二度と行かない懐かしい場所
年に数回ロケに行きます。
イメージビジュアルの撮影だったり、社長さんのインタビューだったり。
行き先はだいたい「そこどこ?」という住所です。新幹線からローカル線に乗り換えて1時間とか、空港からタクシーで山道をクネクネ40分とか。

目に映るのは「シカ注意」の標識だったり、アイロンパーマのチラシが貼られた理髪店だったり、年季の入った自販機だったり、無人の精米所だったり。

いつの頃からか、このロケ特有の「来たくて来たわけじゃないけど」って場所の気分が好きになりました。
目的地の途中には名城もあるし有名建築家がデザインしたすごい駅舎もあるのに、自分はそういったモノにはあまり時めかないみたいです。
正確にはランドマーク的なモノに「時めかない」のではなく「思い出に残らない」のですよね。
こういう経験ってないですか? 旅先で、名所旧跡でも何でもない、たとえば線路沿いの雑草が茂った道を歩いていてちょうどいい石ころを蹴った瞬間に“今のこと一生忘れないだろうな”って感じること。

自分はすごく多いのです。なんなんでしょうね、この感じ。
調べてみると、諸説ありますが「脳のラベリング」というやつが少し関係しているらしいです。
名所やランドマークって行く前からあらかじめ名前や由来が脳にインプットされていることが多い。これを「ラベリング」と呼ぶそうですが、ラベリングされていると現物を見ても脳は「あ、これね」と確認するだけで驚かないそうです。
それよりも知らない場所で体験する小さな瞬間のほうが、脳には前情報が与えられていないぶん五感が敏感になっているので強く記憶に残るのだそうです。
要するに「不意打ち」みたいな?
あとはやはり、ロケ独特のちょっとノスタルジックな気分が大きいですよね。
仕事だから、一度しか降りない駅、一度しか歩かない道。
思い出がリアルタイムで進行しているようなロケ特有のこの気分が大好きなのです。
…という原稿の下書きを今、ロケを終えて東北本線『矢吹駅』のベンチで書いています。
時刻は6月16日14時。蒸し暑くて駅には誰もいません。まだしばらく来ない列車を待ちながら冷たい缶コーヒーを買ったところです。
今の瞬間もたぶんずっと鮮明に覚えているのだろうと思います。

東北本線 矢吹駅







