創造の、こんなカタチ。~タイコクラブを企画、運営する仕掛け人たちの創造活動~

vol.38
こいのぼり株式会社 マーケティングストラテジスト 河野友作さん
タイコクラブ(TAICOCLUB)公式サイト http://www.taicoclub.com/タイコクラブ(TAICOCLUB)公式サイト
http://www.taicoclub.com/

渋谷の街に数多くある、大型街頭ビジョン。「どれも広告メディアで、CMが流れているだけだろう」と思っているあなた、この2月からちょっとした変化が起こっているのに気づいてませんか?渋谷に計6つのビジョンを保有する株式会社シブヤテレビジョンが、ハチ公前交差点に面した場所にある「シブヤテレビジョン2」で、アートユニット/Enlightmentやデジタルクリエイター/loworks、イラストレーター/新井洋行、島田大介(コトリフィルム)などの映像作品を定期放映しているのを。 それは、「タイコクラブ/アートプロジェクト」と呼ばれる企画で、今後月替わりで映像音響アーティスト黒川亮一や浅野忠信(俳優)×柿本ケンサク(演出家)などの作品が公開される予定になっている。(詳しくは、http://www.taicoclub.com/artproject/参照) 仕掛け人は、タイコクラブ(TAICOCLUB)なるブランドのもとに、音楽イベントやアートプロジェクトを展開する、こいのぼり株式会社。この会社、いかなる企画会社?と調べてみると、意外な素顔が――

構成メンバーは3人で。代表取締役を含めた2人が、他に本業を持つ社会人。もう1人は、大学院生。つまりは、趣味――に語弊があるなら、利益目的ではなく、純粋に企画と運営を楽しむために設立した会社なのです。 「僕たちは、僕たちのできることで創作している」と、とても楽しげに語る代表取締役/安澤太郎さんとマーケティングストラテジスト/河野友作さんにお話を聞きました。「こんなカタチの創造活動もあるのだ」に、心から共感してしまったレポートなのです。

 
河野友作さん

河野友作さん

【取材協力者】 代表取締役/安澤太郎さん(32歳) マーケティングストラテジスト/河野友作さん(30歳)

 

2008年で3回目になる音楽ベントイベントで立ち上がった タイコクラブ。2008年2月から、新企画/アート プロジェクトでアーティストに斬新な発表の場を提供。

2006年6月に長野県木曾村で、独自の出演者構成の音楽イベントとして産声を上げたタイコクラブ(TAICOCLUB)。毎年出演者も充実し、音楽ファンからの支持も膨らませながら、2008年6月に第3回目を迎えている。今回は、チケット完売で入場制限が必要なほどの人気となっている。そんなタイコクラブのファンたちも、「あっ」と驚くであろう新機軸で打ち出されたのが、「タイコクラブ/アートプロジェクト」。 新進気鋭の、しかも決して映像制作専門ではないアーティストたちの映像作品を、渋谷のハチ公前の大型街頭ビジョンで公開する。誰でも考えそうだけど、誰もやらなかった大胆企画である。渋谷での公開はすでに成功と言える反響を呼んでいて、口コミで広がった評価の結果、名古屋でも同様の企画を展開。大阪、福岡でも放映されることが決定している。

街頭ビジョンでアーティストのオリジナル新作映像作品を公開する。大胆な企画ですね。

河野)発想は、非常にシンプルです。アーティストたちは、企業がらみの仕事以外で、もっと自由に作品を発表できる場を求めているだろうと考えた。一方、日本の都市にはたくさんの大型街頭ビジョンがある。それが使えないだろうかと打診をしてみたら、シブヤテレビジョンさんが興味を示してくれたのです。

安澤)ただ、僕たちはアーティストに知り合いがいるわけでもないので、そっちは苦労するだろうとは思った。でも、これも、打診してみると想像を超えて反応がよかった。1年、12枠分の作品が集まるかという心配は杞憂で、すでに12枠は超えそうな勢いです。

河野)渋谷で火をつけて、全国に広げるという構想も、思いのほかうまくいっている。バズ(Buzz/虫がぶんぶん飛ぶ――口コミを意味するマーケティング用語)を生む狙いを持ったプロジェクトが、うまくはまった感じですね。

安澤)大型街頭ビジョンというのは、映像を流しているけど法律的には看板の扱い。非常に微妙な立ち位置を持ったメディアなのですが、このアートプロジェクトの動きが広がれば、媒体価値としても新たな基軸を生むのではないかと期待しています。

ビジネスとしても、うまく行っている?

安澤)儲かっているかという意味の質問なら、赤字にはなっていないという程度です。放映の枠にも、作品の制作にも資金はいらない低コストの仕組みなので。

河野)とにかく今は、バズとムーブメントを作ることが優先ですね。アーティストの皆さんや視聴者の方々に喜んでいただけているのが、最大の報酬かな。

気の合う

キーワードは、「面白いことをやろう」。その1点で共感して集まった仲間3人が、「利益が出たら、さらに面白いことに投資する」という姿勢で運営するのが、こいのぼり株式会社。決して世の中をナメてやっているサイドビジネスではなく、「金儲けのため」ではないからこそ大胆なチャレンジができる。ビジネスでもないし、独りよがりの創作でもない――そんな意味を込めて、彼らは自らの活動を「プロジェクト」と呼んでいる。

もう3年目になる音楽イベントも順調で、新企画のアートプロジェクトもかなりの反響を呼んでいる。そんな、順風満帆なタイコクラブとこいのぼり株式会社の目指すものは?

安澤)タイコクラブは、気の合う仲間と「面白いことやりたいね」と言っているうちにできあがった企画。飲み仲間と「何かやりたい」と盛り上がるのはよくあることでしょうが、僕たちの場合は、すぐに「では、できることから始めよう」となったのが特徴なんですね。

河野)実は、その時僕はまだイギリスに留学中で、帰国してから合流。では、タイコクラブのために僕のできることは何か?と考えて、戦略屋として参加することにしました。安澤は芸能関係の事務所経営、僕は広告代理店勤務と、本業を持つ中で、楽しく、遊び感覚でいろんなことを仕掛けていければいいなと思った。 僕たちは、僕たちの活動を「プロジェクト」と呼んでいます。お金儲けではない、でも遊び半分でもない。遊び感覚でしか生み出せないことを通して、世の中に僕たちからのメッセージを伝えているのだと自負しています。

安澤)で、「目指すものは?」と聞かれたら、どう答えたらいいんだろう?

河野)僕らができたのだから、みんなにもできるよ(笑)じゃない?アートプロジェクトのテーマを「What makes you smile?」としたのも、そういう気持ちがあるからだし。

安澤)そうだね。僕らは好きなことを好きなようにやっているだけだけど、思い切ってやったらこんなことができたわけだからね。

河野)精神は遊びだけど、仕組み作りはまじめにやっている。だから、共感し、協賛してくれる企業さんも徐々に増えている。

アーティストでもないし、制作が本業でもない。 でも、「僕たちには、僕たちなりの創作活動ができる」 と考えて生まれたタイコクラブ。

安澤さんは事務所経営、河野さんは広告代理店のマーケッター。それぞれ、自分の手で直接何かを生み出す職業ではないが、彼らなりのやり方で「もの作り」をなしとげている。自由な発想と行動力があれば、創作活動にはいろんなカタチがありうるのだと証明して見せてくれている。

遊び心を寄せ合うだけで、ここまでできてしまう。そこに感動するな。

安澤)お金儲けに汲々とするのは、本業だけでたくさんですよ(笑)。大げさに言えば、せっかく生まれたんだから、どこかに「やっているだけで楽しい」という仕事は持っていたいじゃないですか。

河野)プロジェクトであげる収益はすべて次の企画への投資にまわしますからね。

安澤)結局のところ、音楽イベントもアートプロジェクトも、僕ら自身が最初のエンドユーザー。できあがるのを心待ちにしているし、できあがったもので楽しんでいる心は誰にも負けない気持ちです。

河野)自分たちが楽しくなければ、他人を楽しませることなどできませんからね。

安澤さんは1976年生まれで、河野さんは1977年生まれ。おふたりの世代が一緒というのは、この活動に影響を与えている?

河野)明らかにあると感じています。僕たちは、いわゆる就職氷河期世代ですから。与えられることに慣れていない(笑)だから、自分で何かを作り出さなければ何もないと思っているんですよ。

安澤)そうそう、学校を出ても就職難だし、就職できてもひどい扱いを受けるし(笑)。今、就職の時期に差し掛かっている人たちには、想像もつかない時代だろうね。うかうかしていたら、どんどん下へ落ちていくという危機感が常にあって、自分から行動する本能のようなものが身についた。

アートプロジェクトは、今後、コンテストのようなスタイルになっていく?

河野)コンテストは、僕たちの意向には合わないスタイルですね。ただ、自信のある作品や面白い企画を提案してくださるのは大歓迎です。たとえば、すでに、3Dデザイナーの奥井宏幸さんから提案をいただいて、アートプロジェクトに参加していただくことになった例も生まれています。

安澤)シブヤテレビジョンさんも反響の大きさには満足してくれているので、2年目、3年目とプロジェクトが続く可能性はきわめて大。今後も、質の高い作品をどんどん公開していきたいですね。

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