ロケハン

番長プロデューサーの世直しコラムVol.83
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

急に発生したロケ仕事で、フランスのアルプスの山の高いところでこのコラムを書いています。僕は元気です。 今日は一日、山の高いところから低いところまで一日中車で移動してのロケハンでした。ものすごく寒いです。

ところで、皆さん、「ロケハン」の意味をご存知でしょうか? 辞書を引くとこう書いてあります。一般的に言われている意味とは少し違います。

 

【ロケ・ロケハン】

20世紀初頭、ハリウッド草創期の名プロデューサー、 アルフレッド・H・ロケハン(Alfred Henderson Roquehane) が、当時の「スタジオ撮り万能主義」に異を唱えて、 街頭や自然のなかでの撮影に挑戦したことから 彼の名をとって、屋外撮影手法自体が「ロケハン」と 呼ばれはじめた。 それの略称が「ロケ」で、「ロケーション」って のは、「ロケ」の語源でなく、後付けされた意味。

機材の電源問題、キャスト&スタッフの食事問題など 現代の映画撮影のロジスティック的なメソッドを 構築したロケハン氏。監督としては 『Above the frontline('19)』 『Ex-wife's husband('21)』 『Take all or nothing('23)』 『What can you do for America('30)』 などでメガホンをとったが、日本ではいずれも未公開。 むしろ、初期のジョン・フォードのプロデューサー として有名である。

 

というのは全くの作り話で嘘です。 昔、ミクシイにエイプリルフールの嘘話を書いたときに、 友達(辞書を作っている様な友達ですが)に返事としてもらった嘘ネタを使って書きました。だから、重ね重ね言います。嘘です。

事実、「ロケハン」はロケーションハンティングの略です。 つまり、企画と演出コンテにあったイメージの近いロケ場所を探す作業。 ということです。

最近は海外ロケも少なくなっているのですが、海外ロケの仕事が発生してもインターネットの発達で、ロケハンに行かない事が増えてきました。 現地のコーディネーターの方がとった写真やムービーをメールで送ってもらうだけで事足りてしまうからです。

僕が制作進行をやっていた頃は、まだインターネットも出始めで、容量に制限があったため、撮ってもらった大量の写真を航空便で送ってもらい、成田空港の税関まで引き取りに行ったりしました。それでも、実情が解らないから、監督やカメラマンをつれて必ずロケハンに行きました。本番撮影の2週間ほど前に行き、どこでどう撮影をするか具体的に決めて帰ってきて、資料をまとめて広告主に報告し、認証を得てから本番のロケ隊となって現地に行く―――。今でもそういう仕事はありますが、少なくなってきてはいます。

ロケハンの醍醐味は、目星を付けた場所をとにかくぐるぐる回るところにあります。今日もそうでした。最適のロケ地を探して、フランスのスイス寄りのアルプス山脈の山道を一日中車で走る。ただそれだけの作業なのに、壮大な景色や、荘厳な雪山や、かわった建築物、崖の上に一軒だけ立っている古い教会など、いままで見た事も想像した事も無い物に出会います。

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九州生まれで、雪山に縁のなかった身としては、スキーもスノーボードもやった事が無いし、、、というか雪がこわくて寒いところが嫌いなので、自分でお金だしてわざわざここには来ない思うのです。もしくは、なんかの縁で行ったとしても、目的地のリゾートに直接行って滞在して、日が経てば帰ってくる。みたいな事になっていたと思います。

それまで縁もゆかりも無かった土地に行き、ものすごい距離をぐるぐる回る。 そしてその土地の事に詳しくなる。現地スタッフや知り合いもできる。 ホテルに宿泊して、現地のレストランで食べた事も無かった物を食べる。今回も、すげえ景色だなあ、すげえ食べ物だなあ、これはなんだろう?あれはなんですか?の連続で、知る事がどんどん増えて行く。習慣の違いから、肝の冷える様な失敗をして助けてもらう。そうか、こうなっていたのか。テレビでみたのはこの事か。自分の常識は本当に浅はかなんだと言う事も知る。それがすごく楽しくてうれしいのです。 この仕事に就いてよかったなあと本当に感謝しますし、チャンスをくれた人に感謝します。

そうやって、いろんな国に行かせてもらっていろんな事を知ってきたのですが、前に述べたように、今は海外ロケのチャンスは減っています。更にロケハンのチャンスも減っている。ということは若者たちにそのチャンスを与えられてないという事になります。

それよりなによりロケの仕事の時はロケハンには行った方がいいです。ロケハンに行かなくなってから、ロケコーディネーターの仕事も増えましたし、仕事の精度は落ちています。

そしてプロデューサーとしては、なんとかしなきゃいけないなあ。 大きい仕事をとってきて、若者達に同じ思いをさせてあげたいなあ。と。 海外ロケなんかに来るとそう切に思うのです。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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