若者の言語感覚から見える気分

番長プロデューサーの世直しコラム Vol.134
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木 光

結構話題になっていたけど、平昌の冬季オリンピックのスノボ競技の
解説を聞いていて、自分では発想しないような言葉の使い方をしていて
なんとなく今の気分ってこうなのか。と面白く思ったことがありました。

自身もスノボ選手である、その解説者の中井孝治さんの表現の仕方が、
選手の技が決まるたびに「かっこいいです」「渋いですねえ」「おしゃれです」。

そんな言葉を興奮することもなく淡々と丁寧に解説の中に織り交ぜていく。
なんだこの解説は?と思った。
友達に話しているようでもあるが、そうでもない。
むしろ嫌な感じがしないのはなぜだ?
ああ、そうか、そういうスポーツなんだ。エクストリーム系のスポーツは。
そう思った時にその解説者が極め付けな言葉を言った。

「スタイル入ってますね」

すごい言語感覚だなあ。と改めて思いました。
その言い方がなんとなく腑に落ちちゃったんです。膝を叩いちゃった。

中井さんが自身のブログにその解説のことを書いています。
これがまた面白い。抜粋すると

【スタイル、スタイリッシュ】
簡単にですがスタイルについて説明させて頂くと、グラブや技をしている時の身体の形などのことを言っているのですが、パッと見ただけで誰だかわかるような個性的な動きをしている時、その人のこだわりが伝わってくるような動きをしている時によく使ったりします。形だけを作るのなら、ある程度上手になればそのスタイルをマネできると思いますが、本当のスタイルとは作るものではなくて、滲み出るものだと思っています。
スノーボード以外でも1つのことを追求してきた人ならわかると思いますが、なんでも長くやっていると、オリジナルか?そうではないか?見せかけのスタイルや真似しているのはなんとなくですがわかってしまうんです。
なので重要なのは、オリジナリティなんです。だからこの形がかっこいいとか特に決まってないんです。
純粋に自分がかっこいいと思うことを高い技術と完成度で表現できていればスタイルが自然と出る、伝わってくると思っています。
もちろん最初は誰でも、憧れや真似するところから始まると思います。(自分もそうだったと思います)ですが、上手くなるにつれて、こうしたい、ああしたいなどが出てくると思います。
だから周りを気にせず純粋に自分がしたいことを表現する、そしてその結果、自分からにじみ出るもの。それがスタイルだと僕は思って使っています。ちなみに癖もその人のスタイルだと思っています。

なんだろうな?この感覚。言ってることがすごく正しいぞ。
僕らの世代がやってきたスポーツの言語感覚とは全く違う。
野茂英雄がトルネード投法を矯正されそうになるような話ばかりだった。
こうしなきゃいけない。腰を落とせ。基本に忠実に。そんな事しちゃいかん。
あ、野茂のことか。野茂英雄はスタイル出してたんだな。
マイケルジョーダンのダンクとか。自分の世代に当てはめるとそうか。

今は、スポーツでも、その競技の中で見出す哲学みたいなものが個人個人に芽生えていて、それが尊重されている感じがしますね。羨ましいとすら思う。

そんな話をしていたら、一緒に仕事している演出家が教えてくれた話がある。
最近人気のあるバンド「サチモス」のヴォーカル、ヨンスくんが
自分たちのライブがいまいち盛り上がらなかった日にツイッターで
「バイブスの至らない点があり・・・」と謝罪した。という話。

またこれもすごい言語感覚だなあ。とびっくりしました。
僕らの世代の言い方で言うと
「ちょっとノリが悪くイマイチで・・」となるんだろうけど
バイブスの至らない点、ってなんだか言い得て妙な感じがするのは
僕だけではないでしょう。自分の口からは絶対出て来ませんがこんな言葉。
ニュアンスの掴み方がすごいなあ。

バイブスとは
(言葉によらず伝わってくる)雰囲気、心の中、考え方といったことを意味する英語。となっています。バイブスが上がる、下がる。という使い方で気分を表すらしいです。

こういう言葉で会話する世代の気分としては、きっちり理由づけできたり説明がついたりする建前や、常識と言われる社会的な通念や、言い訳じみた言い回しなんかとってもカッコ悪くて、その人がしたい事を追求して得た、答えは無いけど、たどり着いたオリジナリティの深みみたいなものを大切にしているんだということがわかります。
金とか名誉、会社の知名度、社会的な地位。
そういうものではなくて、周りすら気にしないで自分のスタイルを追求できるフィールドを探している。そんな言語感覚ですね。

そう考えると入社しても、会社組織にあっという間に嫌気がさして、パッと辞めてしまう若者たちの感覚も、なんか理解できるような気がして来ます。

旧態依然とした会社の論理と自分たちが感じている空気とは、大事にしていることがめちゃくちゃ違うからです。スタイルを出さないディフェンシブな上司に常識的な事を押し付けられてバイブスが下がるんでしょう。それにアレルギーが出ちゃうんですね。

若者の、言葉にできないテンションの下がり方に、「それでも我慢して食っていかなきゃいけないんだぞ」的な物の言い方は通用しないのかもしれません。

言葉にできない感情やテンションを一言で表現する奴らの感情が理解できないと、その世代と感覚がかみ合わなくなった年寄りたちは、何を話していいかわからなくなってしまうでしょう。

夢と現実は違うし、甘いと言えば甘いかもしれない考え方かもしれませんが、若者たちは、いきなり生活のために現実を受け入れて夢を見ようとしないのも嫌なんだろうなあ。こうしなきゃいけないとかそう言うニュアンスが無いんだろうし。無理に気合入ってるふりなんかかっこ悪いと思う自然体なんだろうし。イロイロ言われなくてもわかってるような気もするし。

確実に僕らの世代より、オリンピックなどの大舞台で平気で活躍する奴が増えているのも事実です。やる奴は信じられないようなパフォーマンスを発揮して世界一になったりする人たちでもあります。

ユトリやサトリと言った世代的なカテゴリーに縛り付けて卑下してるわけにはいかないでしょう。大人はもっと若い世代の感覚を研究する余地があるんじゃないかと思うのです。キーワードはスタイルとバイブスなんだと思います。

こう言う僕らも若い頃の呼ばれ方は「新人類」だったんですから。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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