねることを優先した作り方があることを発見しましたね。冷静に見ると「何でこの人がここにいるの?」というようなツッコミたくなるところもあるのですが、つじつまを合わせることより、見ている人の気持ちを離さないことを大事にする作り方もあるんだ!と新鮮でした。

「MOZU」がヒットして、WOWOWの加入者は増えたのでは?

おかげさまで、反響は加入者の数にも表れました。ただ、今までは地上波で無料で見られたものが有料になるので、加入してくれた方には有料であることの回答を示さなくてはなりません。主演の西島秀俊さんの映画を放送したり、8月16日から毎週土曜日にシーズン1・2の計15話を放送したり、有料ならではの価値を提供しています。

愛されるシリーズ物を作りたい 夢があれば「やり続ける」ことが大切

今後はどのような作品を作っていきたいですか?

海外ドラマのように、愛されるシリーズ物ができればいいなぁと思っています。毎年秋には必ずこのシリーズが放送される!楽しみだからWOWOWに加入し続けよう!と思っていただけるような作品ができれば。また、吉田修一さん、西島秀俊さんのような同世代の人と仕事をするのは楽しいので、今後も続けていきたいです。

井上さん世代の大人のドラマに期待しています! 最後に、井上さんのようにドラマを作りたい若いクリエイターにアドバイスをお願いします。

ドラマや映画を作りたい夢があるなら、とにかくやり続けることですね。周りを見ていても、結局、苦しいときがあっても諦めずに頑張った人が残って監督になっています。環境に恵まれなくても、食べていくのが大変でも、辞めないということが、実は才能よりも大事かもしれません。そして、現場では好かれるように。映画やドラマはチームワークなので、極端にいい人になる必要はないけど、よほど才能がある人でない限り、イヤな奴と仕事をしたい人はいませんから(笑)。

取材日:2014年8月11日 ライター:植松

Profile of 井上衛

井上衛 氏

プロデューサー。 1969年。兵庫県出身。 新聞社、劇団四季を経て、株式会社WOWOWに入社。

■主なプロデュース作品 ドラマ 『春、バーニーズで』 2006年 ドラマ 『神様からひと言』 2006年 ドラマ 『黒い春』 2007年 ドラマ 『孤独の歌声』 2007年 ドラマ 『シリウスの道』 2008年 ドラマ 『6時間後に君は死ぬ』 2008年 ドラマ 『兄帰る』 2009年 ドラマ 『戦力外通告』 2009年 ドラマ 『都市伝説セピア』 2009年 ドラマ 『隠蔽指令』 2009年 ドラマ 『その時までサヨナラ』 2010年 ドラマ 『TOKYO23 〜サバイバルシティ』 2010年 ドラマ 『ブカツ道 2010年 ドラマ 『東野圭吾 幻夜』 2010年 ドラマ 『同期』 2011年 ドラマ 『ダブルフェイス 潜入捜査編 偽装警察編』 2012年 ドラマ 『東野圭吾 分身』 2012年 ドラマ 『天の方舟』 2012年 ドラマ 『ネオ・ウルトラQ』 2012年 ドラマ 『罪と罰 A Falsified Romance』 2012年 ドラマ 『配達されたい私たち』 2013年 ドラマ 『MOZU』 2014年 ドラマ 『東野圭吾 変身』 2014年 映画 『パレード』 2010年 映画 『武士道シックスティーン』 2010年

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