2022年の舞台2作品で大きく成長、最優秀女優賞受賞!上白石萌音の魅力

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

上白石萌音が第30回読売演劇大賞の最優秀女優賞を受賞した。しかも25歳、史上最年少だ。事実上の最優秀ノミネートとなる優秀賞受賞の他の4人をはじめ、強力なライバルはたくさんいた。しかし、今回に限っては、誰もが納得の受賞だろう。授賞対象となった舞台「千と千尋の神隠し」、ミュージカル「ダディ・ロング・レッグズ 足ながおじさんより」はいずれも上白石にとって「難しい挑戦」。しかしそこで最大限の成果を上げたのである。主人公の感情の変化をビビッドに描き出した「千と千尋の神隠し」、評判の高い美声とそれをさらに高める表現力で観客を魅了した「ダディ・ロング・レッグズ 足ながおじさんより」と幅広い才能を審査する人たちに見せつけたからだ。そして今年2023年はついにミュージカル「ジェーン・エア」に主演が決定し、主人公ジェーンの寄宿学校での親友ヘレン・バーンズ役との2役を屋比久知奈と役替わりのWキャストで演じることになった。今年もチャレンジングな年になりそう。それは14年前の日本初演時と2012年の再演時に主演した松たか子と同様の「逸材感」を上白石が屋比久とともに、作・演出の世界的巨匠、ジョン・ケアードから認められた証拠でもあるだろう。

 

上白石の活躍は何も昨年突然始まったわけではない。

2014年に新進気鋭の劇作家、瀬戸山美咲による上演台本・演出の舞台「みえない雲」の主役に抜擢され、その豊かな演技力に注目が集まったのをはじめ、同年は周防正行監督の映画『舞妓はレディ』に主演。2016年公開の新海誠監督の大ヒットアニメーション映画『君の名は。』でヒロインの声を務めて、その声の上質さが評価され、ナレーターや歌手としての活躍も始まった。  2018年になると、共に帝国劇場でスーパースターに駆け上がった堂本光一と井上芳雄が初めて共演を果たした奇跡のミュージカル「ナイツ・テイル―騎士物語―」のヒロインに起用され2020年にも再演。2019年の井上ひさしの問題作「組曲虐殺」も話題になり、2020年のTBS系ドラマ「恋はつづくよどこまでも」では佐藤健演じる「魔王」とのハラハラドキドキの恋模様が「恋つづ」として社会現象を引き起こすほどのヒット。2021年度後期のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」ではトリプル主演の一翼を担った。舞台にとどまらず全フィールドでの活躍が昨年の2作に結び付いたのだ。

「千と千尋の神隠し」、では、引っ越しの途中に何気なく訪れたトンネルを両親とともに抜けた先に広がっていた「神様の世界」に迷い込んでしまった少女のさびしさや悲しさを当時既に24歳になっていた上白石がどう演じるかが課題となった。ただ幼く演じるというだけでなく、子どもならではの不安や喜びも表現。後半にかけて著しく成長し、異世界にも大きな波を起こしていく少女へと導いていく地力以上のパワーも見せた。

「成長」というキーワードはミュージカル「ダディ・ロング・レッグズ 足ながおじさんより」でも同じ。実はとても若い篤志家の変わり者おぼっちゃまジャーヴィス(井上芳雄)に孤児院で文才を見抜かれ、大学での学費や生活費の援助を受ける少女ジルーシャを演じたからだ。彼女の聡明さはもちろん勉学で活かされるのだが、支援する代わりに命じられた生活報告としての一方的な手紙の執筆によって、自らの心情を文章に転換していく才能とみずみずしい感受性にさらに磨きがかかる。
ジャーヴィスの正体はまったくわからないジルーシャのいらだちや嫉妬、すねた気持ちまで伝わるようになると、2人のやり取りは疑似恋愛のようにひりひりする場面も。手紙を書かないジャーヴィスの生活も心もかき乱され続ける。
実は初演からこの作品を支えてきた女優・声優の坂本真綾が2022年春に出産することになって出演を辞退したため、急遽、上白石に白羽の矢が立ったという経緯があり、上白石には「準備期間の短さ」「坂本と井上が作り上げてきた世界を踏襲するのかしないのか」という2つの難題が降りかかっていた。こちらのプレッシャーも相当なものであったはずだが、決して物まねはしなかった。ひとつひとつの感情を取り出して、自分が表現できるのは何か、どう表現するのかを精査。培ってきた歌唱力に乗せて、実に聡明なもう一つのジルーシャを作り上げてきたのだ。

井上芳雄は今年の「ジェーン・エア」でも相手役の貴族、エドワード・フェアファックス・ロチェスターを演じる。そして演出のジョン・ケアードには「ナイツ・テイル―騎士物語―」、「ダディ・ロング・レッグズ 足ながおじさんより」と立て続けに薫陶を受けてきた。成長をしっかりと支えてくれる環境の中で、上白石はまた一つ上の高さにまで飛翔するだろう。  ミュージカル「ジェーン・エア」は3月11日~4月2日に東京・池袋駅西口前の東京芸術劇場プレイハウスで、4月7~13日に大阪市の梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演される。

プロフィール
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阪 清和
共同通信社で記者として従事した30年のうち約18年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。円満退社後の2014年にエンタメ批評家として独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞・テレビ・ラジオなどで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅・広報戦略に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。雑誌・新聞などの出版物でのコメンタリーやミュージカルなどエンタメ全般に関するテレビなどでのコメント出演、パンフ編集、大手メディアの番組データベース構築、ガイドブック編集、メディア向けリリース執筆、イベント司会、作品審査・優秀作品選出も手掛け、一般企業のプレスリリース執筆や顧客インタビュー、広報戦略や文章表現のコンサルティングも。音声YouTubeは準備中。活動拠点は渋谷・道玄坂。Facebookページはフォロワー1万人。noteでは「先週最も多く読まれた記事」に16回選出。ほぼ毎日数回更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/)。noteの専用ページ「阪 清和 note」は(https://note.com/sevenhearts)

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