『YOUNG&FINE』

▶新人だらけ！？ フレッシュなキャストに出会いたい人におすすめ

愛と性のアンバランスなリアル！男子高校生の頭の中をのぞく感覚、レベル100

これは新感覚の青春映画だった。

まるで自分の中に男子高校生が入り込んだかのような、リアルな視点。恋愛感情と性的欲求の間をふらふら揺れる、あの頃のもどかしさ。愛と性のアンバランスに焦点を当てることで、青春そのものの不確かさや孤独、うまく言葉にできない感情が鮮やかに浮き上がってくる。

なにも大きな事件は起こらない。けれど、観たあとに強く心に残る——そんな静かだけど忘れがたい青春映画だ。

物語の中心は、海辺の町に暮らす高校生・灰野勝彦の1年間。

灰野には恋人・新井玲子がいるが、二人の関係はどこかぎこちない。互いに好意はありながらも、最後の一線（＝肉体関係）だけは越えられずにいる。

そんなある日、学校に赴任してきた新人教師・伊沢学が、偶然にも灰野の家に下宿することに。教師と生徒という関係でありながら、まるで飲み友達のような、絶妙な距離感で近づいていく2人。

一方で灰野は玲子との関係を深めようともがき続ける。気持ちと現実のあいだで揺れ、子どもでも大人でもない曖昧な時期を、彼は必死に泳いでいく。

本作は、漫画家・山本直樹による傑作『ビリーバーズ』の系譜に連なる作品。脚本は鬼才・城定秀夫。長年“城定組”で助監督を務めてきた小南敏也が監督を務めている。まさに城定秀夫のDNAを受け継いだ“性春”映画だ。

この作品には、夏の麦茶、蝉の声、部室の汗臭さ、自転車の通学路、夕暮れの鈴虫、キャンプや焚き火、そしてそれが性欲なのか愛情なのか自分でもわからない、曖昧な気持ちが詰め込まれている。

ジメっとした海辺の街の空気感が、どこか自分の肌をなぞるようにまとわりつく。まさに“あの夏”がそこにある。

灰野くんは、部活で結果を残すわけでも、一生モノの友情を築くわけでもない。ただ、彼女と一線を越えたい——それが達成できずにモヤモヤする、ごく普通の男子高校生だ。

華やかな青春映画とは言えない。けれど、この作品には“夏の終わり”そのもののような、何ともいえない余韻がある。

「なにも起きないのに、ずっと心に残る」

その秘密は、徹底的にリアルな人物描写。まるで目の前で実際に起きているかのような感覚に引き込まれる。

全編に漂う、淡くて強い“性”の匂い。それが、観客をただの傍観者ではなく、「目撃者」として巻き込んでくる。

主人公・灰野を演じるのは、映画・ドラマ・舞台で活躍し、読売演劇大賞・杉村春子賞を受賞した新原泰佑。本作が長編映画初主演だというのが信じられないほどのリアリティ。

「大人」をわかったふりして背伸びする姿、エロでいっぱいの脳内、それでも嘘のない真っ直ぐなまなざし——彼を通して、“高2男子”が見事にインストールされた。

玲子役には、オーディションで選ばれた新人・新帆ゆき。彼と触れ合うことは厭わないけれど、「一線は越えたくない」という女子高生らしい曖昧な心をリアルに体現している。共感せずにはいられなかった。

そして、もうひとりのヒロイン・伊沢を演じるのは、『SHOGUN 将軍』で国際的な注目を浴びた向里祐香。ショートパンツに飾らない素顔、季節を味方にした色気。生徒と酒を飲み、寝坊もする。こんな“先生”キャラ、今まで見たことがない。

伊沢は、生徒とまっすぐ向き合いながらも、決して「大人ぶる」ことはしない。その存在に、肩の力を抜かれた気がした。

ふたりのヒロインの対照的な魅力が、リアルな男性心理の揺れを浮き彫りにしていた。

「あの頃」は、足りないものだらけだと思っていた。けれど、今振り返ると、不完全なまま完成していたのかもしれない。

「こんな青春を送りたかった」と思う反面、「もしかしたら私もこうだったかも」と。

17歳の自分をふと思い出した。海の香りとともに味わってほしい1本だ。 

『YOUNG&FINE』
6.27（⾦）-新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

キャスト：
新原泰佑 向⾥祐⾹ 新帆ゆき ⾼橋健介 佐倉萌 ⼭崎⻯太郎 宮川翼 吉⽥タケシ 仲野温 北村優⾐ 宇野祥平

●原作：⼭本直樹『YOUNG&FINE』(「漫画アクション」連載）
●脚本：城定秀夫
●監督：⼩南敏也
●主題歌：downt「AWAKE」 (P-VINE RECORDS)
●エグゼクティブプロデューサー：藤本款 ●プロデューサー：秋⼭智則・久保和明 ●撮影・照明： ⽥宮健彦 ●録⾳：岸川達也 ●美術：⼩泉剛 ●スタイリスト：藤⽥賢美 ●ヘアメイク：藤澤真央 ●助監督：⼭⼝雄也 ●ラインプロデューサー：浅⽊⼤ ●キャスティング：伊藤尚哉 ●スチール：柴 崎まどか ●宣伝美術：廣⽥毅 ●制作プロダクション：レオーネ ●製作：クロックワークス・レオ ーネ ●配給・宣伝：SPOTTED PRODUCTIONS

16：9｜5.1ch｜98min
©クロックワークス・レオーネ

公式サイト：leonefordreams.com