「4年ぶり3度目」

第84話
電通第5CRプランニング局 クリエーティブ・ディレクター/コピーライター
Akira Kadota
門田 陽

2022年8月。今年の夏はいっちょ前に長めの夏休みを取りました。最大の目的は地元福岡に帰ってお盆の墓参り。できれば同窓会的なものにも参加したかったのですが、コロナのヤツに阻まれて今年も中止。それにしてもやりつけないことをやると誤算が生じますね。

8月10日。夏休み初日。しまった!こんなに早くから休むんじゃなかったな、困りました。特にすることがありません。仕方なくぼんやりテレビを点けると高校野球をやっています。そうだ、今年は三年ぶりに一般客を入れての開催です。パッと見はコロナ前と変わりないですが観客は全員マスク着用。炎天下に5万人のマスク姿だなんて、意地の悪い神様が仕組んだ壮大なドッキリなのではないでしょうか。

よし!決めた!!甲子園行こう!!!ネットで調べると翌日のチケットは残りわずか。中央指定の最上段席が一席だけあったので即ポチっとしてセブン-イレブンで発券。そのまま着替えだけを詰めたバッグを持って羽田空港に向かいました。羽田から小一時間で伊丹に到着。そこからモノレールで梅田方面へ向かいます。と、ここで、「あららららら」と水谷豊が杉下右京ではなく早野武という刑事だった頃(「熱中時代・刑事編」)の口ぐせが脳内を飛び交いました。この光景、この行動は身に覚えがあります。まだコロナがビールの名前だけだった頃、2018年の8月にほぼ同じことを僕は行っていました。その様子は当コラム(※とりとめないわ第36話)にも書きました。人は繰り返す動物なのです。ただ前回は当時金足農業高校のエースだった吉田輝星投手を一目見たくて行きましたが、今回はただ衝動的に足が向かったのです。夕方ホテルにチェックイン。テレビではまだ高校野球をやっていました。

翌朝7時、大阪天満宮駅そばのビジネスホテルで起床。このホテルは天満天神繫昌亭という大阪唯一の寄席のすぐそばにある僕の常宿。昨夜はなぜか餃子の王将で飲みすぎてしまい二日酔い気味。8時開始の第1試合を見るのはあきらめました。梅田駅から阪神電車で約15分で甲子園駅に到着。席に行くと周りはぜんぶ座っています。かなりな密状態。左隣は僕と同世代のオヤジが一人で朝からビールを飲んでいます。右隣は20代の男三人組で各自焼きそばを食べています。その間の席に何とか割り込んで前を向くと阪神園芸のみなさんが手際よく見事なグラウンド整備を終えようとしています(※写真①)。まもなく試合開始です。

※写真①

これから見るのは大会6日目の第2試合。長野県の佐久長聖高校対香川県の高松商業高校。僕的にはどちらの学校にも何の思い入れもありません。1試合後であれば福岡代表の九州国際大付属高校が出るのですが、13時開始の暑さに打ち勝つ自信がなかったので午前中のこの試合を選びました(※チケットは1日有効なので、そのままずっと見続けることもできます)。両チームがホームベースを挟んで整列しました。試合前の挨拶。緊張感があって清々しいです(※写真②)。

※写真②

開始予定の10時半より10分ほど遅れてプレイボール。さっきまでビールを飲んでいた左隣のオヤジは野球観戦手帳というピンク色のノートを鞄から取り出しました。その前席の年配の男性はスコアブックを書いています(※写真③)。

※写真③

各々の席で其々の甲子園が開始されていました。僕はただぼんやり前を向いているだけ。ただ目の前は生の甲子園球場です。テレビで見るのと違って色んな音やにおいがします。そして暑いです。なにもしなくても汗が止まりません。

試合中盤、トイレにたつ途中の階段に多くの人が座っていました(※写真④)。

※写真④

なんとほとんどの人がスマホで試合を見ています。おいおい、何やってんだよ、席で見ればいいのにと思ったのですがおそらく暑さに耐えられなくなったのでしょう。甲子園の太陽は観客にも容赦なしです。席に戻ると右隣の三人組が今度はたこ焼きを分け合って食べています。

仲良しです。聞こえてくる話からこの三人は高校時代同じ野球部で一人が先輩、二人が同級生。先輩一人が社会人で後輩二人はまだ大学生のようです。「俺たちちょっと早く生まれ過ぎちゃいましたね。しもたなー、今年だったら出れたんやないですか?」「かもな~、でもな、やっぱり今年でも負けたんやないかな」「さすが先輩はわかってんな、俺たちもう終わっちゃいましたかね」「もうええから、あとのたこ焼きぜんぶ食え」

つい聞き耳を立ててしまいました。まるでたけし映画の台詞のような会話。僕はどうなのでしょう。生まれてくるのが遅すぎたのか、早すぎたのか、とついつい野球のことなど忘れるくらい考えてしまいました。今回僕の4年ぶり3度目の甲子園は自分の立ち位置を確かめに来たかったのかもしれません。

試合は14対4で高松商業の勝ち。今大会屈指のスラッガー高松商業の浅野くんの2本のホームランを見ることもできて満喫のひととき。いい時間でした。次の試合を見る体力は残っていないのでホテルへ戻り夜は寄席でたくさん笑って翌朝一番の飛行機で福岡へ向かいました。

ところで、福岡行きの朝の飛行機で「おはようございます。ご搭乗ありがとうございます。機長の後藤でございます」というアナウンスに吹き出してしまった話はまたの機会に。

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プロフィール
電通第5CRプランニング局 クリエーティブ・ディレクター/コピーライター
門田 陽
電通第5CRプランニング局 クリエーティブ・ディレクター/コピーライター 1963年福岡市生まれ。 福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。 TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。 趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

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