映像2026.08.27

映画ソムリエ/東 紗友美の“もう試写った!” 第62回『ホーム スイート ホーム』

Vol.62
映画ソムリエ
Sayumi Higashi
東 紗友美

『ホーム スイート ホーム』

▶27歳前後、あるいは「人生の曲がり角」にいる人におすすめ

異色のタイムスリップ映画度100

タイムスリップ映画には、数々の名作があります。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)は、過去に戻ることで歴史を変えてしまう面白さを描き、『時をかける少女』(2006)は、戻れない青春の時間の尊さを教えてくれました。そして『アバウト・タイム 愛おしい時間について』(2014)では、何度でも過去へ戻れる主人公が最後に選んだのは、亡くなる父と最後に過ごす時間。

時間を超える物語の先にあるのは、いつも「大切な人との、かけがえのない時間」なのだと思います。

そんなタイムスリップ映画の系譜に連なる『ホーム スイート ホーム』を観て、私がとても面白いと思ったのは、この作品が「時間を変える物語」でありながら、「家族を知るために時間を旅する物語」になっていることでした。

あらすじ(※公式サイトより)
もう、会えないと思ってた
2026年の冬。祖父の代から続く煎餅屋を継いだものの、無気力に過ごしている植木一郎(八村倫太郎)。そんなある日、押入れから突然現れたのは28年後から来た息子・英郎(増子敦貴)と56年後から来た孫・史郎(駒木根葵汰)だった。
ちょっとしたボタンの掛け違いから未来が変わり、生まれてこなくなってしまう英郎と史郎。未来を元の姿に戻すため、時空を行き来しながら歴史を修正していくうちに、3人は1999年の夏に到着。そこで出会ったのは、一郎が知る父親の姿とはまるで違う、若き日の父・耕太郎(前田公輝)だった。さらに、代々続く家と煎餅屋にも存続の危機が迫っていて――。

この物語の仕掛けの中心にあるのが、「27歳」という年齢です。

27歳って、人生の中でも少し不思議な年齢だと思う。

社会に出て少し経ち、「自分は何でもできるんじゃないか」という万能感を持ちながら、一方で、自分の限界や現実も少しずつ見えてくる。アクセルとブレーキを同時に踏んでいるような、期待と不安が同居する時期。

そんな「27歳」が、現在、28年後、56年後、そして過去から4人集まってくる。

まっすぐで不器用な一郎を八村倫太郎さん。
天真爛漫な息子・英郎を増子敦貴さん。
やんちゃな孫・史郎を駒木根葵汰さん。
そして、愛すべきダメ親父・耕太郎を前田公輝さん。

四世代、全員27歳。
この設定が本当に見事です!!

時代も価値観も違うはずなのに、4人とも「27歳」という同じ場所に立っている。だからこそ、父親、息子、祖父という肩書きが一度外れ、それぞれが一人の人間としてぶつかり合える。

八村倫太郎さん演じる一郎の、現在を生きる者ならではのまっすぐさと不器用さ。
増子敦貴さんの、明るさや天真爛漫さの奥にふと滲む、未来を知っている者の切なさ。
駒木根葵汰さんが放つ、やんちゃさと軽やかさ。その奥にある家族への愛情。
そして前田公輝さんが体現する、ダメなところもいっぱいあるのに、どこか憎めない父親の愛情。

4人それぞれがまったく違う27歳を生きているからこそ、同じ年齢なのに、まるで違う人生を歩んできたことが伝わってくる。

そして、この4人が一堂に会したときの化学反応がとにかく楽しい。
喧嘩も、じゃれ合いも、仲良しもぜんぶぜんぶ本気。
キャラクターがそれぞれしっかり立っていて、4人の掛け合いを観ているだけでも楽しいのに、その笑いの中に、それぞれが抱えている不安や焦り、未来への希望まで見えてくる。

「27歳」という年齢を、こんなにもエンターテインメントとして楽しませながら描いたことも、この作品の大きな魅力だと思います。

そして、親やおじいちゃん、おばあちゃんの「知らない姿」に出会えること。
私は、それこそがタイムスリップより何より尊い旅なんじゃないかと思いました。

当たり前ですが、子どもって、お父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんが「親になる前の、一人の人間だった時間」を知らないんですよね。

自分の親にも、夢があって、失敗があって、恋をして、くだらないことで笑って、未来が怖かった27歳があった。
その姿に出会えることって、実はものすごく壮大な旅なんじゃないでしょうか。

しかも、それを描く舞台が代々受け継がれてきた小さな煎餅屋であることにも、すごくロマンを感じました。

代々受け継がれていくのは、家業だけではない。
家族の時間や、価値観や、愛情や、生き方まで、気づかないうちに次の世代へ渡っていく。
煎餅もまた、時間をかけて焼き上げられていくもの。

人も同じように、親になった瞬間に完成するのではなく、子どもと過ごす時間の中で、少しずつ「親」に焼き上がっていくのかもしれない。
そんなことまで想像してしまいました。

そして、私自身、とても心を掴まれた部分があります。

私は娘が生まれてから、価値観が180度変わった……とまでは言わないけれど、確実に変わった部分があります。
娘が育つ日々の中で、母親として私も少しずつ育っている、という実感がずっとある。

世の中では、子どもを産めばすぐに「お母さん」と呼ばれるようになる。でも自分の中には、「産んだから母親になったわけじゃないよな」という不思議な感覚が、産後何年もありました。

子どもと一緒に過ごす時間の中で、母親になっていく。
この作品を観ていて、その感覚と重なるものがありました。

そして、その気持ちを、この作品は最後にとても美しい形で受け止めてくれます。

ここはぜひ、実際に映画を観て感じてほしい。
笑って、泣いて、最後には家族に会いたくなる。

タイムスリップ映画としても本当に面白い。
でも、それだけではない。

『ホーム スイート ホーム』は、時間を超えることで「過去を変える」映画ではなく、時間を超えることで「人を知る」映画だった。

親という役割を一度脱がせて、一人の人間として家族を見つめ直す。

それがこの映画最大の発明だったように思います。

いつの時代の27歳も、きっと同じように悩みながら、それでも誰かを愛し、家族をつくり、次の世代へ何かを渡していく。

そんなことを笑いながら、泣きながら考えさせてくれる、タイムスリップ映画と家族映画のとても素敵な出会いでした。

人生の途中で少し立ち止まっている人に。
親になった人に。
自分の親を、親ではなく一人の人間として見てみたい人に。
そして、かつての自分にもう一度会ってみたい人に。

この映画は、きっと優しい時空を超える旅のような時間になる。

『ホーム スイート ホーム』
2026年9月4日(金)全国公開

出演:八村倫太郎(WATWING)、増子敦貴(GENIC)、大原優乃、山谷花純、樫尾篤紀、藤田ハル、ドロンズ石本 / 駒木根葵汰、前田公輝

監督:吉田鮎太
原作:金沢知樹(舞台「HOME SEET HOME」)
脚本:萩森淳

主題歌:WATWING「My Sweet PLACE」(+WHAX)
製作幹事:ホリプロ/エイベックス・ピクチャーズ
製作委員会:ホリプロ/エイベックス・ピクチャーズ/エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ/NAKACHIKA/BS-TBS
配給・宣伝:NAKACHIKA

公式HP:https://hsh-movie.jp/
XInstagramTikTok

©2026映画『ホーム スイート ホーム』製作委員会

プロフィール
映画ソムリエ
東 紗友美
映画ソムリエ。女性誌(『CLASSY.』、『sweet』、『旅色』他)他、連載多数。TV・ラジオ(文化放送)等での映画紹介や、不定期でTSUTAYAの棚展開も実施。映画イベントに登壇する他、舞台挨拶のMCなどもつとめる。映画ロケ地にまつわるトピックも得意分野で2021年GOTOトラベル主催の映画旅達人に選出される。 音声アプリVoicyで映画解説の配信中。
X(旧Twitter):@sayumisaaaan /Instagram:@higashisayumi

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