「写真的」撮影で美しくインパクトのある動画を軸に 幅広いクリエイティブを展開

京都
合同会社ポーラーデザイン 代表
Takashi Kuroyanagi
畔柳 尭史
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BAROQUE|小嶋崇嗣

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乾燥野菜ブランド OYAOYA

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京丹波ラディッシュ京こまり

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泉屋博古館

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楽焼(動画事例)

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竹中工務店(動画事例)

商店街から少し離れた京都の路地裏。一軒の町家の横、トンネルのような路地を通り抜けて進むと、驚くほどスタイリッシュで広々とした空間が広がっていました。ここは、染色工場をリノベーションして生まれた大型のシェアアトリエ。この2階に位置するのが今回の取材先、合同会社ポーラーデザインです。
ポーラーデザインは、動画制作とグラフィックデザインを軸に、ブランディング、パッケージデザイン、Webサイト制作、空間デザインと、幅広いクリエイティブを手がけるデザイン会社です。代表の畔柳 尭史(くろやなぎ たかし)さんは、大学卒業と同時に個人事業主としてデザインの仕事をスタート。ちょうど1年前、2022年に会社を立ち上げました。

学生時代、写真の延長から動画制作をスタート

デザインに興味をもつようになったきっかけを教えてください。

「ものづくりに携わりたい」という漠然とした想いがあり、建築を学ぶために京都工芸繊維大学に入学しました。しかし、実際に課題に取り組んでみると、想像していた以上に難しくて。建築の道は諦め、同じ専攻から行けたデザインのコースに進みました。
消去法的に選びましたが、デザインの勉強は楽しく、学部卒業後は大学院に進みました。学生時代、特に興味をもっていたのが写真です。大学から大学院にかけてスポーツカメラマンのアルバイトを数年間経験し、一眼レフの使い方を学びました。

現在の事業の軸になっている動画制作も、その頃に始めたのでしょうか?

はい。ある時、新しく購入した一眼レフのカメラに、動画の録画ボタンがついているのを見つけたんです。「おお、動画も撮れるのか」みたいな。動画を撮り始めるようになったのは、そんな偶然のきっかけからです。
面白さから撮り始めた動画ですが、当時はまだ動画を撮れる人が少なく、OBの方や友人から制作を頼まれることもありました。こうした案件がだんだんと増えていき、大学院生の頃には、このまま個人で仕事をしていけるかもしれない、と考えるようになりました。

より自由で新しいクリエイティブを求め、会社を設立

大学院卒業後はどのような道に進まれたのですか?

個人の仕事をこなしながらデザイン事務所にも所属し、しばらくは2足のわらじを履いて仕事をしていました。デザイン事務所に週3~5日ほど出勤し、残りの時間を個人の仕事に充てる、といった感じです。
6年ほどするとフリーランスの案件数も安定してきたので、「これならやっていけるだろう」と、独立を決意しました。2020年に個人事業主として独立し、2年後に合同会社ポーラーデザインを設立。会社という形でスタートを切りました。

個人事業主として続けるのではなく、会社にしたのはなぜですか?

ひとりで仕事をしていると、どうしてもアウトプットの幅が限られてしまうんです。手を動かすのは自分だから、できあがるものの想像がついてしまう。さまざまな人と一緒に仕事に取り組めば、新しい発想が生まれ、さらにいいものを生み出せるだろうと考えました。

個人で仕事をしていても、プロジェクトごとにチームを組んで取り組むことがあると思います。そのあたりはどうお考えでしたか?

プロジェクトチームへの参加も経験しましたが、声がかかる時にはすでに、自分に期待される役割が明確に決まっていることが多かったんです。これまでのポートフォリオを見て選んでもらった訳ですから、期待されているテイストと全然違うものを出すことはできません。デザインの振れ幅が限定されてしまって面白くないな、と感じたんです。
会社単位でプロジェクトを進めれば、デザイナーのような同じ立場の人が自分以外にもいて、自由に意見を言い合うことができる。まったく新しいものを生み出すためには、会社という場所が必要なんだ、と考えました。

ちなみに、社名の「ポーラー」にはどんな意味が込められているのでしょう?

妻が北極熊のモチーフが好きだったことに着想を得ました。イギリス人の友人から、「ポーラー」という単語には、北極や南極のような「極端な両端」という意味があると教えてもらって。クライアントによってアウトプットが千差万別なデザインの仕事に、ぴったりだと思って名付けました。

クライアントの“偏愛”を探るヒアリングの大切さ

デザインのお仕事で特に心がけていることを教えてください。

グラフィックデザインにしても、ブランディングにしても、まずはクライアントのご要望をしっかりと聞くところから始めます。決まった段取りでの流れ作業は一切していません。クライアントの望むものを見極め、1件1件、相手に合わせて最適な方法を考えていきます。
ヒアリングの中で特に聞き出したいのは、お客さまが情熱を傾けているポイントです。なぜこの事業を始めたのか、この商品を作ろうと思ったのか。そこには、きっとどこかに“偏愛”ともいえる情熱があったはずです。そこを聞き出したい。

何を一番重視しているのか、クライアント自身も自覚していないことがあるかもしれませんね。

そうですね。まずは、ご依頼いただいた内容がお客さまにとって本当に必要なものかどうかを考えなくてはいけないと思います。プロジェクトそのものが良くなるのであれば、依頼された内容以外の提案をさせていただくこともあります。
たとえば、ある商品のパッケージデザインのご依頼をいただいた時には、すでに決まっていたネーミングが、商品とあまり合っていない印象を受けました。そこで、商品名の見直しも含め、ブランディングから一新しませんか、という提案をさせていただいたのです。結果的に、ネーミング、ロゴデザイン、パッケージデザインをすべて手がけさせていただき、新しいブランドイメージを確立できました。

ある意味でお客さまの意向を覆して提案するわけですから、伝え方が難しいですね。

そうですね…自分は思ったことをそのまま言ってしまうことが多いかもしれません。もちろん、言い方には気を遣いますが。あまり深刻にならないように、笑いを交えながら伝える。核心的なことでも、会話の延長線上のような感覚でお話しすることが多いかもしれません。プレゼンテーションのように順序立ててバシッと伝えるのは、そもそもあまり得意ではないんです。
今は長いお付き合いのお客さまや、ご紹介から始まったお客さまが多く、良い関係づくりができているからこそ、そういったスタイルが取れるのかもしれませんね。パッケージデザインや店舗デザインなど、新しいジャンルの仕事にチャレンジできるのも、クライアントさんの懐の広さに支えられていると感じます。

「写真的」な動画が生み出す一枚画の美しさとインパクト

動画事例:星岡の家(西下太一建築設計室)

御社のWebサイトに「要望があれば世界中どこでも参ります」という言葉がありました。お仕事をする地域にこだわりはないのでしょうか?

はい、どこでも行きます。日本でも、世界でも。それぞれの地域で「その場所にしかないもの」を題材にしたクリエイティブをしてみたい、という想いがあります。同じ場所、同じ価値観で制作を続けていると、できあがるものがどうしても似通ってきてしまう気がして。動画は、その土地に行かないと絶対に撮れないものがありますしね。自分の撮影スタイルでは特に、唯一無二な画を重視する傾向があると思います。

ポーラーデザインさんの動画のスタイルについて、詳しくお聞かせください。

先ほどお話ししたとおり、私の動画の入口は“写真”なんです。最初から「動画を撮ろう」と思って動画制作を始めた人は、絵コンテを作り、動画に必要な素材をあらかじめ決めて撮影に当たることが多いように思います。しかし、私は、現地で「良い画だな」「綺麗だな」と感じたシーンを撮ることを最も大切にしています。スポーツカメラマンをしていたこともあり、ある意味、記録映像的な撮り方といえるかもしれません。

動画制作において「動画的」と「写真的」、それぞれに違う作り方があるのですね。

どちらかが優れている、ということではないです。ただ、「写真的な撮り方をすると、一枚画の構図の強さがあり、SNSなどで出した時のインパクトが大きい。使い道的に今の社会の潮流に合っているので、しばらくはこの撮り方を続けようと思っています。
とはいえ、現在は2~3分程度のプロモーション動画が中心なので、これが10分、20分になってくると、目指す形はまた変わってくるでしょう。長い時間でも飽きさせないためには、「写真的」よりも「動画的」な作り方が求められるかもしれない。今後は長尺の動画の依頼にも対応できるよう、撮り方や編集を工夫していきたいです。

グラフィックデザイン、ブランディング、空間設計など、自分の好みを詰め込んだ「おしるこ屋さん」を作ってみたい

 

会社を設立されて1年。今、どんなことを感じていますか?

会社を経営するのは事務作業に想像以上に手間がかかり、思った以上に大変でした。1人で仕事をしていた頃はディレクション側に回る経験があまりなかったので、今、チームをまとめることを一から学んでいる感じです。
でも、いろいろな人と一緒に仕事ができるのはやっぱり楽しいですね。現在は4人のスタッフが在籍しているので、自分じゃできないことができるし、発想が新鮮で面白い。この1年で制作のクオリティもどんどん上がっていると感じています。
今後も規模感は変えずに少人数でクオリティを磨いていき、仕事の単価を上げていけたらと考えています。

今後叶えたい目標があれば、教えてください。

全然関係ないかもしれませんが、いつか、おしるこ屋さんがやりたいです。

おしるこですか!?

グラフィックデザインはもちろん、ブランディングや空間設計、これまでの経験で得た知見を全部詰め込んで、お店を作ってみたいんです。普段の仕事はお客さまの意向を尊重しますが、そういったことを何も考えず自分の好みだけで作ってみたら、どんなお店ができるのかなって。ちなみにおしるこを選んだのは、妻がおしるこ好きだから。深い理由はないです(笑)。

その時はやはり京都に店舗を?

どうでしょう、場所はそんなにこだわりないかもしれません。店舗を持つ必要もないのかもしれなくて、案外、週末の手作り市に出すくらいがちょうどいいのかな(笑)。今はまだ夢物語ですが、いつか実現できたらいいですね。

取材日:2023年3月14日 ライター:土谷 真咲

合同会社ポーラーデザイン

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