映像2018.07.25

夏が来れば思い出す蟻

とりとめないわ 第35話
とりとめないわ 門田陽

サルデーニャはイタリア半島西方の島で地中海ではシチリア島に次いで2番目の大きさらしいけど、シチリア島には行ったことがないから大きさわかんなーい。だいたい九州と同じくらいの大きさらしいと言われてちょっとだけ理解。今(2018年7月20日)そこに来ています☆撮影の仕事ですよー♪こう書くと、グラビアの被写体で来ている私な感じですが、もちろん違います。コピーライターやってます。

写真①

遮るものが何もない炎天下の中、僕は事のほか所在なくただ暑さでクラクラしています。すぐ目の前では仕事仲間の演出家やカメラマンや照明技師や音声さんや制作進行の面々がいかにもザ・プロフェッショナルな様相(※写真①)でいるとき、コピーライター(つまり僕)は一人ぽつねんと佇んでいるのです。これって、けっこうコピーライターあるあるなのです。もちろんボーッとしているように見えていても実は脳内では猛烈にコピーを推敲していると言いたいところですが、早く終わってビール飲みた~いと思っていることがほとんどかもしれません。僕は違いますよ(苦笑)。

写真②

激しく太陽に打たれ、うなだれていると足元を下手から上手(左から右)に蟻の群れが歩いて行きます(※写真②)。ふだんコンクリートの上にいるとまるで見なくなった世界。蟻の行列。この光景。記憶は一気に1970年代です。

あれは小学校4年生の8月の終盤。夏休みの自由研究が手つかずで残り、何をすればいいのか決まらなくて、せめて昆虫採集くらいはしようと裏山に行ったのですが時期を逃したようでまるで収穫がなく近所の原っぱでペタリと座り込んでいると目の前に蟻の大群を発見。「これだ!」とその観察記録を提出したのです。家から菓子パンのくずやスイカの切れ端を持ち込み彼らがそれをどのように運ぶかを書き留め、歩くスピードを測って人間だとどのくらいの速さになるのかを計算しました。なかには運ばない蟻がいることや、他の蟻とぶつかりながら行く蟻やマイペースの蟻がいることなども書きました。さらに残酷にも蟻を捕まえて手足をセロテープで貼り付けてカラダのしくみを記し、潰してその匂いのレポートまで行いました。この土壇場でやった自由研究がことのほか評判がよくていい点数をもらいました。

問題はそれから2年後、小学校6年生の夏休み。この年の僕はひたすらソフトボールをやりまくり宿題は全くできていないまま8月最後の日を迎えたのです。明日から2学期。自由研究をやる時間はもうありません。そこでまずいとは思いながら、2年前の蟻のノートを引き出しの奥から取り出して茶色く染みになったページをめくり要旨をまとめそれなりの体裁を整えた蟻の記録をまた提出したのです。すると2学期最初の土曜日の放課後(当時は土曜日は半ドンでした)に担任の先生から呼び出されたのです。「門田君の自由研究だけど、どこかで見た記憶があります。誰かのを写したりはしていないよね。正直に言いなさい。」そうです、盗作を疑われたのです。う~む、これにはうまく答えようがなく小声で「違います」と言うのが精いっぱい。日曜日は相当落ち込んでしまいました。明くる月曜日。担任の先生から再びの呼び出し。職員室です。「まず先生がキミを疑ったことを謝ります。ごめんなさい。でもキミも誉められたことはしていないよね。いくら自分のものでも同じものを二度出すなんて。しかも4年生のときのものをまた出すなんて6年生としては恥ずかしいでしょ。何の進歩もないです。しっかりしなさい!泣かなくていいから、これから卒業まではきちんと前に進みなさい!もういいから行きなさい。」他のクラスの先生たちからは無言で肩を叩かれ、ハンカチを握りしめて教室に戻ったあの夏を久しぶりに思い出しました。当時はコピー機はまだなかった(クラスのプリントはオフセット印刷かガリ版でした)ので、きっと土日に先生も過去の記録帳を調べたり、もしかすると親に電話したのでしょうか。先生の方も眠れない土日だったのかもしれません。

あれから40数年。競合で負けた企画を他で利用していないかオレ!ボツになったコピーを別のクライアントに持って行ったりしていないかオレ!ネタの使いまわしをやっていないかオレ!といくつになっても愚かな自分にもう一度喝を入れなきゃ、としみじみ思ったサルデーニャの真夏の昼下がりでした。

ところでサルデーニャでのコーディネーターはマルゲリータさんという優秀な女性でした。このマルゲリータの名の由来はピザではなくピザの方がマルゲリータという女性の名前を付けたという話は長くなるのでまたの機会に。

Profile of 門田 陽(かどた あきら)

門田陽

電通第5CRプランニング局
クリエーティヴ・ディレクター/コピーライター
1963年福岡市生まれ。
福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。
TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。
趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

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