オカルト小説「誰かの家」

東京
フリーライター
YOUICHI TSUNODA
角田陽一
「追われる恐怖」の盟主
三津田信三

追われるのは怖いものである。
その追うものの正体が分かっていてこそすれ怖いのに、
正体不明ならばさらに余計に怖い。

そもそも追手の正体が「人ならざる者」ならば…
そんな想定不能のものに追われる恐怖を描写する、その能力に秀でた人物と言えばホラー作家の三津田信三

三津田氏の作品群から、その「追われる恐怖」を紹介してみたい。

誰かの家

(2015年、メフィストにて発表。講談社文庫に収録)

講談社文庫「誰かの家」

小説「誰かの家」
不良少年の怪奇譚

物語は、50代を迎えて久方ぶりの同窓会に出席した人物が聞いた話、として設定されている。
その50代の人物は、ヤスシ(仮名)なる人物と再会する。そのヤスシが主人公に語るのだ。
ヤスシは中学時代、ぐれかけていた。
兄から暴力を振るわれ続けた悪影響で性格がねじ曲がり、ついに家出してしまう。

家出したヤスシに陰ながらアドバイスするのは悪友のカメイだった。
カメイはヤスシを助けるそぶりを見せつつも、決して自宅には招かない。
ヤスシに「近隣のコソ泥しやすい家」を紹介し、窃盗での自活を勧めるのだった。
カメイには犯罪者としての素質があった。だが自身では手を汚さず、ヤスシに侵入させる。カメイはこずるい人間だった。
それでもカメイのアドバイスにあずかり窃盗を繰り返して自活するヤスシだが、町内の「侵入しやすい家」はあらかた踏破されてしまう。

そんなヤスシにカメイが指示したのは、新たな販路の開拓。
ターゲットは町内から外れた豪邸だった。

空き家なのは確かだが、個人のものではない。某団体のものらしい。
人は住んでいないが、なぜか手入れが行き届いている。電気のメーターも作動している。

カメイがヤスシに命じたのは、その空き家の探索だった。
内部をくまなくめぐって見取り図を作成したら、「4か月分の小遣いに当る金」を用意しよう、だができなかったら1円も払わない。ヤスシが弱虫だと、周囲に言いふらす…
カメイは本当に嫌な奴だった。

断るのはダサい、いや、本当に金が欲しい…
不良を自認するヤスシにとって、怖気づいて断るのは名折れだ。
そんなわけでヤスシは謎の豪邸に忍び込むことになるのだが…

大豪邸のいくつものブース
部屋ごとにある「前衛的人形」

豪邸内は奇妙だった。
人の気配が全くないのに、掃除は行き届いている。埃一つ積もってもいない。
そんな屋敷内には、なぜか人形がある。
人の姿はしている。だが顔の部分がそろっノッペラボウ
面白い事には、人形はいくつもある。それぞれ、素材が違うのだ。
石製、木製、あるいは皮製…
素材をそれぞれ変えるのは、屋敷の持ち主の趣味か、芸術的センスか。
それら人形がシーツで覆われて、一部屋ごとに1体、それぞれ鎮座している。

何で人形が…
いぶかるヤスシ。
そのヤスシの耳は妙な音を捉える。

ことっ ことっ ことっ ことっ

固い脚で廊下を突く音。
これは杖の音か、
人形そのものが歩いているのか…

 

人形の正体は何なのか。
何故歩くのか。
進退窮まるヤスシは…

異形のものに追われる
正体不明なものの恐ろしさ

三津田氏が描く「追われる恐怖」。
関西出身の氏の自家薬籠中のものである、関西弁の語り口調。

何より恐ろしいのは、その異形の何者かが立てる音が「乾質」なことだ。
これが「ずるっ」とか「にちゃっ」とか「湿質」だったならば生理的に気持ち悪い。
だが「ありきたり」であり、同時に「生」の息吹をいくばくかは感じ取れる。

だが「ことっ ことっ」…
乾いた音、まるっきり無機質の音
人外でも生き物ならば、こちらの「仲間」ともいえる。
だが無機質の人外

三津田氏が自家薬籠調中のものとする、
饒舌な関西弁の語り口調。
その語りで語られる

ことっ ことっ ことっ ことっ

だからこそ、余計に恐ろしいのだ。

 

6月ながらすでに酷暑の予感のいまこそ、おすすめしたい
誰かの家

 

プロフィール
フリーライター
角田陽一
1974年、北海道生まれ。2004年よりフリーライター。アウトドア、グルメ、北海道の歴史文化を中心に執筆中。著書に『図解アイヌ』(新紀元社 2018年)。執筆協力に『1時間でわかるアイヌの文化と歴史』(宝島社 2019年)、『アイヌの真実』(ベストセラーズ 2020年)など。現在、雑誌『時空旅人』『男の隠れ家』に記事を執筆中。

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