秋のリージェンツ・パークを満喫!フリーズ野外彫刻展:後編

Vol.125
アーティスト
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

「yellow blue monk, 2020」Ugo Rondinone

月って何だか私の後を付いてくるような?これは月が地球から38万キロメートルほども離れているので、自身は移動してもその見える位置がほとんど変わらないためですが、子供の頃そんな錯覚を覚えたのを思い出します。ミステリアスな擬人化された月のような4メートルの像は Ugo Rondinone の「yellow blue monk, 2020」。


「10 signs of a park, 2022 」John Wood and Paul Harrison

ベンチでのんびりしている人の後ろの看板に目をやると「読んではいけません」との表示。この標識を読んではいけないの?携帯や本を読んではいけないの?人の心を読んではいけないの?などとなんだかまるで禅問答。実はこちらも作品で、公園の10箇所にわたって詩のように立てられていました。作品は John Wood and Paul Harrisonの「10 signs of a park, 2022 」


「Sim and the Yellow Glass Birds, 2022」Péju Alatise

黄色の鳥や蝶と戯れる天使のような子供たちとバロック様式の教会の彫刻を思わせるような躍動感溢れる作品。夢見るような子供のモデルはすべて同じ子で、名前はシム。シムは中世の仏教絵巻に現れる餓鬼とまではいわないものの、ふくよかな教会のケルビム(子供の天使)に比べればかなりやせ細っています。現実にはナイジェリアのラゴスで家事使用人として生きる9歳の少女、シムの夢を描いたのはラゴス出身のPéju Alatise。作品は「 Sim and the Yellow Glass Birds, 2022」


「Big Time, 2022」Emma Hart

「ノォー、ノォー、ノォー、ノォー!」と叫んでいるポップな顔。その先にも色鮮やかな顔があちこち向いて叫んでいます。鼻が三角に尖っていて、なんかこの形見たことある?そう、顔が日時計になっているんですね。作品はEmma Hart の「Big Time, 2022」。


「Book of boredom, 2022」Ida Ekblad

こってり分厚いブラシストローク。リキテンスタインのようなポップアートの絵画をパズルのように切り抜いて再構築してみたら!?作品はIda Ekblad の「Book of boredom, 2022」


「Curvae in Curvae, 2013 – 2018」Beverly Pepper

タイトルの通り、カーブ(Curvaeはラテン語)の美しい赤錆鉄の彫刻は2年前イタリアで他界したアメリカの女性彫刻家、ビバリー・ペッパー (97歳) の「Curvae in Curvae, 2013 – 2018」。ペッパーは幾年もかけてこの重なる曲線を模索したそう。


「Speaker’s corner, 2022」Pablo Reinoso

座席が燃えあがるほど熱い議論が展開中?スピーカーズ・コーナーとは、誰でもほぼ自由に自説を論じることができる場所。他国や英国内にいくつもあるものの、リージェンツ・パークから目と鼻の先の南に2キロほどのハイドパーク北東隅の場所が発祥の地。その歴史は1855年そこで起きた日曜営業規制法に反対する労働者の抗議運動まで遡り、現在も同目的で使われています。作品はPablo Reinoso の「Speaker’s corner, 2022」


「Five lines in Parallel Planes, 1966」George Rickey

天に突き刺すような鋭い五つの槍。じっとみていると8メートルほどのどっしりした鉄槍が動くはずもないと思いきや、風に揺られ、ゆっくり方角を変えていきます。それらは自然界の木の枝のようにしなやかに揺らぎ、お互いに交わることはありません。作品は George Rickey のキネティックアート「Five lines in Parallel Planes, 1966」。


「Drench, 2022」Ro Robertson

海の中に沈んでゆく人物像?人物像には海岸線が描かれヨットの浮かぶ海辺の風景画と重なり合います。Ro Robertson の 「Drench, 2022」


「Desired for-arrived at, 2021」N.S.Harsha

人生は曲がった竹のハシゴを上るようにおぼつかないもの?ハシゴは細く湾曲していて不安定で上りたくないけれど、ステップを踏み出さなければ先へ進めない。人生には幾度かそんな岐路に立つ時がありますよね。作品はN.S.Harsha の 「Desired for-arrived at, 2021」


「10 signs of a park, 2022」 John Wood and Paul Harrison

英国で1916年から実施されはじめた夏時間、サマータイム、別名「デイライト・セービングタイム」。夏は朝4時には明るくなり、夜10時近くまで明るいのに対し冬の朝7時はまだ真っ暗、午後3時すぎには暗くなっていく英国。ロンドンの冬至と夏至の日照時間差はなんと9時間も。そこで太陽が出ている時間を有効に活用しようとの考えから始まったシステムが、サマータイムで、単純に時計の針を一時間早めるというもの。そんなサマータイムも10月の最後の日曜日である先週末に終わり、時計の針を一時間もどしたばかり。デイライト‐陽の光が恋しくなるこの頃、公園のあちこちで、長い冬に備えせわしくどんぐりを埋めていくリスの姿がみられました。

ところで…。うっかり忘れていましたが、前回の最後に出てきた謎の人物はというと、答えはコラムの第20回で紹介した英美術家のJeremy Dellerでした。

プロフィール
アーティスト
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:http://www.miyukikasahara.com/

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