グラフィック2015.05.20

フォトグラメトリースタジオ AVATTAが”表現する”世界

Vol.117
株式会社アバッタ 代表 桐島ローランド
モノづくりのデジタル化が進み、医療からプロダクトデザイン、フィギュアなどのエンターテイメントまで、あらゆる分野で3Dデータが駆使される時代です。3Dデータを作る際に欠かせないのが、3Dスキャニング。今回は、この3Dスキャンを「フォトグラメトリー」という技術を使って制作する株式会社アバッタを訪問!撮影スタジオを見せていただきながら、写真家としても著名な桐島ローランド代表に、興味深いお話をたっぷり伺いました!

「スキャン」ではなく「キャプチャ」 一瞬でリアルなデータを撮影!

カメラをUSBでPCにつないで、市販されているアプリに取り込んで3D化します。

カメラをUSBでPCにつないで、市販されているアプリに取り込んで3D化します。

この撮影スタジオに入ると、圧倒されますね! カメラは何台ありますか?

現在は84台のカメラがあります。 「フォトグラメトリー」とは、360度設置されたカメラで同時に撮影し、その写真データをつなぎ合わせて3D化する技術です。

3Dデータは、ハンディスキャナーから読み込む手法が一般的ですよね。

「フォトグラメトリー」は、まだ日本でも数社しか導入していない先端技術です。 ハンディスキャナーは手で持って撮影対象を360度スキャンしますが、その間は撮影対象は動くことはできません。5分はかかりますから、子どもがじっとしているのは無理ですよね。 また、ハンディスキャナーは3Dデータのクオリティがあまり高くありません。例えば、人の体型は再現できても、服のシワの質感や顔の細かな造作を再現するのは難しい。 「フォトグラメトリー」なら、本当にリアルなデータが撮れますし、ジャンプしている瞬間も再現することができるんですよ。“スキャン”するのではなく“キャプチャ”するイメージです。

撮った写真をどのように3Dデータ化するんですか?

カメラをUSBでPCにつないで、市販されているアプリに取り込んで3D化します。ですから、カメラを集めて、ソフトをインストールすれば、誰でもできる技術です。

60台以上のカメラが360度設置されたスタジオ。

60台以上のカメラが360度設置されたスタジオ。

技術を知った半年後にはスタジオをオープン トライ&エラーを繰り返しながら、自分で仕組みを構築!

東京・芝公園にあるAvatta Studio(アバッタ スタジオ)

東京・芝公園にあるAvatta Studio(アバッタ スタジオ)

写真家である桐島さんが、この技術と出会ったのは?

専門ではないのですが、テクノロジーが好きで、去年の2月にシリコンバレーに行く機会がありました。 GoogleなどIT企業を視察したのですが、その時にこれからはVR(仮想現実)、AR(拡張現実)の時代が来ると直感しました。 このVR、ARの分野で、何か写真の技術や経験を活かして新しいことができないか?と探しているうちに、「フォトグラメトリー」を知ったんです。

確かに、写真とITが融合した技術ですね。

知ってすぐに、ネットで集めた情報を元に、カメラを40台集めて仕組みを組んでやってみました。 うまく成功したので「これはいける!」と勢いがつきましたね。 すぐに場所を探し始めて、ここ(東京港区芝公園)を見つけて、8月には借りて10月にスタジオをオープンしました。

すごいスピード感ですね!このスタジオは、桐島さん自身で仕組みを組んだのですか?

この業界はスピード感が命ですからね。 いろいろな人の助けも借りましたが、基本的に自分で作りました。 当時は海外にしか情報がなかったので、英語がわかったこと、もともとテクノロジーが好きでそれなりに知識があったこと、またこれまでの仕事を通して3Dや写真についての経験や技術を持っていたことも大きかったですね。 とはいえ、PCにつなげるUSBの相性があったり、露出やライティングの調整をしたり、トライ&エラーを繰り返して作り上げていきました。

「この業界はスピード感が命ですからね。」と語る桐島氏。

「この業界はスピード感が命ですからね。」と語る桐島氏。

写真家として活躍されている桐島さんが、いきなりこのような先端技術を使ったビジネスを始めたことに、周囲は驚いたのではないですか?

確かに、「なんでお前がやってんの?」と、いろんな人に言われましたね(笑)。 ですが、僕の新しいモノに飛びつく性格を知っている人には、「お前も相変わらず好きだな。」と言われました。 デジタルカメラが出てきたときも、日本で少なくとも5本の指に入るスピードで使い始めましたからね。 「またか。」という感じでしょうか(笑)。

クオリティの高い3Dフィギュアを安価で提供 データをアップするプラットフォームも!

「フォトグラメトリー」の3Dフィギュアは、驚きの質感!

「フォトグラメトリー」の3Dフィギュアは、驚きの質感!

「フォトグラメトリー」を使って、現在はどのようなビジネスのニーズがありますか?

わかりやすいビジネスとしては、“スキャン屋"としてのニーズがあります。 ハンディスキャナーにはできない高クオリティな3Dデータを提供することで、リアリティのある3Dフィギュアを作ることができます。この20センチフィギュアの制作を、現在は4万円で提供しています。 このクオリティには自信があるのですが、なかなかハンディスキャナーのフィギュアと比べる機会がないので、アピールしづらいんですよね。

私は取材で何度も3Dデータやフィギュアを見てきていますが、「フォトグラメトリー」の3Dフィギュアはまったく質感が違いますよ。リアルで驚きましたが、このクオリティが4万とは安いですね!

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そうなんですよ。3Dフィギュアが身近になって、目にする機会が多くなれば違いをわかってくれる人も増えると思っています。 フィギュアを作るだけでなく、作成した3DデータをアップするプラットフォームもWeb上に作って提供しているので、スマホやタブレットでみんなに見せて楽しむこともできます。 一般向けではまだ提供していませんが、3Dデータに骨組みを入れる加工をすれば、ダンスをさせることもできるんですよ。

これはすごいですね!ものすごく面白いです!

「フォトグラメトリー」では、自由に動かせるCGを簡単に作れます。 ニーズが高いのはゲーム業界で、これまでCGキャラクターを作るのに2ヶ月はかかっていたので、人件費がかなり高くつきました。 それを「フォトグラメトリー」で作れば、おそらく1/20ほどのコストになります。 しかも、リアリティがまったく違う。ゲーム機の性能も上がり、リアルなCGとの差はハッキリしてくるので、ニーズはより高まっていくと思います。

クオリティの高いCGを使うことでコストダウン さらに表現の制限がなくなっていく!

確かに、ほとんど実写と変わらないですね。

実際の人間の代わりに、映画やミュージックビデオでもCGが使われています。 映画のエキストラは、実は生身の人間でなくCGで撮影されていることも多いんですよ。 例えば、時代劇の合戦のシーン。エキストラに鎧甲冑の衣装を着せて1日拘束すれば、衣装代とギャラで20万近くかかると言われています。何百人もが戦うスケールの大きな映像を撮ろうとすると、ものすごいコストがかかりますよね。 しかし、20人ほどバラエティに富んだ鎧と甲冑を用意して撮影しておけば、CGで何人も増やすことができるので、低コストで壮大なスケールの映像が撮影できるのです。CGを使うことで、表現の制限がなくなってきています。

AR、VRの分野ではどうですか?

ダンスヴォーカルユニットAAA(トリプル・エー)のCD購入特典で、スマホに専用アプリをダウンロードすれば、メンバーがダンスをする3D映像が見られるというARのプロジェクト「AAAR(トリプル・エーアール)」をやりました。モーションキャプチャを撮って、ダンスを再現しています。

仕組みは誰にでもできるが、“表現”で勝負。 3Dアバターで遊べることを目指し、「アバッタ」と命名!

とても面白く、可能性が無限にありそうですが、その反面、競合も多くなりそうですね。

僕が自分で作れたくらいですから、仕組み自体は誰にでもできるものです。 しかし、仕組みはあっても表現は難しいもの。 デジカメが出たとき、誰でも撮れるからフォトグラファーは必要なくなるのではないか、と言われていましたが、そんなことはなかった。同じように、同じ「フォトグラメトリー」でもアバッタが作るモノは違うね、と思われる表現を追求していきたいです。 また、コストダウンを目的に採用されることが多いですが、コストだけで使われるのは寂しい。コストも減るけど、アバッタに頼めばクオリティも上がる、と言われたいですね。

株式会社アバッタ CEO 桐島ローランド氏 日本初のフォトグラメトリー技術を用いた3Dスタジオを擁する東京・芝の写真スタジオAVATTA Studio(アバッタ スタジオ)を運営 。

株式会社アバッタ
CEO 桐島ローランド氏
日本初のフォトグラメトリー技術を用いた3Dスタジオを擁する東京・芝の写真スタジオAVATTA Studio(アバッタ スタジオ)を運営。

先ほどの繰り返しになりますが、その“表現”をわかってもらうためには、より3Dが身近になる必要がありますね。

もっと身近に感じてもらうために、スタジオ外で撮れる簡易版の「フォトグラメトリー」を作ったので、3D体験イベントなどをやっていきたいですね。 今でもハンディスキャナーの3D体験イベントはありますが、「フォトグラメトリー」は一瞬で撮影できるので、こなせる人数が違いますし、クオリティも違います。そこで作った自分の3Dデータをフィギュアにしてもいいですし、データで遊べるプラットフォームを作りたいと考えています。

それは楽しみですね!3Dデータをダンスさせるのはとっても楽しかったので、自分の3Dデータでも遊びたいです!

ダンスだけでなく、もっといろいろなことができるような遊べるサイトを1年以内には作りたいです。 自分の3Dデータをアバターとして使えることを目指して「アバッタ」と会社を名付けていますから。 「アバッタ」の今後に期待してください!

取材日:2015年5月11日 ライター:植松

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