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映像2021.02.03

直木賞受賞作を映画化!堤幸彦監督『ファーストラヴ』。「悩みながらも、映像の力を借りて原作の良さを最大限に引き出すことに注力しました」

Vol.023
映画『ファーストラヴ』監督
Yukihiko Tsutsumi
堤 幸彦
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第159回直木賞に輝いた島本理生の小説を堤幸彦(つつみ ゆきひこ)監督が、エンターテイメント性あふれるヒューマンドラマに仕上げた『ファーストラヴ』。

父を刺殺した女子大生・聖山環菜(ひじりやまかんな=芳根京子)は「動機はそちらで見つけてください」と挑発的な言葉を発する。事件を取材する公認心理師の真壁由紀(まかべゆき=北川景子)は、夫・真壁我聞(まかべがもん=窪塚洋介)の弟で弁護士である庵野迦葉(あんのかしょう=中村倫也)とともに環菜の動機を探っていく……。

予測不能な結末と登場人物の抱えた心の闇をていねいに描くサスペンスミステリー。堤監督には、北川さんをはじめとした出演者について、本作への意気込みと思い、自身の年を重ねてきたことに対しての変化など、たっぷりと語ってもらいました。

編集で作品のカラーが変わる。今回は悩み抜きました

女性の繊細な心の機微を描いた作品ですが、監督のオファーを受けたときの感想を教えてください。

正直最初は「どうして私なのか、私で大丈夫なのか?」そんな不安がありました。しかし原作を読むにつれて、社会的にすごく必要な作品で映画化したいと思いお引き受けしました。

最初は私のような男性の立場からだと、女性の持つ深いところの痛みには届かないかと思いもしたのですが、心の闇には性別は関係ないなと。ただ、傷ついた心は分かりやすく表現できないものですから、そこにきちんと向き合えるかどうかが非常に不安でした。

そこに関しては、いろんな方の助けを得て、多くの方に取材させていただいて作品にできました。あと役者さんたちが非常に勉強熱心だったのも大きかったです。映画は“集団で作るもの”といわれますが、今回はまさにそれを感じました。

濃密なヒューマンドラマである原作を映像化する難しさはありましたか?

原作を扱うときは、何を残すのかがすごく大事になってきます。今回は浅野妙子さんが脚本を担当してくださったのですが、いろんなものがそぎ落とされて一番浮き彫りにしたい部分を的確に描いていた脚本だったと思います。浅野さんの見立て、プロデューサーチームの思いが非常に的確で、撮影自体は非常にやりやすかったです。

ただその分、編集は相当悩みました。クールなタイプのサスペンス寄りの作品にするか、人物表現が強めの分かりやすい作品にするのか……。正直、編集で印象はがらりと変わります。今回は特に女性陣の見方を参考にさせていただき、やっと出来上がった感じですね。

編集でそこまで印象が変わるんですね。

全然違います。そこが醍醐味(だいごみ)でもあり楽しみでもあるのですが、ドツボにハマると何も見えなくなってつらい作業になってしまいます。今回はその一歩手前でしたね(笑)。

コロナ禍でもあり、時間がたっぷりできたので、だだっ広い部屋で編集者と2人で作っては壊しを繰り返して作ってきました。試写で島本先生と浅野さんにご覧になっていただき、いいお言葉をたくさんいただけたのが本当によかったです。心が軽くなりました。

2時間でまとめる苦労もあったと思うのですが、いかがでしたか?

そこも大変でしたが、映像には映像の力があるので、そこを存分に使った感じです。例えば、窪塚君が演じる我聞は彼が撮った写真を見せる行動で彼の人生を表現しました。北川さん演じる由紀と出会う前は戦争の写真を撮っていて、その後結婚して父親の写真館を継いで地域の人を撮り、今回の事件を経て自分の個展を開く作品を撮る……など、言外で語る事が多かったです。見終わったときに、彼の写真から彼の変化を感じ取って頂きたいです。

もちろん小説には由紀や我聞、中村君が演じた弁護士の迦葉の心の動きや事件に関してもこと細かに書かれています。でもそこは極小化できるところはあえて描かず見せて表現しています。言葉で説明をしなくてもワンカットを見せて全て通じる事があるのも映像のいいところですから

「シーンA」と「シーンB」をつなぐことで「C」という感情を描ける。こんなふうに考えながら撮影しました。まぁ、これは監督なら当たり前なんですけどね(笑)。

憑依(ひょうい)する役者さんばかりで、本人と役との境界線を見失う瞬間が多々ありました

 

北川景子さんや中村倫也さんら俳優陣の迫真の演技も素晴らしかったです。

本当に素晴らしい役者に恵まれたと思いました。北川さんは公認心理師。難しい役でしたが、モデルとなった方と常に向き合って僕たちがいないところでもいろいろお話をされたり、本を読むなど勉強して役をつかんでいたようでした。そして何よりカメラの前に立ったらもう由紀でしかなくて……。あそこまで憑依できるのはさすがだと思いました。

ちなみにそれは芳根さんも同じですね。大して説明をしないでも、話の核心をさっと理解されたり、セリフを超えて役になっていく姿を何度も見させていただきました。何をやってもわざとらしくないのがすごかったです。

中村くんも弁護士の教えを乞うたり、ご自身も裁判の傍聴に行かれたりして研究熱心だった印象です。中村くんが演じた迦葉は、すごく振り幅が広い役なんですよ。それを自然体で演じ、事件を経て少しですが前に進んで行くところもすごく自然で上手。彼が今後もドラマや映画を背負っていくいい役者であると肌で感じました。

窪塚さんは久しぶりのタッグでしたが……。

実は今回、窪塚くんにだけ演技に関してのリクエストをしているんですよ。演技を一切しないでほしいと。窪塚君のままで出てほしいとお願いしました。

ケガを負った由紀を病室で介抱しながら「それも由紀なんだよ」とつぶやくシーンがありますが、それを見たとき、声のトーンなどすべてがよくて、お願いをしてよかったと思いました。僕の中で彼はキング(TBSドラマ「池袋ウエストゲートパーク」で演じた役)だったし、他にも奇天烈(きてれつ)な役をいろいろやってきていてどれも魅力的だったんですが、今回はそれじゃなくて大人の窪塚君を見たかったので。ただ、料理は下手でしたけどね(笑)。我聞が作る料理が美味しそうに見えるのは映画のマジックです。

撮影をするにあたり気を付けた点はありますか?

いろいろありましたが、結果よかったと思ったのは、由紀たちの学生時代から時間を追っての撮影です。巻き込まれ型が誰一人おらず、特徴のある背景を背負った登場人物ばかりだったため、一つ一つの出来事が今後の人格形成にすごく大きな意味を持っていました。それを皆さんがきちんと理解してくださり、それぞれが一歩ずつ踏みとどまりながらどう表現するのか、練りに練って現場に来てくれたからこそ、最後まで突っ走れましたね。最後の裁判のシーンが印象的に映っているのは、役とともに歩んできたからだと思います。

素晴らしいチームだったんですね。

撮影は一期一会で映画が完成したらチームは解散してしまいますが、なんかずっとこのまま引きずっている気がしています。北川さんを見ても由紀だと思ってしまうし、中村君を迦葉だと思ってしまうみたいな……。

撮影をしていると個人と役の境界線を失ってしまう瞬間があるものですが、今回はそれが多かったような気がします。憑依できる人が多かったのが理由かもしれないですが、それだけ役に入ってもらっていたのだと思います。これまでもそう感じる作品はありましたが、なんかどこか特別な思いのある作品になりました。

生身の迫力を伝えたいため、カット割りはあまりせずワンカットで撮影しています

監督が好きなシーンを教えてください。

やはり北川さんと芳根さんが向き合う面会室のシーンです。これまであそこまでの涙の応酬はなかったですし、何か尊いものを感じるシーンになっています。

そして撮影という観点からしても、実は凝った作りになっています。面会室はガラスで2人を遮っているのですが、このガラスが非常にいろんなものを映してしまうんですよ。カメラを構えると反射で映ってしまったりして……。そういうものを避けながら、でもかなり近いところで顔と顔が重なるようなカットが撮れたのはうれしかったですね。ある種マジックでしょうか。もうガッツポーズでした(笑)。


あのシーンはカット割りもあまりしていないですね。

北川さん側、芳根さん側それぞれ1回くらいですね。今回はワンカットで撮るシーンも多かったです。

その一つが、迦葉の弁護士事務所で由紀が本音をぶつけるシーン。あれは最初からそうしようと思っていました。もともと私はカット割りが多いタイプなんですが、できるならワンカットがいいと思っているんですよ。それはやはり撮っているのは演技であり芝居ですから。舞台にカット割りがないように、映画もなくていいかなと。

最近は「ワンカットで撮影しました」そんな作品も増えていますが、そういうアピールではなく、演技をしっかり見せる点では役者もワンカットのほうがやりやすい。今回は内容も内容なので、そういう生身の迫力みたいなものを撮影したいと思いカットを割りませんでした。

やっと自分の撮りたい作品を作るスタート地点に立っているのかも

本作のように、近年の監督作品は心理サスペンスが多い気がします。これは意図して多く撮られているのですか?

ありがたいことに社会性の強い作品を多く撮らせていただいていますが、特に意識はしていないです。ただこのような作品を撮っていると、人の心の奥底は計り知れないと感じ、それをしっかり映画で表現していきたい気持ちが生まれてきています。

またそういう作品を作るのは今の時代に必要なんじゃないかなと。世界が求めているというか。心の寒さや疎外感は日本だけではなく世界でもテーマになっているものです。そういう心のゆがみに映画たるもの向き合え、と言われているような気がします。

映画は社会情勢を描くものでもありますからね。

そうですね。伊丹十三監督や森田芳光監督の作品のように、先人が撮った素晴らしい作品には、どこかそのような要素をはらんでいます。そういうお話をいただけるのなら監督としてできる限り、きちんと向き合いたいです。

今回も、公認心理師がどういう職業なのか、クライアントとどうやって向き合うのかな、など、この作品を作るにあたって一つ一つ学んでいきました。弁護士にしても、よくドラマではあっと驚かせる証拠を提示したり裁判で裏をかいたりしますがそんな状況はないんです。

そういう今まで見てきたようで見てこなかった物事に、きちんと向き合って、ていねいに作品を作っていくのが大事だと考えさせられました

そのように考え始めたことは監督自身、年を重ねたというのも大きいのでしょうか?

そうですね。私は学生時代から映画監督に憧れていたタイプではないんですよ。21歳のとき、拾った新聞で映画専門学校の宣伝を見たのがはじまりで。

当時は映画監督なんて芸術家って印象で、とんでもない世界だったわけですよ。それが僕みたいなものでもチャンスをいただき、88年に映画監督デビューができて。 ただ、そこからも映画監督に向けて歩み出したかっていえばそうでもない(笑)。

レンタルビデオ屋が勃興してくると毎日いろんな映画が見られるようになって、今まで見てこなかった分を埋めるように見て知識を増やせました。時代がデジタルに変わっていくタイミングでしたし、これまではスペシャリストでなければ撮れなかった映画も気軽に撮影できるようになっていって……。

そうやって映画に参加できるようになった側面があり、幸運にも50本も撮影できました。いろんな商業作品に携わるようになり、そこで自分なりのテーマを設定していくのも楽しいんじゃないかなとも考えるようになりました。

また、考え方は10代や20代のころから変わらないので、自分が感じることを素直に表現できたらいいと思っています。

クリント・イーストウッドとまではいかないですが、自分の撮りたい作品づくりをするスタート地点に立てるようになったのかもしれません。映画を撮れるのが自分の武器で、今感じていることを表現していけたらいいなと思います。

たとえ少数でも観客がいる限り、全力で笑わせたいのがポリシー

監督といえば、テレビドラマもたくさん手掛けていますが、テレビと映画の表現方法の違いはどこにあると思いますか?

それぞれ目的が違いますね。配信を含めてテレビのドラマはどこかで釘付けにするパワーみたいなものがないとダメです。じっくり見せるやり方もありますが、僕がやってきたジャンルは瞬発性が問われていくものでした。

対して映画は、映画館に入った段階でよし2時間見てやろう、そんなお客さんの気持ちが作品と対峙するので、総合的に何か置き土産を残さないといけない、と思っています。それはテーマだったり圧倒する映像だったりなんでもいいのですが。

ちなみに舞台は、“じっくり見させて何かを感じさせること”“瞬発力で見せていく力”も“対峙するお客さんへの置き土産”も、全て必要だと思います。

監督は映画もドラマも両立されていますが、秘訣は?

こんなふうに言うと怒られるかもしれないですが、それは僕が素人だからです。アマチュアリズムっていうのか、ドラマや映画に対してそれぞれのドグマがないんですよ。

いい言い方をするとそこにとらわれていない。“面白ければいい”的な考えがあります。僕は劇団をやっていましたが、トータルで1000人くらいしか見ていないものですがすごく時間をかけて何とかして笑いを取ろうと必死に燃えていたんですよ。それは、商業演劇でも同じで。10人だろうが10万人だろうが変わらない。観客がいる限り全力を出すのが僕のポリシーです。

ただその反面、映画言語が分からなかったり、自分の原点の作品がなかったり、同時代性の経験もとくにない。それらはコンプレックスでした。なのでギャンブラー的な作品作りの傾向が多かったのかもしれないです。

クリエイターは負けない何かを持っている人が強い

最後に、監督が考えるクリエイターにとって大事なことは何だと思いますか?

これはクリエイターに限らずですが、絶対に譲れない「好き」を一つ持っておく、です。それはすごく簡単なものでよく、自転車が好きで組み立てられるとか、北海道を走りましたとかでもいい。それってすごい能力ですから。

だってタマネギについて負けない!なんて人がタマネギの映画を撮れば、僕たちは絶対勝てっこないですから。そういう負けない何かを持っている人が強いと思います。それがその後、その人の柱となっていくと思うので

僕はやっぱりロックスピリットです。ちなみにロックに傾倒したのは、能楽をやっていた父親の影響もあります。父は家で舞っていたのですが、それに対してめちゃくちゃ反抗心を持ち、隣でギターをかき鳴らしていましたね。

ある日、親父が「うるせー」と言ってギターを壊して。あの時に決めました、ロックを愛そうと(笑)。

誰にでも自分を突き動かす何かがあると思います。一度、自分を切開して周りのものをそぎ落として何が残るのかを考えてみてください。それが自分の核となる部分なので。それは技術とかではないと思いますよ。

取材日:2020年12月24日 ライター:玉置 晴子 スチール:小泉 真治 ムービー撮影・編集:加門 寛太

『ファーストラヴ』

ⓒ2021「ファーストラヴ」製作委員会

2021年2月11日(木・祝)全国ロードショー

出演:北川景子、中村倫也、芳根京子、窪塚洋介、板尾創路、石田法嗣、清原翔、高岡早紀、木村佳乃
監督:堤幸彦/脚本:浅野妙子/原作:島本理生『ファーストラヴ』(文春文庫刊)/音楽:AntongiulioFrulio/主題歌・挿入歌:Uru「ファーストラヴ」「無機質」(ソニー・ミュージックレーベルズ)/配給:KADOKAWA
ⓒ2021「ファーストラヴ」製作委員会

 

ストーリー

「動機はそちらで見つけてください」アナウンサー志望の女子大生・聖山環菜(ひじりやまかんな)が父親を刺殺して、警察にこう供述した。環菜の担当になった公認心理師・真壁由紀(まかべゆき)は、彼女に翻弄されながらも、その真相と心理へ迫る。その過程で由紀もまた、自身の生い立ちや、弁護士の迦葉(かしょう)、夫である我聞(がもん)との関係について向き合うことになって……。

プロフィール
映画『ファーストラヴ』監督
堤 幸彦
1955年生まれ、愛知県出身。バラエティ番組のアシスタントディレクターとしてテレビ業界と関わりはじめ、1988年にオムニバス映画『バカヤロー!私、怒ってます』(森田芳光総指揮)の第4話『英語がなんだ!』で映画監督デビュー、1991年『!(ai-ou)』で長編映画デビューを果たした。ドラマや映画で「金田一少年の事件簿」(95~97年)が大ヒットし、以降「ケイゾク」(99~00年)、「池袋ウエストゲートパーク」(00年)、「TRICK」(00~14年)「20世紀少年」(08~09年)、「SPEC」(10~13年)など話題作を次々と生み出す。近年の監督作は『人魚の眠る家』(18年)、『十二人の死にたい子どもたち』(19年)、『望み』(20年)など。

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