WEB・モバイル2018.08.29

自分が思い描いた会社をつくる

東京
株式会社鳥子 代表取締役社長 江崎陽子氏
2012年に設立した株式会社鳥子(とりこ)は、紙媒体を主とした広告のグラフィックデザインをメインに、ロゴやキャラクター提案からWebデザインまで行う制作会社。企画、ディレクション、編集・ライティング、デザインのすべてをかねそなえた「ワンストップ」で制作することで、クライアントの支持を集めています。会社設立から7年目を迎え、新たなステップにある代表・江崎陽子さんにお話をうかがいました。

デザイナーを志した高校時代

デザイナーになろうと思ったきっかけは?

実は小さい頃はずっと獣医になりたかったんです。動物がとても好きで、小学校で飼っていたインコの小屋に入りびたって、元気がない鳥がいると家に連れ帰って看病したりしていました。大学も獣医科を目指していたのですが、ある日ばったり会った幼馴染みの先輩が「将来は映像関係の仕事に就きたい」と言って、美術大学受験の塾に通っていたのです。高校2年生のときにその塾に連れて行ってくれて、そこでデザイナーという職業があることを知り、私も絵を描くことは好きだったので興味を持ちました。その頃から、将来は独立して自分でできる仕事をしたいとも思っていました。
さらに、高校3年生のとき、文化祭の実行委員長に自ら名乗りを上げ企画側で活動したのも大きかったです。スローガンやクラスの出し物を決めるのに、委員会が先行でいろいろと提案して、みんなにアンケートを取ったり意見を募ったりしました。文化祭は半年がかりで作り上げましたが、その過程がとてもおもしろくて。それに、一緒に実行委員をやった1〜2年生が感動して「こんなに楽しいなら、来年は引き継ぎます」と言ってくれたのもすごくうれしかった。「企画やイベントを考えるって、楽しいな」と思いました。その頃の思いは会社を立ち上げるまでずっと持ち続けていましたね。

その後、デザイナーを目指されて大学に入学されたのですね。

地元大学の美術工芸科に入学しました。でも、実際に入ってみたら、そこではデザインを学べる機会がないことがわかって。それで、大学は1年で休学して、東京の専門学校のデザイン科に入り直しました。卒業後は印刷物の版下を制作する会社に入り、DTPオペレーターに。そこには3年ほどいましたが、不況で会社が解散となり、フリーランスになりました。以前の取引先の印刷会社から委託されて、様々な種類の仕事を担当しました。1年ほどでしたが、その時期に印刷の知識を身につけたり、オペレーション作業のスキルが上がったり、また、制作費がどれくらいかかるかなど、仕事に関するお金の流れを知ることができたのも良かったです。
その後は、知人が立ち上げたデザイン会社に誘われて入社しました。不動産広告制作の仕事をしている5〜6人規模の会社でしたが、そこでは企画提案からマーケティングにそった販売促進計画を立てたり、その上でターゲットに響く広告を考えたりしました。コンペ、プレゼンも多くコピーライターの重要性を感じたのもそこでの仕事から。インターネット広告から、交通広告、折り込みチラシ、冊子など制作物も多く、休む暇もなかったけれどいい経験を積むことができました。
ところが、入社から7年ほど経った頃に、不動産バブルの崩壊と共に業務縮小、解散してしまいました。

その後、転職されたのですか?

そろそろ安定したいという気持ちがあったので、今度は、長く続いている会社で50人くらいの規模のところを選びました。その会社は新聞広告の製版事業をやっていたのですが、私は業務拡大のために新規開拓を任されていました。しかしちょうど成果が出た矢先に、会社が方針をガラリと変えて、製版部門を他社に譲渡してしまったんです。私は、自分で開拓した仕事が終わっていなかったので、それから半年くらいの間、フリーランスとして請け負った仕事を続けました。
その仕事を終えた後に最後の転職と思って、100人以上のスタッフがいる規模の大きな制作会社にいきました。仕事は月刊誌や会報誌が中心で、編集とデザイナーがチームを組んで制作をしていました。私は企画制作部にいたのですが、メインクライアントの会報誌のリニューアルコンペの企画に参加し、それが通ると会報誌のアートディレクターを務めるようになりました。ただ、その会社は私には規模が大きく担当できる業務も限られていたので、私にとっては居心地があまりよくなかったんです。その頃、会社が早期退職者を募ったこともあり、退職を決意。2012年7月、当時一緒に制作を行っていた女性スタッフ2名とともに株式会社「鳥子」を立ち上げました。

これまでフリーランスと会社組織と両方の働き方を経験されてきたのですね。そうした経験をお持ちの江崎さんは、念願の起業をされたのですね。

高校生の頃から、独立して自分で仕事をしたいと考えていたので、これまでのキャリアはすべて将来、独立するときに役立つ経験だと考えてきました。仕事の内容や会社の規模など、自分にとってどんな働き方が理想なのかを体験を通して追求してきたような感じです。例えば、フリーランスとして一人でやっていたときは、仕事が集中するとこなせる量に限界を感じたり、体力的にも無理があったりと、厳しさを感じていました。一方、規模の大きな会社は、組織の良さはありましたが、決済のスピード感が鈍くルールに縛られ過ぎると逆にパフォーマンスが落ちてしまうのでは、と思ったのです。「では、ちょうどいい規模は?」と考えたときに、10人くらいなら、私がいいと感じる働き方ができるように思えました。

会社の理念は “きちんとごはん、きちんとデザイン"

「鳥子」の名前の由来をおしえください。

女性3人で起ち上げたので、トリコロールカラーをイメージして社名をつけました。私が鳥が大好きなこともあって「鳥のように大きく羽ばたけるように」という願いを込めて「鳥子」にしました。
最初はこの建物のいちばん小さな部屋で会社をスタートしましたが、徐々に成長し、この建物内で3回引っ越して、そのたびにスペースも広くなっていきました。最近は、スタッフの入れ替りがありましたが、今はディレクター、デザイナー、ライターそして制作進行・経理関連を担ってくれる4人のスタッフと一緒に働いています。少人数でも、役割分担は大切だと実感しています。

鳥子の強みといえば、ヒアリングから企画、そして取材、デザインまでをワンストップで制作されることだと思います。具体的には、どのような流れで仕事をされているのでしょう。

たとえば、リニューアルから提案した会報誌などは、まず過去の内容を検証し、これまでの経験や実績を踏まえて、会報誌としての目的をより明確にするような企画案を練ります。そして、クライアントの担当の方に、どんな企画がその会社の方向性や理念にかなっているかを説明し、社内で検討してもらいます。制作スタッフだけでなく、クライアントの方たちにも制作をするときの達成感を感じて欲しいので、「一緒につくっている」という感覚を大切にしています。そのほうがいいものができますから。
実際の制作では、社内のディレクター、デザイナー、ライター、制作進行は、クライアントと最初に打ち合わせをするときから、ずっと一緒に動きます。そして、制作上の相談ごとが出てきたら、「はい、集合」と声をかけると全スタッフがすぐに集まれるのが、鳥子の強み。最近では、クライアントからも、「いいものができた」「わかりやすい」などの評価をいただいていますし、「進行もやりやすかった」と安心していただいています。

制作をするときに大切にされていることはありますか?

鳥子の理念は、「きちんとごはん、きちんとデザイン」。きちんとごはんを食べて、きちんと寝て、健康な心身で仕事をすると、きちんとしたデザインができると思っています。忙しいときはもちろんあるのですが、メリハリをつけて仕事をすることで、最近は残業時間も減り、休日出勤もほとんどありません。スタッフには、旅行や映画など、インプットに時間をあてて欲しいと思っていますので、仕事量を見て、忙しそうな人がいたら手伝ったり、外注でお願いしたりと一人に負担がかからないように気を配っています。今後はフレックス制度の導入を考えています。自分である程度のスケジュール管理をして、パフォーマンスを上げていって欲しいですね。
「きちんとデザイン」というのは、デザインはやりすぎてもやらなさすぎてもダメという考えからです。例えば、かっこよくすればかっこよくするほど、いいデザインになるわけではなく、“ちょいダサ"がいいときもある。そういう意味で、相手の望むところより少し上くらいに着地点を置く。それが仕事を長く続けていける秘訣なのかなと思います。

今は会社の組織としての成長期ですね。

それぞれの役割がはっきりしてきて、責任感も生まれてきました。組織化してきたというか、会社らしくなってきた気がしています。秋にはさらにスタッフが2人増える予定。この2〜3年で10人くらいまで増やしたいと思っています。
自分の理想を実現していけるのが経営だと思うので、日々、すごく楽しいですよ。私は安心して楽しく働くことが一番の希望なので、自分が社員だった頃に「こうだったらいいな」とか「こうすれば、安心して働けるのになあ」と思ったことを今、実行しつつある。高校生の頃からの夢がやっと叶い始めたところです。
今後のさらなる目標は、社員のみんなに退職金をたくさん出すこと。みんなには、長く一緒に働いて欲しいと思っているんです。

取材日:2018年7月5日 ライター:天田 泉

株式会社鳥子

  • 代表者名:代表取締役社長 江崎陽子(えざき ようこ)
  • 設立年月:2012年7月
  • 資本金:3,000,000円
  • 事業内容:企画・取材・編集・デザイン制作・プロモーション
  • 所在地:東京都豊島区南大塚1-60-20 2F
  • TEL:03-5940-2030
  • FAX:03-5940-2031
  • URL:http://trico-pro.com
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