Eテレ番組から図工教室まで、アートディレクター鈴⽊友唯が作る子ども向けクリエイティブの世界

Vol.195
アートディレクター/ イラストレーター
Yui Suzuki
鈴⽊ 友唯

ニュースやドラマ、バラエティなど、幅広い年代に向けてさまざまな番組が放送されている中、子ども向け番組はターゲットを絞りに絞った特別な存在です。どうしたら見続けてくれるのか、何を面白がるのか考え抜かれて作られています。

そんな子ども向けクリエイティブを中心に手掛けているのが、アートディレクターの鈴⽊友唯(すずき ゆい)さんです。多数の子ども向け番組や絵本のイラストなどを担当されている鈴⽊さんに、子ども向けクリエイティブの魅力やアートディレクターとしてのキャリアについて、お話をうかがってきました。

 

クラスに1人いる“絵が上手い子”からアートディレクターへ

鈴木さんはどんなお子さんで、学生時代はどう過ごしていましたか?

子どもの頃からずっと絵を描くのが好きで、いわゆるクラスに1人いる絵が上手い子でした。高校1年生のときにアートディレクターという職業を知り、これをやりたいと思って美術の予備校に通い始めました。そこには絵が上手い人がたくさんいて、私って一番上手いわけではないんだ…と衝撃を受け、絵の勉強に専念しました。

当時描いていた絵はどんなテイストでしたか?

高校生のときはクラスTシャツや文化祭のポスターを描いていて、その頃から色使いはビビッドなものが好きでした。高校1年生のときです。アートディレクター森本千絵さんが手掛けた、Mr.Childrenの『SUPERMARKET FANTASY 』(TOY’S FACTORY Inc.)のCDジャケットを見て感動し、誰が作ったんだろうと初めて疑問を抱いたんですよね。そんな経緯から、森本さんの世界観に憧れを抱きつつ自分の世界を育てていきました。

大学生のときはどんな活動をしていましたか?

武蔵野美術大学に入ってからは、「造形教育研究会アトリエちびくろ」という子どもと一緒にワークショップをするサークルに入りました。月に1回、100人くらいの子どもと一緒に巨大な迷路を作ったり、絵の具を全身に浴びながら遊んだり、いろいろな企画をやるサークルで、子どもとする「ものづくり」ってすごく楽しいと思うようになりました。そこから次第に子ども向けのワークショップなどをやる機会が増えていきました。

そのサークルに入ったきっかけは何ですか?

大学のパンフレットにみんながダンボールの衣装を着てパレードをしている写真が載っているのを見て、絶対このサークルがいいとすぐに決めました。最初から一直線でしたね。

その後、ドローイングアンドマニュアル株式会社に入社されたんですね。

前社長の菱川勢一(ひしかわ せいいち)さんが大学時代のゼミの先生で、私がこども向けのクリエイティブに関心があることを知っていてくれたのもあり、入社後、勉強させていただく機会を多く作っていただきました。その経験が今にも活きていると思います。

 

テレビ番組から図工教室まで幅広く手掛ける

現在はアートディレクターとしてたくさんの作品を手掛けられています。アートディレクターという仕事は具体的にどんなことをされているのでしょうか?

アートディレクターの仕事は世界観を生み出して、現場を作り上げるのがメインだと思います。企画から入ってコンテを起こす場合もありますし、企画に美術がある場合は自分で絵を描いたりダンボールなどで工作することもあります。それから、現場で演出をするのですが、うちの会社の場合はちょっと特殊で、その後の編集やアニメーションも自分でやることが多いです。そこは他のアートディレクターさんとは少し違うかもしれないですね。

なるほど。どうやって世界観を作っているんですか?

案件のご依頼の際に、言葉やキーワードをいただいてどんな方向性やディレクションがいいかイメージをするのですが、私の場合はまず画像などを集めて、自分のイメージをある程度クリアにしてから自分で描く、というプロセスで作っています。

「こんな感じの単語でお願いします」というような依頼ですか?

そうやって来る場合もありますし、サンボマスターさんのミュージックビデオ『ヒューマニティ!』を手掛けたときは曲をいただいて、あとは自由に作らせていただきました。曲を何度も聞きながら言葉を出したり、一度頭の中にあるイメージを描いてみたり、少しずつ解像度を上げていきましたね。

 

他にもNHK Eテレ『u&i』絵本も手がけられていますよね。

これはもともと番組のアートディレクションをやらせていただき、キャラクターデザインとイラストを担当した流れで「絵本のイラストも描き下ろしてください」とお声がけいただきました。

テレビやミュージックビデオなど映像系の仕事だけでなく、絵本も手掛けるのですね。そんな多彩な製作の過程では何を参考にしていますか?

自分にはまだ子どもがいないので、周りの人から聞いたりしますね。現場で一緒になったカメラマンさんに「お子さんはどういうので笑いますか?」と聞いたら、「おならの音が面白いらしいよ」と言われたので、赤ちゃん向け番組の効果音におならっぽい音を入れてみたりとか。

作品に対してフィードバックはありますか?

今担当している赤ちゃん向け番組『シナぷしゅ』には、『ぷしゅぷしゅの毎日』というコーナーがあります。「ぷしゅぷしゅ」というキャラクターが日常の中で、遊んだり工作をしたり何かに変身したり・・・いろいろなことをやるのですが、それを真似してご自宅でもぷしゅぷしゅの人形で遊んでみましたという声をいただいたりすると、赤ちゃんに面白がってもらえている!って嬉しくなります。

作品作りだけでなく、図工教室もされていますよね。『こども図工教室 YAKKE』は学生時代から続けているものですか?

これは社会人3年目の頃から始めました。学生時代に一緒に図工教室をやっていた仲間たちが、社会人になってから子どもと一緒に「ものづくり」をする機会がなくなり、それぞれが小さなストレスを抱えていたんです。せっかく4年間子どもと一緒に物作りをしてきて、プロフェッショナルに近いことができる仲間たちなので、仕事と一緒にできるような図工教室をやっていこうと始めました。

 

赤ちゃん、幼稚園児、小学生、中学生…年代別の面白さ

子ども向けクリエイティブの面白さを教えてください。例えば赤ちゃん向けは何が面白いですか?

『シナぷしゅ』では言語を持っていない赤ちゃんに、どう面白く見てもらうかが課題で、内容がわかるかどうかというより見続けてもらうことを目指しています。言語じゃないもので伝えるというのは、新たな言語を作っている感じで、すごく面白いなと思いました。

難しくはないですか?

「難しい」という感覚よりも、「面白い」ですね。子どもが面白いと思うであろう動きとか、音やテンポなどを感覚を研ぎ澄ませながら、左脳を捨てるようなイメージで作っています。

幼稚園児向けで気を付けていることは何でしょうか?

今ちょうどEテレの『あおきいろ』というSDGsの番組をお手伝いしているのですが、まだ小学生になっていない子どもたちにSDGsのことを、小難しく教える番組を作ってもなかなかみてもらうことが難しいので、まずは身の回りの自然を美しく思うとか、人に優しくする気持ちを考える、みたいな気づきを与えることができればという気持ちでコーナーやビジュアルを作っています。

では小学生になるとどう変わるのでしょうか?

小学生向けの子ども番組を作っているときは、とにかくわかりやすくすることが一番大事だと思っています。例えば『u&i』の場合は、障害を持っていたり何か違う特性を持っている子がクラスにいたとして、どういうふうに楽しくやっていこうかと考える番組で、いつも疑問を投げかけて終わります。それがちゃんと届いているとわかったときは面白いですね。授業でも使われているそうで、同じ投げかけに対しての小学生だといろいろな意見が出たり、議論が生まれるそうです。そのようなフィードバックを先生から聞いたり、『u&i』のワークショップで実際に見たりすると、作ったものがちゃんとわかってもらえて、それがまた新たな考えにつながっていると知ることができ作ってよかったなと思います。

中学生向けはもっと変わってくるんでしょうか?

中学生になるとみんなで考えようというより、「こういうことをやったらもっと豊かになるよね」みたいなことを伝えるイメージかなぁと思います。小学生のときに考え方を育んで、中学生でその考え方をさらに飛躍させるために発信することが多い印象があります。

 

将来は自分の子のために作品を作りたい

今後やっていきたいことを教えてください。

自分の子のために作品を作ってみたいなと思います。私はまだですが、周りで子どもを産んでいる方が増えてきているし、誰かの子のために作るのと我が子のために作るのはまた少し感覚が違うかもな…と思うので。仕事に関しては、子どもたちの表情や学んでいる姿を直に見るのがすごく面白いので、ワークショップとか体験の場をもっと作りたいと思います。

近い分野で尊敬するクリエイターや会ってみたいクリエイターを教えてください。

以前、弊社に在籍していたアートディレクター清水貴栄(しみず たかはる)さんにはすごく感謝していますし、尊敬しています。2、3年べったりつかせていただいて、今も一緒にお仕事をさせていただいているのですが、「わかりやすさ」の作り方など、近くで見ていたからこそ学べたことがたくさんあります。会ってみたかったのは「ミッフィー」の作者、ディック・ブルーナさん。私もミッフィーがすごく好きなので、ブルーナさんみたいなずっと愛されるものを作るのは憧れですね。

最後に、子ども向けクリエイティブの仕事を目指すクリエイターにアドバイスをお願いします。

『ぷしゅぷしゅのまいにち』をはじめ、関わらせていただいている子ども向けコンテンツの現場は、本当にこの仕事が好きな人たちでワイワイと盛り上がって作っています。逆に子ども向けの番組をギスギスしながら作るってすごく難しいのかなって。良いものを生み出すためには自分自身が楽しいと思いながら取り組むことが大事だと思っていて、私自身子どもの頃からずっと絵を描くことが楽しいと思いながら、生きてきました。自分が楽しいと思うことを信じて、形にしていけばいいんじゃないかと思います。


取材日:2021年8月13日 ライター:坂本彩

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『シナぷしゅ』Copyright © TV TOKYO Corporation All rights reserved.
「ミッフィー」は、オランダ メルシス社の商標または登録商標です。

プロフィール
アートディレクター/ イラストレーター
鈴⽊ 友唯
武蔵野美術⼤学 基礎デザイン学科卒業。映像やグラフィック、アートディレクション、絵本のイラストレーション、デザインなどを⼿がける。代表作は 「パプリカ」foorin楽団ver. MV、 Eテレ『u&i 』絵本、イラストレーション、ブックデザインなど。

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