「ドットを打つことが天職」。“使命感”とチャレンジ精神で、心強い仲間たちと人生を切り拓く

大阪
株式会社ディープラス 代表取締役・チーフデザイナー
Toshihiko Yamamoto
山本 利彦

遊技機の液晶開発をはじめ、ゲームソフトからCM・PV、アニメーション、DTPまで幅広いジャンルで制作を手がける大阪の株式会社ディープラス。ゲーム業界からキャリアをスタートさせた代表取締役の山本 利彦(やまもと としひこ)さんは、「どんな仕事も全力でやる」精神でデザイナーとしての経験値を高める一方、クリエイターの育成に力を注ぐため会社を立ち上げました。設立までの経緯、今後の展望などについてお話を伺うなかで、穏やかな語り口調に潜む仕事や仲間への熱い想いが垣間見られました。

アニメーター志望から、ドットに魅せられてゲームの世界へ。「ドットを打つのが天職だ」

立ち上げまでの経歴を教えてください。

もともと、アニメ「エヴァンゲリオン」シリーズや映画『シン・ゴジラ』などを手がけた庵野秀明さんに憧れてアニメーターを目指していたんです。出身校である大阪芸術大学芸術学部映像学科で学びつつ、アルバイト先のゲームソフト開発会社でキャラクターデザインからペイント、インターフェースデザインまで、ほぼ一通りの制作工程に携わりました。
1980年代半ばだった高校時代は、BASICというプログラミング言語で3D映像のようなものを作って動かして遊んでいたものの、ゲーム機にはまったく触ったことがなく、仕事を教えてくれる人もいなくて独学でしたね。当時は社員数名の黎明期で、最初からアートディレクターとして皆を引っ張らないといけない役目を任された流れから、卒業後もそのまま社員となって10年勤めました。

なじみのなかったゲームのどこに魅力を感じたのですか?

ドットですね。当時のゲーム機は性能に制約があって、低解像度で目の粗いドットによる画像表現が主流でした。原画をスキャンしてマウスでドットをポチポチと打つうちにアニメが動いていく様を目にして、「ドットを打つのが天職だ」と思ったんです。

会社が経営難に。部下全員を引き連れてフリーランス団体として出発

その後、どんな経緯でディープラスを設立しましたか?

会社の経営が厳しくなってきたんです。当時グラフィック専門のウインクという子会社に在籍していて、遊技機の液晶開発に新たに挑戦したかったのですが難しい状況で。このままでは10人の部下が路頭に迷ってしまうと思い、全員を引っ張り出して2000年にフリーランス団体「;D+Project(ディープラスプロジェクト)」としてスタートしました。
デザイナーとして活動しながら、皆の仕事も探して運営していくのは大変で、月の報酬が7万円なんて時期もありましたね。でも1人でフリーランスとしてやっていく選択肢などなく、皆をどうにかしなければという使命感で動いていました。主力メーカーの遊技機でアートディレクションからプロジェクトに携われるようになったこと、そして当時の仲間も30~40代の年齢になっていて安定した基盤が必要だと思ったことから、15年にディープラスとして法人化しました。

社名にはどんな由来がありますか?

海外のアスキーアート(顔文字)で、前身にあたる「ウインク」は「;D」と表現されるんです。横向きにすると笑顔でウインクしているように見えますよね。さらに、ゲームだけに留まらず多方面の仕事を手がけて発展させたい想いから、「+(プラス)」を付けています。

遊技機やゲームに限らず幅広く展開。どんな仕事も臨機応変に全力で

現在の事業内容や業務体制、御社の強みをお聞かせください。

遊技機の液晶開発やゲームソフトの企画・開発を中心に、CM・PVやアニメーション、コンピュータグラフィック、絵コンテ・イメージイラスト、DTP全般、Webと幅広い制作ニーズに対応するほか、専門学校や企業などでの講師派遣も行っています。ゲームの仕事から始まりましたが、「来た仕事はなんでも全力でやる」をモットーに、立ち上げ当初から幅広いジャンルの仕事を引き受けてきました。経験できることには挑戦し続けて技術を磨いていくことが大切だと、私自身考えています。
そのため、他社ではモーションならモーションだけを専門に経験を積むことが多いと思いますが、当社の場合はプロジェクトのたびにモーションだったり背景、オーサリング、キャラクターデザインだったりと仕事内容が変わります。社員16人の規模でありながらも、皆がいろいろなジャンルの制作業務に臨機応変に対応できるところが当社の強みです。

ジャンルを問わず対応できるように、若手クリエイターの育成にも力を入れているそうですね。

がんばっているのにうまくいっていない子を応援したいんですよね。教え子を採用する時も青田買いはしないのがポリシーです。できる人はいい会社に行けばいい。50社応募してもダメだった子、他社で給料不払いが続いていた子、退職してパン屋でアルバイトをしていた子など、向いているのにもったいない人に仲間に加わってもらっています。
特に研修があるわけではなく、案件に携わりながら本や動画を参考にしたり、周りに聞いたりして覚えていく感じです。私自身はかつて学生に教えながら未経験だったソフトをマスターしたこともありました。まだ一つしかできないスタッフもいますが、ほぼ全員があらゆるジャンルに対応できることを目標にしています。

仕事においてどんなことを心がけていますか?

私自身は「どんな仕事も臨機応変に、手を抜かず全力でやる」ことを大切にしています。会社として、「失敗を恐れず情熱をもって挑戦し続ける」「高い志をいただき、成功するまであきらめずにやり抜く」「最高の仕事をするために、全員がプロ根性を徹底する」の三つのモットーを掲げています。スタッフ全員に強制しているわけではありませんが、これらを意識することでクリエイターとしての可能性が広がると思うんです。少なくとも私自身は、いつも肝に銘じています。

ゲーム人生の原点、ドットに20年ぶりに携われる喜び

これまでに手がけた案件で印象に残っているものは何でしょうか?

私のゲーム開発の原点だったドットに、今20年ぶりに携われていることがうれしいですね。32×16ピクセルの小さな画面の中で、濃度が違うグリーン・オレンジ・レッドの9色だけを使ってキャラクターをデザインしていて、2カ月間で3172枚まで仕上げたところです。今ではより大きな画面で、約1680万色 のフルカラーで高精度に作り上げられるのでまったく違いますね。依頼があった時は、これは私自身でやろうと飛びつきました。

あと10年、付いてきてくれた皆の幸せを願って。新たなリーダーを育成

今後の御社の展望をお聞かせください。

ゲームに限らず、新しいメディアはこれからも出てくると思います。これまでの私のゲーム人生においてもMSXに始まり、PC-9801、セガサターン、PlayStation、NINTENDO 64、ゲームボーイアドバンスと来ました。そのなかで3Dゲームなどさまざまな革命が起きて、今まで作っていたものが取って代わっていきました。最近はAIによる画像生成もイラストレーターの方を悩ませていますよね。変化は絶対にしていくので、その変化の波にうまく乗れるように今後も臨機応変さを持ってやっていきたいです。
そして私は10年後、65歳で故郷に戻ろうと思っています。それまでに新たなリーダーを育て上げて引き継ぎたいですね。会社が続くにはいつまでも私が引っ張るわけにいかないじゃないですか。立ち上げ当初からの仲間たちも還暦に近づく頃になるので、区切りをつけようと動いているところです。私はただ、これまで付いてきてくれている皆の幸せを願うだけ。ハッピーな気持ちで仕事ができるように整備していきます。

山本さんご自身は故郷に戻ったら何をされますか?

リモートで仕事は続けますが、やりたいこともあるんです。それは、ドットで夢を映像化すること。SF映画『夢の涯(は)てまでも』で、寝ている間に見る夢を映像にしているのが印象的で、自分でも再現したいと思っています。あとは、62×32のドットによるアニメーション映画も制作してみたいですね。

努力なくして才能は生まれない。積み上げた経験が人生をかたちづくる

クリエイターを目指す方に向けてアドバイスをお願いします。

世の中に才能のある人は0.01%ぐらいだと思います。私も当然才能なんて持ち合わせていませんが、とことん突き詰めてやっていき才能を絞り出す生き方をすれば、夢の実現は見えてきます。「夢は必ず叶うもの」と言う人もいますが、やらなければ叶わない。壁にぶつかったら、そこに絵を描くぐらいの気持ちで突き進むしかありません。回り道をしてもいいから努力を惜しまないこと。それで初めて才能を生み出す力になり、夢が叶うのだと思います。神社で願ってもなれるものでありません。とにかくあきらめずにひたすら描くことです。
また、興味のあることにはなんでもトライすることで、のちに生きます。たとえば絵の中でも油絵やデッサン、銅版画などいろいろとありますが、私自身これらの経験も決してムダになっていません。やってみて面白いと思えばぜひ突き進んでください。

取材日:2023年9月4日 ライター:小田原 衣利

※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。

株式会社ディープラス

  • 代表者名:山本 利彦
  • 設立年月:2015年5月
  • 資本金:120万円
  • 事業内容:遊技機の液晶開発、ゲームソフトウェア企画・制作、CM・PV制作、コンピューターグラフィックス制作、アニメーション制作、絵コンテ・イメージイラスト制作、DTP・WEB開発、専門学校等での研修講師業務
  • 所在地:〒556-0021 大阪府大阪市浪速区幸町2-3-3 宮井OMオフィスビル301
  • URL:http://www.dplusproject.com/
  • お問い合わせ先:上記サイトのお問い合わせフォームへ

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