職種その他2023.08.23

AIに負けない文字起こしの技術。仕事と子育てを両立する環境とともに提供する

広島
株式会社ボイスカラー 代表取締役
Tomoko Ichigi
市木 友子

音声データを顧客の指定する形式で文字に起こす広島の株式会社ボイスカラー。急速なデジタル化の進展により、スピードが求められるようになった世の中で、高い正確性と短納期が評価され、常に多くの仕事が舞い込んできます。業務を自身でこなしながら、ボイスライター養成講座で次世代のオペレーターを育てる代表取締役の市木 友子(いちぎ ともこ)さんに、文字起こしという仕事へのこだわりやビジョンをお聞きしました。

子育てと両立できる仕事を探してたどり着いた文字起こし

まず、事業内容について教えてください。

弊社は音声データからの文字起こしを主な業務としています。音声データからお客さまのご希望に沿った形式で文字起こしし、データで納品するお仕事です。英語音声を文字起こしした上で日本語に翻訳することもあります。
文字起こしの形式には重複発言や「あー」「えー」などの言い癖、言い間違いを除く「標準起こし」のほか、言い間違いも言い癖もすべて書き起こす「逐語起こし」などがあります。時おり「語尾を丁寧語にしてほしい」といった指定もあります。このように「あなたのお好みの色に音声を起こします」という意味を込めて「ボイスカラー」という社名を付けました。形式によって難易度や文字起こしにかかる時間が変わるので、費用も異なります。
文字起こしがどんなお仕事かを伝える「文字起こしセミナー」や、「ボイスライター養成講座」も定期的に開催しています。
また、お客さまのご要望にお応えし、タイピングスピードを生かしたデータ入力や、デジタルサイネージ(電子看板)で流すための動画制作を請け負うこともあります。

なぜ文字起こしの会社を立ち上げられたのですか?

20年ほど前になりますが、文字起こしを始める前の私は3人の子どもを育てる専業主婦でした。子どもって、3人いるとローテーションで風邪を引くんですよね。
外に働きに出られず、仕方なく家でできる仕事を探していて、文字起こしのセミナーを見つけて受講しました。修了テストに合格すると主催する会社から下請けで文字起こしの仕事をもらえるようになり、それを機に文字起こしを請け負うようになりました。
同時に自分でもWebサイトを立ち上げて、ネット上で直接お仕事を請け負うようになりました。そこから少しずつお客さまが増え、売り上げが大きくなってきたタイミングで法人化した形です。

気軽に録音できる社会の到来でニーズ増加。誠実さで信頼重ね、重責な仕事舞い込む

クライアントはどういったところが多いですか?

本当にさまざまです。印刷会社やマスコミ関係、シンクタンク、弁護士事務所……。個人のご依頼も増えてきました。
その背景にあるのが、スマートフォンの普及です。「この会話を残しておきたい」と思えば、誰でもかんたんに音声が残せる時代になりました。
トラブルの証拠音声を聞く機会も増えました。個人情報がたくさんある音声を起こすこともあり、正確性はもちろん、守秘義務も徹底しなければなりません。また、1つの企業内でも、文字起こしの用途は議事録用の会議音声、研修資料作成用の営業のロールプレイ、社内報用に載せるための役員の座談会、周年記念誌制作用の社長インタビューなど、実に多岐に渡ります。
これまでの実績から成果物の品質や守秘義務の遵守体制を信頼いただき、そうした重要なお仕事をご依頼いただいています。たまたまサイトをご覧になった方からのご依頼を受けるほか、一度依頼してくださった方がお知り合いを紹介してくださることが多いです。

養成講座を修了した実力者だけに発注を限定。文字起こし技術を2カ月で会得、課題も

実際の作業はどのように進めておられますか?

弊社には50人のスタッフが在籍していますが、どなたも在宅でパソコンで作業をしていただく個人事業主さんです。
お仕事は着実に増加傾向にあるので人材は常に募集しているのですが、養成講座を受けてしっかりと技術を身につけていただいた方でなければお仕事を依頼できません。なかなか人が育たないというのが実情です。

養成講座はどのようなものですか?

「文字起こしの仕事をしてみたい」という方を対象に、有料で実施しているオンライン講座です。1週間に1本ずつ課題をこなしていただき、実戦で通用するだけの技術を2カ月で身につけていただきます。
おかげさまで、講座を修了した皆さんはどこの事務所でも「あなたに全部お願いしたいくらいです」と言われる力をつけられます。多い人だと月に50~60万円稼がれる方もおられます。
一方で、受講者さんは口をそろえて「こんなに大変だとは思わなかった」とおっしゃいますね。文字起こしは空き時間で気軽にできそうなイメージらしいのですが、実際は1日10時間くらいパソコンに向かうこともあるので、楽な仕事とは言えません。そのギャップを埋めるため、Webサイトではありのままの受講者の声を紹介しています。これまで100名以上の方に受講いただきましたが、そのうち最後まで受講する人は7割くらいでしょうか。講座を修了しても、仕事を実際に受注される方は10人のうち1人いるかどうか。想像以上に文字起こしの作業が大変で、受講はしたものの文字起こし以外の仕事を選択される方も少なくありません。

やはり添削などにかかる労力が大きいので有料にされているのですか?

いえ、当初は無料でやっていましたが、無料の時は50人くらい受講されても、どなたもお仕事にたどり着くことができませんでした。その人たちが受講後に修了できなかった自分を責めてしまうことが続いていました。そのフォローに悩んでカウンセリングの勉強も始めました。
有料化した理由は、受講者の意識が変わり修了へのモチベーションになるかもしれないと思ったからです。

AIが普及しても「この仕事はなくならない」、その理由は?主体的な人を募集

御社が特に大切にされていることは何ですか?

やはり「どこよりも速く、どこよりも正確」であることですね。私がこの仕事を始めた20年前とは、明らかに世の中のスピード感が違うと感じています。
AIによるリアルタイムの文字起こしが普及してきましたが、私たちは一字一句が正確なものを求められているし、漢字の変換も何度も確認します。
AIは変換の正確性がまだまだですし、複数人が参加する会議や座談会など、聞き取りづらい音声では余計にその傾向が大きくなるので、私はAIがどれだけ普及してもこの仕事はなくならないと思っているんです。

どんな方がこの仕事に向いていると思われますか?

難しいことに尻込みせず、「そんなに難しいなら私にやらせて」というバイタリティーのある方が向いているかもしれません。また、表記を徹底的に確認するので細かい作業が苦にならない方が向いていると思います。インタビュー音源などを聞いていてまったく知らなかった世界を知ることができたとき、この仕事が面白いと感じられると思います。

続けて来られた理由は「辞めなかっただけ」。世の母親を後押しできる環境づくりへ

多くの方が辞めていかれるなか、20年以上続けて来られた理由は何ですか?

理由なんて何もなくて、ただ辞めなかっただけですよ。一番下の子が小学校に入った時には「もう家で仕事しなくてもいいかも」とも思いましたが、不思議と、なんとなくもう辞めようかなと思ったタイミングでちょっとずつ仕事が増えていきました。
家でできる仕事なので、昼間に子どもの学校の行事があれば、夜中に仕事をしてもいい。納期の範囲内であれば自由に仕事の時間が決められる。その自由さが、当時子育て中だった私にはとてもありがたかったですね。

子育てをしながらお仕事を続けてこられて、今後どのようなことをやっていきたいですか?

私個人としては、女性を応援したいという気持ちが強くて。 10年ほど前から主婦の仲間たちとボランティアで「そらのおさんぽフェスタ(旧:ママフェスタ)」というイベントを開いています。ハンドメイド作家さんや自分でなにかを始めたママたちが展示・販売・集客できる場所を提供したくて、子育て世代に向けて始めました。
お母さんが充実した生活をしていたら、子どもは絶対幸せに育つと思うんですよ。だから「子育てがあるからやりたいことができない」のではなく、「子育てしながらやりたいこともやれる」という環境を作りたいです。

焦らず、「ベストなタイミング」 を待つ大切さ。人生の流れに身を任せて

若い世代のクリエイターに伝えたいことはありますか?

例えばタイミングが合わなくて受けられなかったお仕事は、「逃がした」って思わなくていいよと伝えたいです。たまたま電話に出られなかったり、タイムラグでメールの到着が遅れたりした仕事は、あなたが受けなくていい仕事だったと思ってください。
私は人も仕事もお金も、人間には絶対にベストなタイミングでベストなものが来ると思っているんです。誰かが離れていって自分にすき間ができると、そこに今必要な人が必ず入ってくる。人との縁は大切だけど、しがみつく必要はまったくありません。理由があってもなくてもなんとなく「やりたくない」と感じた仕事は受けないでOKです。自分が納得できる仕事は今、持てる力のすべてを出すことができ、クライアントにも必ず喜んでもらえる仕事になります。その積み重ねが自分自身の大きな実績と自信につながり、やがては大きなお金となって人生も心も豊かになっていきます。
周りの人を大切にしつつ、自分自身が今どう感じているかを素直に受け入れていけば、自然と仕事もお金も増えていく、私自身はそう思いながらお仕事を続けています。

取材日:2023年7月5日 ライター:進藤 真由美

株式会社ボイスカラー

  • 代表者名:市木 友子
  • 設立年月:2014年5月
  • 資本金:50万円
  • 事業内容:文字起こし(テープ起こし)、翻訳、データ入力、サイネージ動画制作、文字起こしセミナー開催、ボイスライター養成講座開催
  • 所在地:〒730-0803 広島県広島市中区広瀬北町3-11ソアラビジネスポート内
  • URL:https://voicecolor.jp/
  • お問い合わせ先:0120-897-346

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