金沢21美「能登と」 2人の作家が伝える人と土地とのつながり

金沢
ライター
いんぎらぁと 手仕事のまちから
しお

金沢21世紀美術館(金沢21美)が、新しい展示シリーズ「能登と」を始動させた。

能登をテーマにした展覧会や作品を通して、能登を思う時間を共有したいという同館の姿勢が込められているという。

シリーズ1回目となる「牛嶋均 さわひらき ともにある風景」が、9月8日から開催されている。

さわひらき「くろとしろ」―長期インスタレーションルーム

まずは金沢出身のさわひらきさんのインスタレーション作品から。

2つのスクリーンとカーテンのような透過スクリーン、さらに金沢21美の小さな四角い窓にも投影する映像作品は「くろとしろ」。

さわさんの父が暮らす珠洲市折戸町の人たちとの会話や地域の風景などから、折戸町を見守る「1匹の死なないアオサギ」が登場する新たな物語を制作した。

彫刻や絵画、壁の大きな黒い穴など、空間全体を使って作品を体験できる見せ方にこだわり、ラッパーの環ROYさんが折戸町の風景からイメージして制作した楽曲と合わせる。

さわさんは祖父も戦時中に警察官として珠洲市蛸島町の交番に勤務しており、朝起きたら家の前に食料などが置かれていたというエピソードを、子どものころから聞いていたという。

さわさん自身も2017年から珠洲市内を舞台に開催されている「奥能登国際芸術祭」に出展しており、展示の準備をしていると「たくさんの野菜などをもらった」と笑う。


作品について説明するさわひらきさん

さわさんは「折戸は本当に素晴らしいところ。祖父母が蛸島に住んでいた時から考えると100年近く経っているのに、能登の人たちの生き方や思考はそこまで変わっていなくて、モノをあげたり、もらったりすることを長く続けていたのだろう」という。

私はそれを聞いて、能登を表す時によく使われる「能登はやさしや土までも」という言葉を思い出していた。

さわさんは「震災で現実の強さを感じ、アーティストとして自分に何ができるか悩んだ時期もあった。復興について結論を出すにも、今はまだ早すぎる。ロンドンで宗教画を見た経験からインスピレーションを得て、折戸町を舞台にした新しい神話を作り出すことで、救える人もいるのではないかと考えた。神話といってもギリシャ神話のように何かを賛美するものではなく、アボリジニーの人たちに伝わるような土地の神話をイメージしている」と話す。

11月には折戸町の集落で作品を上映するといい、「これが能登のためになるかは分からないけど、何かになってくれれば」と締めくくった。

牛嶋均「松雲海風艀雲」―プロジェクト工房

福岡県在住の牛嶋均さんは、2023年に奥能登国際芸術祭に出品した作品「松雲海風艀雲(まつ くも うみ かぜ はしけ ぐも)」を同館プロジェクト工房に展示した。

作品はもともと、珠洲市大谷町の廃校になった旧西部小学校に設置されていた。

牛嶋さんは作品の制作にあたり、海に近い場所で強い海風により同じ方角を向いた3本の松に心惹かれたという。

「この場所でランドマークになるような大きなものを作りたい。能登の祭りで担ぐキリコくらい大きくて、なおかつ触ったり乗ったりして遊べるものを」と考え、赤いタワーに緑の舟型の彫刻が組み合わさった形状の高さ6メートルある作品を手がけた。


作品について説明する牛嶋均さん

将来的には滑り台などもつけて全長9メートルほどに拡張したいと思っていたが、設置からたった2か月で能登半島地震が発生。

作品は約30メートル下に崩落したが、地面ごと落ちたため横転などはせず、被害も少なかったという。

しかし、再建は難しく、撤去と廃棄が決まったことで牛嶋さんが引き取り、今回展示することになった。

もともとひとつだった作品は屋内外に分けて展示し、プロジェクト工房内に置かれた鉄製の舟形には階段を使って上ることができる。


せっかくなので上ってみた。

損傷は少なかったとはいえ、舟形の側面は崩落の衝撃からか歪んでおり、中に入ると平衡感覚まで少し歪むようで、舟に乗って浮かんでいるような感覚になる。

舟型の前には能登の海を一望するような映像が投影されており、牛嶋さんは「作品から見えるはずだった景色はこんな感じだったのではないか」と話す。

隣の部屋では牛嶋さんが作品を制作する様子や、大谷町に作品を運び地元の人たちの力を借りて設置した様子、震災や豪雨災害により変わってしまった能登の姿などを収めたドキュメンタリーも上映した。


設置当時、完成を喜ぶ牛嶋さんと大谷地区の人々

牛嶋さんは「作品を通じて地元の人との関わりができた。大型の作品で今後のことも決まっていないが、壊されるのを見届けるより、手元に残してまた能登に持っていけたら。まずは大谷地区の人に、あの場所にあったものが違うところで動いているということを伝えたい」と話す。

2人のアーティストの作品からは、土地と人とのつながりを感じた。

県外作家と県内作家、バックグラウンドも違えど、その土地に暮らす人たちとの絆や情といった「つながり」を作品として表現しているように見える。

それは、今回作品で取り上げられた折戸町や大谷町、能登全体だけではないのだろう。

熊本も東北も神戸も、どの地区どの町でも、その土地を愛し、そこに暮らす人を大切に思う人はいる。

何ができるかではなく、思いを寄せること。

それは復興という大きな力には思えなくても、傷ついた土地や人を支える強い力に変わっていくのではないだろうか。

そうであって欲しいと、私は思う。

 

シリーズ「能登と」 牛嶋均 さわひらき ともにある風景
期間:2026年9月8日(火)〜2027年4月18日(日)
10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで)
※休場日は金沢21世紀美術館の公式サイトをご確認ください。
会場:金沢21世紀美術館
長期インスタレーションルーム、プロジェクト工房
入場無料

プロフィール
ライター
しお
ブランニュー古都。 ふるくてあたらしいが混在する金沢に生まれ育ち、最近ますますこの街が好きです。 タウン情報サイトの記者やインターネット回線、動画配信サービスのまとめ記事などを執筆しながら見つけたもの、感じたことをレポートします。 てんとうむししゃ代表。

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