映像2026.09.25

痛みを伴う歌声は愛に昇華する 映画『キリコのタクト〜YELL〜』レビュー

東京
クリエイターズステーション編集部
kokuhodo
こくほうどう氏
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映画やテレビドラマに出てくる教師は総じてお節介で世話好きだ。
昭和世代ならば武田鉄矢さんの金八先生、平成生まれなら仲間由紀恵さんのヤンクミ、近年であれば松坂桃李さんの御上先生、最近リバイバルされた反町隆史さんのGTOこと鬼塚先生を想像する方もいると思う。

本作で鈴木京香さんが演じるキリコ先生も、御多分に漏れずお節介で世話好きで、押しが強い関西弁の音楽教師である。
劇中の言葉を借りるなら、キリコ先生は令和のこの時代には珍しいくらい「人の心に土足で踏み込んでくる」タイプ。
立ち居振る舞いは強烈だけれど、生徒の音楽的素養を的確に聞き分ける耳を持つ熱血教師、そんな彼女の熱すぎる行動は果たして誰のための、何のためのお節介だったのか。

教師は「仁」の仕事であると思う。
そしてその根底にあるのはいつだって愛だ。
愛を伝える手段としてキリコ先生は歌を選んだ。

大人になりきれず子どもでもいられない、10代後半の生徒たちの焦燥は手に取るようにリアルだ。
「自分に価値がないと思わないでほしい。」
「あなたはこんなにも輝きを放っている。」
キリコ先生は、生徒一人一人を注意深く観察し、一人一人の個性の輝きを言語化し、肯定し、その光を失わせるものに対しては覚悟をもって抗い戦う。
キリコ先生は強引だ。しかし、その強引さはときに暗い海をたゆたう心惑う者の灯台となり、小さな希望の光を求める者の道標になる。
できることなら他人と深く関わりたくない、もめごとは勘弁してほしい、一定の距離を保ってお互いのテリトリーを侵さずに生きていきたい、そんな世の中だ。
ただ、私は抗えない他者の介入によって、救われる瞬間があることも知っている。
キリコ先生は「希望」を教えているという。
戦うキリコ先生の姿は本当に頼もしく美しく、そして本当に儚く脆い。

物語の後半でキリコ先生に関わる真実が明らかになるとき、彼女を未来で待っていた人物との時を超えた繋がりには心を揺さぶられた。
怪我をした体の傷は時間が経てば瘡蓋(かさぶた)になり、いずれ跡形もなく消える日が来る。
心の傷は癒すことが難しい。しかし傷を負った者の未来を信じ、覚悟をもって伝える言葉は、いつか自然に瘡蓋がはがれるように、時を経て人の心を癒すものなのかもしれない。

この映画は歌を愛するたくさんの人々の優しい愛のエールでできている。
藤原大祐さん演じる北村くんの声は、淋しさと優しさが入り混じる春の雨のように。
田辺桃子さん演じる南野さんの声は、激しく瑞々しく弾ける夏の夕立のように。
井頭愛海さん演じる西川さんの声は、すべてを穏やかに包み込む秋の長雨のように。
西垣匠さん演じる東山くんの声は、凛とした気品を放つ力強い氷雨のように。
キリコ先生のタクトが紡ぐのは、季節の移り変わりとともに降り注ぐ恵みの雨のように、変幻自在で豊かな心の在り方だったように思う。

この映画は雑賀俊朗監督が指揮するオーケストラのようだ。
駅前の喧騒、公園の緑の眩しさ、施設の窓辺から舞い散る桜花の儚さ。
監督は、季節の移ろいや場に流れる空気、人々が営むささやかな日常を丁寧に拾い上げ、映像美として見せてくれる。
公園で歌うキリコ先生と生徒たちの声は、雲をかすめて飛ぶ鳥のように伸びやかで実に清々しい。
その歌声は劇場の凛とした空気を震わせ、波立たせ、映画を鑑賞する私たちの心に心地よく響く。
重なる歌声と色彩あふれる神奈川県厚木市の風景も相まって、本当に豊かな時間を過ごせる作品だった。

『キリコのタクト〜YELL〜』
10⽉2⽇(⾦)より新宿ピカデリー他全国ロードショー

 

主演:鈴⽊京⾹
出演:藤原⼤祐、井頭愛海、⽥辺桃⼦、⻄垣 匠、榊原郁恵、⼩⻄博之、⼤島さと⼦、四⽅堂 亘、⼩泉今⽇⼦、宅⿇ 伸、名取裕⼦
※榊原郁恵の「榊」は正しくは”⽊へんに神”となります。

主題歌:「孤独なハーモニー」前⽥亘輝(TUBE)×仲川瑠夏(FRUITS ZIPPER)
挿⼊歌:「⽩⿃」藤原⼤祐

原作:「キリコのタクト〜YELL〜」
監督・脚本・原作:雑賀俊朗
エグゼクティブ・プロデューサー:神品信市
プロデューサー:藤⽥修、濱⼝典⼦、⽵森昌弘、⻄村克也
企画:ミライ・ピクチャーズ・ジャパン、サーフ・エンターティメン
配給:KeyHolder Pictures
宣伝:ELECTRO89
レイティング:G
コピーライト: ©映画「キリコのタクト〜YELL〜」製作委員会
公式X:https://x.com/kirikoyell

【ストーリー】
伝説の⾳楽教師・原⽥貴理⼦(鈴⽊京⾹)、通称:キリコ。全国合唱コンクールで数々の賞を獲得し、「優勝請負⼈」とまで呼ばれたキリコのタクトには、⽣徒を輝かせる魔法が宿ると⾔われていた。そんなキリコのかつての教え⼦で、現在は⾳楽出版社に勤める北村翔(藤原⼤祐)が、特集企画「伝説の⾳楽教師」の取材を任されることとなる。今回の特集で取り上げるのは翔の恩師キリコ。しかしキリコは既に退職し、消息不明となっているという。取材を始めた翔は、彼⼥の⾜取りを追い⺟校を訪ねるも、有⼒な⼿がかりが得られない。そんな中、翔はかつての合唱部のメンバーだった同級⽣、⻄川花蓮(井頭愛海)、南野葵(⽥辺桃⼦)、東⼭慎吾(⻄垣匠)と再会する。

 

 

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