木を見て森を見る?! @Serpentine South

Vol.158
アーティスト
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

A OCCHI CHIUSI (WITH EYES CLOSED), 2009 Giuseppe Penone

瞼を閉じた瞳。線描のように見えます。近づいてみます。


A OCCHI CHIUSI (WITH EYES CLOSED) detail, 2009 Giuseppe Penone

よく見ればそれはアカシアの木のトゲで描かれています。アカシアはその葉を動物たちに食べられないよう幹をトゲで覆っています。そしてそれでも襲ってくる動物に対してアカシアは背丈をさらに伸ばし、葉を齧られたら毒素を放出して不味くするなどと抵抗します。これに対して動物の首もどんどん伸びていって…。そう、アカシアの葉を好物にするのはキリン。マメ科の栄養豊富なその葉を食べるためにキリンの首が長くなったという説があります。目を閉じてその鋭いトゲの感覚、サバンナに傘状に立つアカシアの木を想像してみます。

 

さて今回はこのコラムでもおなじみ、ケンジントンガーデンズ内にあるサーペンタインギャラリー南館より、イタリア人作家Giuseppe Penoneの個展「Thoughts in the Roots」 をお伝えします。


RESPIRARE L’OMBRA (TO BREATHE THE SHADOW), 2000 Giuseppe Penone

目を開くと、どこからかほのかな森の香りが。香りに誘われて中央の広い展示室へ。なんと四方の壁が月桂樹の葉で覆われていました。ここでも目を閉じて深呼吸をしてみます。目の前に森の風景が広がります。


RESPIRARE L’OMBRA (TO BREATHE THE SHADOW) detail, 2000 Giuseppe Penone

中央にはテラコッタの仮面。ブロンズの月桂樹の枝が、その仮面が息を吹き込む肺のようにつながれています。その頭からまた枝が伸びて植物と人が一体化しています。


ALBERI LIBRO (BOOK TREES), 2017 Giuseppe Penone

ALBERI LIBRO (BOOK TREES), 2017 Giuseppe Penone

向かいの壁を見ると、森の香りは月桂樹の葉のみではなかったことがわかります。そびえ立っていたのはシラカバ、ヒマラヤスギ、カラマツの12本の若木。よく見れば、それらの台座になっているような成熟した木の外輪を削り取って制作されたことがわかります。この工程によって枝の節がやがて露わになり、伐採されるずっと以前の樹木の姿が明らかになります。ペノーネは語ります。「森に入るということは、時間の旅に出るということ。一本一本の木の歴史、そしてその生涯の一年一年を辿る旅。木の一生をゆっくりと辿り、明らかにしていく様子は、その成長を思い起こさせる。成長が遅ければ遅いほど、細部に至るまで、そして小さな物語や意識が豊かになる。」


VERDE DEL BOSCO (FOREST GREEN), 1986 Giuseppe Penone

最後の部屋へ。ここにも森の風景が。手前は新芽の鮮やかな春の森、奥は秋の紅葉の森でしょうか。


VERDE DEL BOSCO (FOREST GREEN), 1986 Giuseppe Penone

細部を見てみます。この「Verde del bosco(森の緑)」シリーズに描かれた緑豊かな森は、樹皮、枝、葉の表面に刷り込みを施すことで表現されています。(前回のコラムでもお馴染みの刷り込み技法!)ペノーネは、生木の幹に綿布を巻き付け、葉を擦り付けています。樹皮の特徴的な凹凸が布に転写・記録され、それらを基盤に植物の汁を使って描かれています。


Albero folgorato (Thunderstruck Tree), 2012 Giuseppe Penone

外に出るとそこには落雷を受けた木!実はこちらもペノーネの作品。実際に落雷を受けた樹齢100年の柳の木を型取りし、ブロンズ鋳造して金箔を施しています。落雷は樹木を枯死させる強力な要因の一つ。落雷による成熟した樹木の喪失は、森の樹冠に隙間を生じさせ、太陽光が林床に届くようになります。これにより、様々な種の木々やその他の植物が芽生え、定着する機会が生まれます。そしてこれは、森林の構成と構造に長期的な変化をもたらす森の再編を生み出すのです。

プロフィール
アーティスト
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:http://www.miyukikasahara.com/

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