「かわいい」は無敵だ(蘆雪展)

東京
映像ディレクター/取材ライター
秘密のチュートリアル!
野辺五月

蘆雪犬を皆様ご存じでしょうか。
愛嬌のある写実からちょっとだけデフォルメにながれた何とも言えない江戸絵のわんこ。
長沢蘆雪の描く、ゆるくかわいい造形の犬は、そう呼ばれています。

その蘆雪犬などをメインに据えた長沢蘆雪の展示が64年ぶりに東京で行われているということで、早速チェックしてきました。

『長沢蘆雪 ―奇想のなかの温もり―』 それが今回の美術展です。

場所は府中市美術館。
シチュエーションは府中の森公園とあって、桜や若葉の心地よいゆったりとした中に立っている、小さな美術館にぴったりな愛らしい江戸絵画の数数……
前半が犬、後半が虎と龍ということで、展示には応挙も含めてさまざまな子犬の絵の変遷もみられます。
蘆雪は特に師匠・応挙の端正な可愛さをさらにデフォルメして、どこか不気味・不遜といったニュアンスを混ぜ込むことで、現代的な「キモかわ」や「シュール」に近い感覚を先取り。
ただ愛くるしいだけではなく、中国から伝わり、写実的になり、人間になれた存在として絵のみならず、スタイルとして親しみやすさを描かれていく流れ……対象に寄り添っているまなざしこそが「温もり」と称されたサブタイトルに一致するような気がします。

そもそも現在の「かわいい日本美術」ブームを決定づけた【火付け役】こそ、この府中市美術館なのです。
「かわいい江戸絵画」という伝説的展覧会、キュレーターの金子信久氏が美術史的な価値だけでなく「感覚的な愛らしさ」を理論立てて紹介しました。『江戸かわいい動物 たのしい日本美術』(金子信久)が出版されたのも同年。
そして、その金子氏が今回も担当学芸員を務めているのです。

2013の最初の「可愛い」から、2014山種美術館が「Kawaii日本美術」として、若冲、栖鳳、蘆雪などをKawaiiとまとめ、翌2015三井記念美術館が、蘆雪の師匠=円山応挙の犬に注目し「うさぎ・子犬・かわいい仲間たち」という美術展を開催……。まわりまわって今再び府中市に「可愛い」が戻ってきた形と知ると、感慨深いものもあります。

が……そんな外枠はさておき、何よりびっくりしたのが、長蛇の列です(笑)

当日券を並ぶのに長蛇の列が。ビビットな色のチケット。

入ってしまえば、展示はゆったりと導線がよくつくられており、無理なく見ることができました。
押し合いへしあいになることもなく、じっくりと……もちろん人気の作品には人だかりはある程度できますが、許容できる範囲でたっぷり隅々までよく見られます。

また水曜・土曜だけ設置されているらしい、なぞるだけで蘆雪犬が描ける筆描きのコーナー(なぞって描く 蘆雪犬)やスタンプで作る菊まど子犬カードなど、さまざまな趣向も凝らされていて、大満足でした。

なぞるだけでも結構難しいのです。筆になれないと。

物販も行列はできていますが、図録はたっぷり用意されており、ポストカードやアクリルファイル以外にもアクリルスタンドや、バッグ、ポチ袋にステッカーなどなど「ちょっとほしいな」と思わされる可愛いアイテムが躍っていました。がっつりやられて、見事にお買い上げしました(笑)

可愛いに弱いのは現代人も同じ。

かわいいの原点に、身近なものへの親しみと愛、それによる観察を感じる作品たちでしたが、その中には、「子供」や「他の動物」それと古典・禅などの難しい題材との取り合わせがあったり、絵のうまさはさることながら、だからこその「くずし」の意味なども混ざり……
絵の基礎であるとか、生き方であるとか……個人的にはその奥深さに身につままされる部分もありました。
後期は5月10日まで。まだ間に合うのでぜひ訪れてみてください。

話題になる仕組みを(写真映えもある程度はしますが)中身=コンセプトにちゃんと持たせている展示……しっかりとつかまれた身としては、こういう「ちゃんと人を動かす」ことができるイベント=展示に対しては本当に凄みを感じます。
オンラインでも、デジタルでも見られる……けれど、現地にいくことの重要さは、生で感じないと計り知れないものがあります。それを、現地以外のところで、宣伝していくためには、コピーであるとかビジュアルであるとか宣伝・口コミ……さまざまな導線が必要です。
その中でも、やっぱり強いのは、着眼点。チョイスした人のまなざしが独自のもの。なのに、ちゃんと現代の私たちにぶっ刺さって、長く続くブームになっている…… さまざまな作品や時代を、今を、「見ている」人なのだなぁと改めて金子氏に興味がわきました。
5月3日「長沢蘆雪と春の江戸絵画まつり」展覧会講座があるようです。興味のある方はこちらもどうぞ
(午後2時から90分)
お散歩がてらの可愛いものへの旅。
どの駅からもちょっと距離があるのですが、それを感じさせない吸引力に脱帽しながらのレポートでした。

プロフィール
映像ディレクター/取材ライター
野辺五月
ゲームシナリオから書く☛宣伝する仕事へ。炎上案件や“消える責任者”の隙間を埋めながら、締切内に構造を立て直す役割を引き受けるうちに現在に至る。 VFX好き(SW)を起点に映像へ。 現在は、メディア記事の企画・取材・構成、企業映像の台本制作・ディレクションをメインに活動中。「作る」より「伝わる設計」を重視。 得意ジャンル:アジア映画・ドラマ(タイ・華・台)。チームプレイ。 アニメ・ゲーム領域(美少女ゲーム)での企画/シナリオ周辺業務を経験。キャラクター設計とファン心理分析に強み。 特技:脳内会議 → 調査 → 構造化。 使用ツール:Pr / Ae / InDesign / PowerPoint  AIはとっかえひっかえ実験中。 ロケ地より先に打ち上げの店を抑えるタイプ。

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