“きのこの山vsたけのこの里”論争はなぜ盛り上がる?株式会社 明治に聞く、ブランディング戦略と50周年の仕掛け

Vol.243
株式会社 明治 カカオマーケティング部 カカオニュービジネスG
Iori Yoshida
吉田 伊織

発売から半世紀近く、日本人に愛され続けてきたロングセラーブランド「きのこの山」と「たけのこの里」。SNSやテレビCMを通じて繰り広げられてきた「きのこ派」「たけのこ派」の論争は、今や世代を超えた国民的な話題として定着している。

2025年には「きのこの山」が発売50周年を迎え、記念テーマ「どっち派は、変わる」を掲げたキャンペーンを展開中だ。本記事では、株式会社 明治 グローバルカカオ事業本部で両ブランドのマーケティングを担当する吉田伊織氏に、ブランドの核、キャンペーンの舞台裏、そして今後の展望について伺った。

「きのこの山・たけのこの里」ブランディングの核は“おいしく、おもしろく”

現在の日本で、きのこの山・たけのこの里のどっちが好き?という話題を知らない日本人はいないくらい、長く愛されているブランドだと思います。まずこの商品をブランディングしていく上での核になっているものは何でしょうか?

多くの人々に愛された結果、きのこの山とたけのこの里はエンタメとして対立構造になっています。そんな中、このブランドが持っている価値はホームページにも掲げている「みんなに、おいしく、おもしろく。」です。美味しいだけではダメですし、面白いだけでもダメ。いろんなリリースやキャンペーンを出していますが、手に取って食べたときに必ず「やっぱり美味しい!また食べたい!」と思ってもらえることを何より大事にしています。

奇抜なことだけをやってしまうと、ブランドの価値が変動する可能性もあると。

何かをやるときにも、最終的には必ず“食べる”という部分に着地させ、おいしさと一緒に論争を楽しんでもらえたときに、初めてブランディングが意味を持つと思っています。プレスリリースやSNSのポストひとつとっても、この価値観だけは外しません。面白ければ何をやってもいい、となってしまうとお金もかかりますし、企画だけが独り歩きして思わぬ炎上にもつながりかねません。何のためにやるのか?と言えば、みんなに美味しさと楽しさを感じてもらうこと。その一点が外してはいけないポイントです。

今年できのこの山が50周年を迎え、改めて「きのこ派?たけのこ派?」論争が再燃していますね。これらの仕掛けはどのような経緯で始まったのでしょうか?

初めてきのこの山VSたけのこの里という競争を公式が行ったのは、2001年に行われた総選挙キャンペーンがきっかけです。『きのこ党』と『たけのこ党』を結成し「どっち派?」と問いかけた結果、そのときはたけのこの里が勝利をおさめました。

ただ、この対立構造自体は私たちが最初に仕掛けたのではなく、Twitter(現X)や2ちゃんねるといったネット上でもともと論争があり、それを我々が逆に取り入れて「みんな実際はどっちなんだろう?」と公式に展開したら面白いのでは?という考えから始まったのが最初のきっかけです。

なるほど、最初は図らずともユーザーが盛り上がっていた?

そうですね。ただ当時は今ほど公に言い合う文化はなく、即席麵のどっち派論争の方が多かったみたいです。極端に言えばきのこの山・たけのこの里論争は、クローズドな空間で「どっちだ?」と小さく言い合っていた程度だった。それが、2001年に総選挙をしたことでユーザーが「公に言い合っていいんだ!」と気づいてくれ、自然と論争が表に出てきたのだと思います。

似て非なるお菓子だからこそ成立する、“きのこの山vsたけのこの里”の対立構造

とはいえ、ユーザー間で盛り上がっているものに企業が介入するのはある種、勇気がいる決断だったと思いますが、そこはどう考えたのでしょう?

当時のメンバーたちには多少の葛藤があったかもしれません。ただこの論争の特徴なのですが、あくまでエンタメとして対決するのが暗黙の了解としてあり、心が痛くなるような過激さが少ない。もちろん演出としてあえて強い言葉を使う方はいますが、相手を否定するのではなく、それぞれ「自分はきのこの山orたけのこの里が好きなんだ!」と言い合う平和なやり取りなんです。

だからこそ介入する価値がありました。そもそもクラッカーにチョコを刺した「きのこ」と、クッキーにチョコをかけた「たけのこ」は物性も違うもの。似て非なるものだから、ユーザーとしてもそれをわかったうえで、あえて対立するという流れになっていました。ですので、公式も押し付けず、見守りながら背中を押すことで、盛り上がりもより活発になりました。

SNS上では半年に一回くらいのペースで、きのこ派やたけのこ派の主張が数十万いいねを集めるような投稿が出ます。明治さんとしてはこの盛り上がりを率直にどう感じていますか?

とてもありがたく思っています。それに、先述したように強い言葉を使う人もいますが、そういう方々も意外と両方を食べてくれているんです。「辛い/甘い」のような対立とは違い、あくまで物性の違いなので、可愛らしいやり取りだなと思いながら微笑ましく見ています(笑)。それも含めてエンターテインメントだと思っています。

定期的に開催されるキャンペーンは反響が大きい印象ですが、企画はどのように決まるのですか?

手段は様々ですが、開催されるキャンペーンは「ユーザー参加型である」という特徴があります。キャンペーンの度にCMを打ったりすればユーザーも盛り上がりますが、お金もかかりますし、一瞬で忘れられてしまう可能性もあります。バズを他人事として捉えてもらうのではなく、あくまで「自分ごと」として意識してもらうために、ユーザー参加型というコンセプトにしています。

それから、おそらく心の中に「きのこ派・たけのこ派」がある人のなかで、SNSで表明していない人もたくさんいます。ネットで気軽に参加できるようにすることで言いやすい環境を作り、最後は実際に食べてもらって、「くだらないケンカだったね(笑)」と笑い合える。そんな健全な論争が活発になってほしいと感じています。

「どっち派は、変わる」──50周年CMに山里亮太さんを起用した理由

そんな中、きのこの山が50周年を迎える今年はお笑い芸人の山里亮太さんを起用し、テレビCMも放送しました。その意図は?

山里さんは1977年生まれで、「きのこの山」(1975年)と「たけのこの里」(1979年)のちょうど中間という奇跡の存在です。CM内では今年のキャンペーンテーマである「どっち派は、変わる」に沿い、たけのこ派だった山里さんがきのこ派に変わる姿を描いています。ただ、見え方的に暴力的に映るのは本意ではないので、怪しげな椅子に縛られているように見えても実際には縛られておらず、無理やり食べさせるのではなくお箸で食べる演出にしています。

言い方は悪いですが、きのこ派か、たけのこ派かという論争は、あまり大したことではないんです。だからこそ楽しんでもらいたい。なので、あくまで軽い気持ちで「どっちが好きか、変わってもいい」というメッセージを伝えるようにしました。

そういえば自分もたけのこの里派ですけど、きのこの山が嫌いとかではなく、ただ食べてないだけでした…。

そうですよね。それがロングセラーブランドの特徴でもあり、気を付けないといけない部分なんです。有名な清涼飲料水やお菓子なども、名前は知っているし嫌いじゃないけど「そういえば、最後に口にしたのっていつだっけ…」と、“嫌いでやめたわけではないけど”という商品は沢山あるんです。何かきっかけさえあればまた食べてくれる。そんな人たちに「ねえ、ちょっと戻ってきてみない?」と問い直すような仕掛けが、今回のCMが持つ意味でもあります。

そのほかにブランディングで気を付けていることは?

2001年のキャンペーンでは、当時最先端だったドコモのiモードを使いました。ブランドの名前にあぐらをかいていれば、必ず忘れられてしまう。せっかくの休止ユーザーも取り込めず退化してしまうので、ニュース性の高い新しい取り組みをしていくことが重要です。きのこの山とたけのこの里は、誰もが懐かしいと感じる古めのパッケージだからこそ、最先端の技術やトピックスを取り入れることで、人々が熱狂するような仕掛けを心がけています。

ちなみに8月11日「きのこの山の日」は50周年を記念したイベントとしてきのこの山・たけのこの里 どっち派判定AI 「MOTHER」体験を実施しました。「MOTHER」は、明治社員数百人分の約167万パターンを超える顔・嗜好データから構築された“どっち派データ(DD)”を活用し、育ってきた環境や地域による思い込みや偏りに影響されない、あなたの潜在的な嗜好=「どっち派」を客観的に判定する最新AIです。大阪・関西万博の複数のパビリオンに携わるチームと共同で開発され、その高精度・高効率な判定技術は業界内でも注目を集め、多くのメディアにも取り上げられました。また、イベント会場に来ることができなかったファンの方々のために、Web版「MOTHER」も同時公開(https://mother.kinotake.jp/)。日本中の皆様に楽しんでもらえると嬉しいです。

世界20か国で調査、14か国は“きのこ派”──意外な結果を公表した理由

50周年の企画として、グローバル調査も実施されていましたよね。20か国で調査した結果、14か国では「きのこ派」が多数派だったと伺いましたが、今回あえて海外の反応を取り上げようとした理由を教えてください。

もともと日本では「きのこの山」と「たけのこの里」の論争が根強く、たけのこ派が優勢という印象を持たれている方が多いんです。ですから、「世界でもたけのこが勝つだろう」と思っている方が多かった。しかし実際に海外で調査してみると、意外にも「きのこ派」が多数派だったんですね。

実は「きのこの山」は海外でも販売してるんです。クラッカーにチョコが乗った「きのこの山」は構造的にもシンプルで、形としても理解されやすい。一方、「たけのこの里」は、たけのこや竹そのものがアメリカやヨーロッパではあまり一般的ではない。アジアの人はたけのこの形に馴染みがありますが、欧米の人には「これは何の形?」となってしまうことも多いんです。

ですので、今回「きのこの山」が50周年という節目の年にあたって、「世界では実は“きのこ派”が多いんですよ」というデータを出すことで、盛り上げていきたいという狙いがありました。また、インバウンド需要が高まっていることも、今回この調査を行った理由のひとつです。

もし今後、海外での認知が高まって「たけのこ派」が増えてきたら面白いですね。

チョコレートのボリューム感を好む国民性も影響しているようで、そういった意味でも「きのこの山」が支持される傾向は理にかなっています。クラッカーの食感も、海外では受け入れられやすい印象があります。とはいえ、海外市場の本格展開はこれからが本番ですね。

実際、インバウンド需要の高い店舗では「たけのこの里」も非常によく売れています。だからこそ、今後どうやって新しいコミュニケーションを構築していくかが重要だと思っています。海外に商品を展開していくのか、それとも国内で日本人とインバウンド客の両方を巻き込んで盛り上げていくのか。日本で生まれた“きのこ・たけのこ論争”を、どうやって海外に持ち込むか。そこは今まさに検討しているところです。

「点」だけでなく「線」で仕掛けを考える視点を持つこと

今後の展望やブランドの方向性について教えてください。

繰り返しになりますが、私たちが大切にしているのは「みんなに、おいしく、おもしろく。」というブランド価値であり、そのうえで時代の最先端の手法を使いながら、懐かしのロングセラーブランドを今の時代にどう響かせるか?を考えています。新しい技術や表現に常に目を向けつつ、本気で、まじめに、大人が“くだらないこと”に取り組む。それがブランドに生命を与えると信じています。たとえば昔のプラモデルも、最初は子ども向けに作られたけれど、大人が夢中になって、いまではひとつのカルチャーになっていますよね。そういう熱量がブランドを強くしていくんだと思います。

また、きのこの山とたけのこの里って、誰しもが「どっちが好き?」と自然にコミュニケーションが生まれることが魅力でもあります。だからこそ、これからも楽しさを軸に、どんな時代でも親しまれるブランドでありたいと思っています。

最後に、読者であるクリエイターに向けて、アドバイスをお願いします。

クリエイターに求められるのは、「点」で面白いことを突き詰める力と、それを「線」にしていく視点の両方だと思います。中には、面白いアイデアを何本も出せる人もいますが、そうでない人の方が多いのが現実です。だからこそ、一発勝負ではなく、長い目でつながるような仕掛けを考えられるかが鍵になります。

私たちは今、次の100周年を見据えてブランドを育てています。今年だけの盛り上がりではなく、5年後、10年後にどうなっていたいのか。そこをしっかり見据えて進んでいくことが、最終的には「お客様に寄り添うこと」になると思っています。

それは、人間関係も同じですよね。短期的な付き合いよりも、つながり続けることを見据える。そういう視点でブランドや商品と向き合える人が、これからの時代には求められると思います。

取材日:2025年6月6日 ライター:FM中西

株式会社 明治

  • 代表者名:八尾 文二郎
  • 設立:1917年12月
  • 事業内容:牛乳・乳製品、菓子、食品の製造販売等
  • 本社所在地:〒104-8306 東京都中央区京橋二丁目2番1号
  • URL:https://www.meiji.co.jp/

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