<内覧会レポート>「杉本博司 絶滅写真」@東京国立近代美術館
世界的な現代美術作家、杉本博司さんの展覧会が、現在、東京国立近代美術館で開催中です。
杉本博司さんは、小田原文化財団 江之浦測候所をはじめとする建築分野、日本の古典芸能など舞台芸術の演出、その他にも、書、陶芸、和歌、料理とジャンルを横断しながら活動を続けてきました。そのキャリアの原点にあるのが「銀塩写真」です。
本展ではその原点に立ち返り、初期から近作まで全13のシリーズを3章構成で展示。ゆるやかに時系列に沿いつつ作品世界の深化をたどります。写真作品で構成する美術館での個展は、国内では2005年の森美術館以来の実に21年ぶりの開催です。
内覧会に参加した編集部が注目ポイントをレポートします。
1章 「時間・光・記憶」

〈海景〉シリーズの展示風景© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
1970年代から80年代に着手され、現代アーティスト杉本博司さんの評価を確立することになった〈ジオラマ〉〈劇場〉〈海景〉の3つのシリーズなどにより、作品世界の始まりを紹介。
2章 「観念の形」

<スタイアライズド・スカルプチャー>シリーズ展示風景
© Hiroshi Sugimoto, Object: © Christian Dior Couture collection, Paris
人間の知性や想像力がつくりだしたさまざまな「かたち」を主題とした〈建築〉〈観念の形〉〈スタイアライズド・スカルプチャー〉の90年代末から展開されたシリーズにより、作品世界が拡張・深化していくプロセスを紹介。
3章 「絶滅写真」

右:《ヴィクトリア女王》 1999年 左:《ダイアナ、プリンセス・オブ・ウェールズ》 1999年
© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
終焉を迎えつつある銀塩写真というメディアの始原にさかのぼる〈前写真、時間記録装置〉〈フォトジェニック・ドローイング〉から〈肖像〉、近作〈Opticks〉まで 、 6つのシリーズにより、杉本が予見する“絶滅”をめぐるヴィジョンの行方を探ります。
編集部がおススメする‟見どころ”
① 初公開の新作

《ムプティ・ピグミー》 2025年 © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
本展では初期代表作として知られる〈ジオラマ〉〈海景〉のシリーズ、そして〈スタイアライズド・スカルプチャー〉〈Opticks〉において、初公開となる新作が展示されます。とくにデビュー作として知られる〈ジオラマ〉シリーズでは、《ポコット族》などいくつかの新作を加えた構成により、1975年、シリーズの始まりからひそかに構想され、半世紀を超えてついに実現に至った、人類史をめぐる深淵なストーリーが初めて提示されます。
② “絶滅”というコンセプト

内覧会当日に行われた記者発表会の様子
「絶滅写真」というタイトルには、単なる技術の終焉にとどまらない多層的な意味が込められています。メディアの変遷、記録の在り方、そして人間そのものの存在——。その問いの行方は、鑑賞者それぞれに委ねられています
③ 杉本博司さん自身による狂歌

作品に添えられた杉本博司さんによる狂歌
会場では、すべての作品に杉本博司さん自身による狂歌が添えられています。
コンセプチュアルアートというと、緊張感を感じたり、難しいと感じたりしがちですが、狂歌がユーモアや余白をもたらし、鑑賞体験に新たな視点を加えてくれていると感じます。また、趣味人でもある杉本博司さんの洒落た感覚や人となりを感じて、親しみと尊敬の気持ちを感じました。
サテライト展示「劇場・海景・スギモトノート」にも注目

「劇場・海景・スギモトノート」展示風景(所蔵作品展「MOMATコレクション」10室)
〈劇場〉〈海景〉の作品に加え、制作の思考プロセスが記された「スギモトノート」が所蔵品ギャラリー3階にて公開されています。ノートには撮影方法や暗室作業の詳細、アイデアの断片が記されており、杉本作品の裏側にある“職人的思考”に触れることができます。
特筆すべきは、作品の精度を支える徹底した技術追求。たとえば〈海景〉シリーズでは、現像ムラを防ぐための装置を自作するなど、コンセプトと技術の両輪によって作品が成立していることがわかります。
多くのクリエイターに取材してきた中で強く感じるのは、「思考と技術の蓄積」を記録することの重要性です。
「スギモトノート」はまさにその結晶。作品だけでなく、そのプロセスまでも作品化していく姿勢は、クリエイターにとって大きな示唆を与えてくれるはずです。
「写真」というメディアの根源に立ち返りながらも、未来に向けた問いを投げかける本展。杉本博司氏の思考と実践が凝縮された、密度の高い展覧会でした。
作家プロフィール

杉本博司
1948年生まれ。1970年渡米後、1974年よりニューヨークと日本を行き来しながら制作を続ける。初期代表作に〈ジオラマ〉〈海景〉〈劇場〉シリーズがある。2008年に建築設計事務所「新素材研究所」、2009年に公益財団法人小田原文化財団を設立。2017年には構想から10年をかけて建設された文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」を開設。古美術蒐集、舞台芸術など活動分野は多岐にわたり、演出と空間を手掛けた『At the Hawk’s Well / 鷹の井戸』が2019年秋にパリ・オペラ座にて上演。著書に『苔のむすまで』『現な像』『アートの起源』『江之浦奇譚』『影老日記』などがある。2001年ハッセルブラッド国際写真賞、2009年高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)受賞、2010年秋の紫綬褒章受章、2013年フランス芸術文化勲章オフィシエ叙勲。2017年文化功労者に選出、2023年日本芸術院会員に就任。
展覧会概要
杉本博司 絶滅写真 HIROSHI SUGIMOTO: EXTINCTION
会期 2026年6月16日(火)– 9月13日(日)
開館時間 10:00–17:00(金曜・土曜は10:00–20:00)入館は閉館の30分前まで
休館日 月曜日(ただし7月20日は開館)、7月21日
会場 東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
主催 東京国立近代美術館、日本経済新聞社
特別協賛DIOR
協賛セイコーグループ、サンエムカラー
特別協力公益財団法人小田原文化財団、ギャラリー小柳
観覧料 一般 2,300円(2,100円)、大学生 1,200円(1,000円)、高校生 700円(500円)
※いずれも消費税込
※( )内は20名以上の団体料金、ならびに前売券料金[前売券販売期間:4月21日(火)10:00– 6月15日(月)23:59]
※中学生以下、障害者手帳をご提示の方とその付添者(1名)は無料
※本展の観覧料で入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4 – 2F)もご覧いただけます
問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)






