映画で地域の魅力を発信 和歌山の小さな街の切ない恋の物語『ちょき』

vol.136
映画『ちょき』の脚本・監督 金井純一さん、俳優・吉沢悠さん
地域の魅力を発信する方法のひとつとして、映画やドラマのロケを誘致する動きが活発になっています。その動きの中で和歌山市を舞台にした映画『ちょき』が製作され、11月19日(土)より和歌山県内で先行ロードショーがスタート。12月から東京を皮切りに、全国で公開されます。そこで今回は、『ちょき』の脚本・監督を務めた金井純一(かないじゅんいち)さんと、主人公の美容師を演じた吉沢悠(よしざわゆう)さんにインタビュー!映画の舞台となった和歌山市の魅力や、映画の見どころなどについて伺いました。
 

温めていた「盲目の少女と美容師」の構想 舞台となる和歌山市からインスピレーションを得て、脚本が完成

脚本・監督を務めた金井純一さん

脚本・監督を務めた金井純一さん

和歌山市を舞台に映画を作ることになったキッカケは?

金井さん:知り合いのプロデューサーから、和歌山市で映画を撮らないか?と声をかけられたのがキッカケです。『ちょき』は、盲目の少女と美容師のストーリーですが、この構想は数年前から温めていました。私自身には和歌山と縁はありませんが、もしかしたらこの構想が活きる場所があるかもしれないと思い行ってみたところ、とても温かい雰囲気の街でした。ヒューマンドラマの舞台に向いていると感じ、和歌山市内の場所からインスピレーションを得て脚本を完成させていきました。

主人公・直人の美容室がある「わかやまじゃんじゃん横丁」は、とても魅力的なところですね。

金井さん:とても味わい深い、良い雰囲気の場所です。最初に「こんなところがあるんですよ」と連れて行ってもらったときに、ファンタジックな映像が撮れそうだと直感しました。その日の夜は、映画にも出てくる店で酔いつぶれてしまったのですが。(笑)初めて行っても、何となく懐かしくて、気を許して飲める空気がありました。 横丁の人たちも協力的で、製作拠点となる場所を貸していただきました。ロケ地としてもそのまま使わせていただいています。

脚本は、和歌山市を訪れて書き上げたということですが。

金井さん:何度か和歌山市に滞在しながら、組み立てていきました。主人公・直人の美容室の設定は、横丁に1台だけの美容室があったので、ひとりで細々と美容院を経営している設定にしました。地元の人にカップルがデートに行くところを聞いて、実際にマリーナシティに行き、細かいシーンやセリフを決めていきました。また、和歌山の方言も『ちょき』の世界観にあっていて、関西弁ですが、大阪よりもやわらかい印象の言葉で、盲目の少女と美容師の2人の微妙な距離感を表現するのにピッタリだと感じました。最初は標準語で脚本を書いていましたが、途中から和歌山弁で書いていきました。

主演の吉沢さんは、最初に脚本を読んだときにどんな感想を持ちましたか?

吉沢さん:日常の中にある人と人との関係をじっくりと描いている、とても良い脚本だと思いました。また、和歌山市は『ちょき』の世界観にプラスとなる雰囲気があるところですね。自然と気持ちを乗せて演じることができました。

第136回 映画で地域の魅力を発信 和歌山の小さな街の切ない恋の物語『ちょき』

和歌山市と『ちょき』の世界観に、はまるキャスティング 主演の2人が並ぶファーストカットから2人の関係性が伝わる絵に

キャスティングも、舞台の和歌山市にふさわしい役者さんが揃っていますね。

金井さん:じゃんじゃん横丁には、どんな人が店を出しているんだろう?どんな人がお客さんとしてやってくるんだろう?そう考えながら、キャスティングが決まっていきました。主演に吉沢さんの名前が挙がったときは、ピッタリだと思いましたね。心の奥に熱いものを持っているけど、それを表に出しすぎない人。『ちょき』の世界観に、自然にはまる人だと思いました。

もう一人の主人公、盲目の少女役の増田璃子さんと金井さんは、以前にも一緒に映画を撮ったことがあるそうですね。

金井さん:短編映画で一緒に仕事をしましたが、その時から独特な眼差しがとても印象的な女の子でした。自分をアピールするのではなく、感じ取ってもらう芝居ができるので『ちょき』にはピッタリだと思い、声をかけました。「この子は何を考えているんだろう?」と、映画を見る人に委ねることができる役者さんです。 美容師役の吉沢さん、盲目の少女役の増田さんの2人が並んだファーストカットは、バス停のシーンでしたが、最初から2人の関係性が伝わる絵になったんですよ。その時点で「これでこの映画は大丈夫」と安心しました。

第136回 映画で地域の魅力を発信 和歌山の小さな街の切ない恋の物語『ちょき』

金井監督は、現場の空気感をすくいとれる人 前に出すぎず、心の機微を表現することを大切に演じる

主人公の美容師を演じた吉沢悠さん

主人公の美容師を演じた吉沢悠さん

吉沢さんから見て、金井監督の印象はいかがですか?現場の雰囲気はどんな感じだったのでしょうか?

吉沢さん:監督自身が持つビジョンと、現場から生まれるエネルギーを、うまくすくいあげて撮れる人だと思いました。現場から「こうしたい」と自由なエネルギーが出てくれば、それをきちんと聞いて取り入れながらも、自分の想いやビジョンを曲げるわけではない。すごくいいバランスで映画をつくりあげて行くことができる人です。映像はとても美しいのですが、それもロケ地の和歌山市が発する空気感を切り取れる監督だからできた表現だと思います。

美容師の直人役を演じるにあたって心がけたことは?

吉沢さん:主演となると、「前に出たい」と欲が出ることもあるのですが、それは『ちょき』の世界観には合いません。直人はごくごく普通の人ですから、それを意識しつつ、普通で終わってしまうと何も引っかからないで終わってしまうので、心の機微を大切にしながら演じました。

共演した増田璃子さんの印象は?

吉沢さん:経験を積むと、いろいろなことを考えてしまうものですが、増田さんはまだ10代。10代だからこその強い想いがあり、それを表現する力がある女優さんです。すごく新鮮で、美しい存在でした。

市長も改めて気づいた、和歌山市の美しさ 『ちょき』ならではの世界観を、映画館で感じて欲しい

第136回 映画で地域の魅力を発信 和歌山の小さな街の切ない恋の物語『ちょき』

和歌山市を舞台にした、美しく切ない映像がとても印象的です。和歌山市に行ってみたくなりました。

吉沢さん:それはですね、和歌山市の空気を切り取れる金井監督だからこその「金井マジック」なんですよ。(笑)

金井さん:ありがとうございます。(笑)試写に来ていただいた和歌山市の方にも「和歌山がこんなにきれいなところだと、初めて知りました」「和歌山弁って、こんなにきれいな言葉だったんですね」と言っていただき、とてもうれしかったです。 良い映像が撮れたのは、和歌山市にいろいろな協力してもらったことも大きかったです。主人公が通う盲学校も、実際の県立和歌山盲学校に協力してもらい、校舎や寮も本物です。演じる増田さんも盲学校に通う生徒や先生から話を聞き、役作りに活かすことができました。

読者に向けてメッセージをお願いします。

吉沢さん:『ちょき』は、それぞれが持つ喪失感を埋めていくお話で、人と人との関わりを大切に描いている映画です。増田璃子さんが演じる「盲目の少女が自分で自分の髪を切る」シーンなど、映像ならではの表現が重なり、『ちょき』ならではの世界観をつくり出しています。その世界観をじっくりと感じるためにも、ぜひ映画館で見てください。

金井さん:美容師と盲目の少女、2人のお話です。この2人の距離感や関係を描きながら、映画は進んでいきます。難しい役どころの主演の2人を見るだけでも、価値のある映画だと思います。和歌山の魅力も、映画から感じてください。

最後に、金井さんのように、映画監督を目指す人にアドバイスをお願いします。

金井さん:映画監督になるには、人と違う何かが必要になります。それを見つけるためには、まずは撮ってみないとわかりません。今はiPhoneでも映画が撮れる時代ですから、まずは撮ってみることが大切。それを発表して、観た人の感想を聞いて、自分のクリエイティブに活かしていくことで、自分の特徴や長所が作られていくのではないでしょうか。 また、人を描ける人は残っていけると思います。人を描くということはとても難しいことですが、その難しさに気づいたとき、今まで見えなかったものが見えてくると思います。

取材日: 2016年10月27日 ライター: :植松織江

第136回 映画で地域の魅力を発信 和歌山の小さな街の切ない恋の物語『ちょき』

『ちょき』

増田璃子、吉沢悠 藤井武美、和泉ちぬ、広澤草 芳本美代子、小松政夫

脚本・監督:金井純一 音楽・主題歌:おおはた雄一 メイン写真:川島小鳥

原案:7daysfilms/エグゼクティブプロデューサー:前田和紀/プロデューサー:加藤伸崇/アソシエイトプロデューサー:志賀弘明 村田徹/撮影:古屋幸一/照明:加藤大輝/録音:岩間翼/美術:大藤邦康/音響効果:武田拓也/ヘアメイク:佐々木愛/スタイリスト:工藤唯/編集:金井純一/劇中歌:waybee/助監督:近藤有希/制作担当:松川浩/ラインプロデューサー:古賀奏一郎/撮影協力:わかやまじゃんじゃん横丁 青空とんび 和歌山県立和歌山盲学校 和歌浦天満宮 和歌山マリーナシティ 他/題字:松村博峰/助成:和歌山市ロケ誘致支援補助金/制作プロダクション:SDP/制作協力:SS工房/配給・宣伝:SDP/製作:「ちょき」フィルムパートナーズ choki-movie.com ©2016「ちょき」フィルムパートナーズ

12月3日(土)より、渋谷HUMAXシネマにて公開!
 

小さな街の小さな美容室。 盲目の少女と美容師のおじさんの、 ていねいで、いとおしい、小さな恋の話。

自然豊かな和歌山市の商店街にある美容室“HATANO”。 レコードとコーヒーが好きな波多野直人(吉沢悠)は美容師を、妻・京子(広澤草)は美容室の二階で書道教室をしていた。 7歳の瀬戸サキは、その書道教室に通っていた問題児だが、京子はサキを自分の娘のように可愛がっていた。 直人と京子の間に子供はいなかった。 時は経ち十年後、一本の電話がかかってくる。それは十年前のある事件以来会っていなかったサキ(増田璃子)だった。彼女は視力を完全に失っていた。直人も最愛の妻・京子を五年前に亡くしていた。 空白の十年間に何があったのか。 サキの想いを知り、直人はある大きな決意をする……。 (2016年/カラー/アメリカンビスタ/DCP5.1ch/98分)

くわしくは、『ちょき』公式サイトをご覧ください。

 
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