グラフィック2014.07.23

1年かけて貯めたノウハウを詰め込んだ本 とにかく自由に使ってもらいたい

Vol.105
グラフィックデザイナー 下田和政(Kazumasa Shimoda)氏
Web作成で行き詰まった時、つい手を伸ばして「ヘルプ」を求めてしまう本がありませんか?今回は、そんな「困ったときのお助け本」を多数出版されているグラフィックデザイナーの下田和政さんの登場です!IllustratorやPhotoshopの教則本を手がけるようになったキッカケから「下田流」本の作り方、そして人生を変えた運命の(?)出会いまで、興味深いお話をたっぷり伺いました!
 

デザイン事務所を渡り歩き、キャリアを積む バイクショップの店主の一言で独立を決断

多くの著書があり、長くフリーのグラフィックデザイナーとして活躍されている下田さんですが、デザイナーとしてのキャリアのスタートは?

専門学校を卒業して、デザイン事務所に就職したのがスタートです。写植屋さんに行って版下を作っているような、アナログでMacもない時代でしたね。古い時代でしたから、若者にとっては仕事的にも人間関係的にも、厳しい環境でしたよ。

駆け出しのデザイナーとしての仕事は?

撮影やオーディションに必要なものを買い出しに行くことでしょうか(笑)。当時は「デザイナー」という職業が今よりも価値があって、ひとりのデザイナーにたくさんのアシスタントが付いているような時代でした。そのうちにDTPが出てきて、興味を持ってDTPセンターで働くようになり、そこで今の仕事に通じるノウハウを学びました。その後もデザイン事務所を転々としながら働いていました。

独立したのは、どんなキッカケがあったんですか?

小さなデザイン事務所は体力がないので、すぐに経営が傾いてしまうんですよ。いくつか事務所を移っているのですが、自ら動いたというよりは、経営が危なくなって仕方なく動く、という状態で。独立をすることになったのも、所属していた会社の経営が怪しくなってきたからです。

もともと独立志向ではなかったのですか?

独立なんて、考えたこともなかったですね。独立するのは恐いと思っていました。ですが、その時に出入りしていたバイクショップの店主に相談したら「独立してやってみたら?」と言ってくれたので、独立を決めたんです。そのバイクショップは深夜しか開いてない不思議な店なんですけど、いろいろな人が店主を慕って集まっていて、私も「この人の言うことを聞いてみよう」という気になってしまって。

フリーデザイナーとして営業から地道なスタート 仕事を「やった」ではなく「やらせてもらった」へと転換

HP

下田さん(JET_COMPANY)のHP

独立にあたって、仕事が来るルートなどの「見込み」はあったんですか?

いえ、まったく(笑)。どうすれば仕事が来るのか、ノウハウもありませんでしたから、愚直な営業をしましたよ。インターネットで「フリーデザイナー募集」と書かれている会社のサイトを探して、メールを出すんです。そうすると、30社に1社くらいは返信がある(笑)。そこから仕事をさせてもらったりしました。

フリーデザイナーとして、本当に地道なスタートだったんですね。

それしか方法がありませんでしたから。幸運なことに、いくつかお付き合いさせてもらえる会社があって、そこで勉強させてもらいました。フリーになって気づいたのですが、仕事を「やった」ではなく「やらせてもらった」という考えで仕事をしないと、継続的な仕事にはなりませんね。この「やらせてもらう」考え方が身に付くまで時間がかかりました。

会社員として仕事をしていると、そんな考え方はしませんよね。

目の前に来る仕事を、ひたすらこなして「やった」だけですからね。よく「自分はあの会社の仕事をやった」という言い方をしますが、それは違うな、と思います。「仕事をやらせてもらった」ですよね。もちろん私も、会社員の時には「あの会社の仕事をやった」と言っていたわけですが(笑)。

出版のキッカケもバイクショップ 1年かけて貯めたノウハウを本に詰め込む

本を出版することになったキッカケは?

これも先ほどのバイクショップが絡んでいるのですが、出入りしているバイク仲間が「独立して苦労している」と感じてくれたようで、いろいろと手を差し伸べてくれるんですよ。出版社の社長を紹介してくれる人がいて、それがキッカケで「本を書いてみる?」と話が進み、出版までこぎ着けました。

下田さんの本にはたくさんのノウハウが詰まっているのを感じますが、どのようにして1冊の本が出来上がるのでしょうか?

本を作るときは説得力にこだわっています。現在は1年に1冊ペースなのですが、仕事をしながら1年かけて貯めてきたノウハウを吐き出しています。具体的には、作例を作ってから、どうすれば簡単に誰でも作れるかを考え、作り方に落とし込んでいきます。作例のネタは、思いついた時に紙に書いたり写真に撮ったりして、ネタ帳を作っています。1冊作ったら、ボツになったアイデアも含めてすべて捨てて、また新しいネタ帳を作り始めます。

他のサイトや本を参考にすることもありますか?

海外のサイトをチェックして流行を把握することはありますが、他の本を買って研究するようなことはしません。

バイクを取り巻くアナログな空気感が好き 休日はデジタルを一切触らない!

現在の出版以外の仕事は?

バイク雑誌の編集の仕事をメインに、スポットで不定期に仕事を受けています。以前はトコトン仕事をしよう!と思って、本も1年に2冊出版していましたし、多くの仕事を並行してこなしていましたが、身体を壊しますし、こんな暮らしはあまり楽しくないな、と。今は必要最低限の仕事をして、空いた時間を本の執筆に使っています。

お話を伺っていると、下田さんの節目にはバイクが必ず登場しますね(笑)。バイク歴は長いんですか?

最初はクルマが好きで、いろいろといじるのが趣味でした。バイクは30代になってから免許を取って乗り出しました。バイクが好きで集まっている人たちの空気感が好きなんですよ。肩の力が抜けている人ばかりです。

デジタルに集まっているのではなく、アナログな空気感なんですね。

こんな仕事をしていますが、実はスマートフォンを持っていないんです。それに、休みの日は一切PCに触りません。Twitterを止めて3年くらい経ちますし、mixiも7〜8年前に止めました。Facebookはあえて自分から遠ざけてます(笑)。PCの電源を入れる時は仕事をする時、と決めているんです。デジタルから離れるとアタマがクリアになって新鮮な状態になり、集中して仕事ができますよ。アイデアも、リアルにいろいろなモノやコトに触れた時にこそ、産まれてきますよね。

「子ども」を育ててもらって感無量! 今後も困った時に役立つ本を作りたい

下田さんの本は、どんな風に使ってほしいですか?

PCの近くの本棚にいつもあって、困った時に手に取ってもらえるような存在になっていたら嬉しいですね。鮮度的に出版後2〜3年が限度だと思いますが、とにかく自由に使ってほしいです。本の作例のまま使っても良いですし、ネタ元にして自由にアレンジして使ってもらっても嬉しいです。

下田さんの本がネタ元のロゴやアイコンを見付けることもありますか?

見たことあるな〜と思ってよく見ると、自分の本がネタ元だ!と気づくことが時々ありますが、ものすごく嬉しいです。しかも、私が作った本の作例よりもカッコ良く進化していることがほとんどなんですよ(笑)。本に載せた作例は「子ども」だと思っているんですが、この子をここまで育ててもらったのか!と親としては感無量です。これからもたくさんの人に使ってもらえる「子ども」を産み出していきたいと考えています。

取材日:2014年7月2日 ライター:植松

Profile of 下田和政

グラフィックデザイナー。 雑誌・書籍のアートディレクターをはじめ、エディトリアルデザイン、撮影、イラスト制作など数多くのデザインフィールドに携わる。

主な著書は、『Photoshopプロフェッショナルズ アイコン・マーク・ロゴデザイン』、『Photoshop×Illustratorプロフェッショナルズ テクスチャ・背景・壁紙デザイン 』、『Illustratorプロフェッショナルズ アイコン・マーク・ロゴデザイン』、『Illustratorプロフェッショナルデザイン改訂新版 CS5/CS4/CS3完全対応 』、『Photoshopプロフェッショナルロゴデザイン改訂新版 CS5/CS4/CS3完全対応』、『Phoshopプロフェッショナルズ―デザイン表現のテクニック』(エムディエヌコーポレーション) 『PhotoshopデザインShot!』、『Photoshop&Illustrator 素材×簡単作成』(ソフトバンク クリエイティブ) 『自由に使える素材集 フリーフォント900』(アスキー・メディアワークス)など多数。

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