Vチューバー映画からミュージカルの花咲く、物語の生まれてくるところ

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

演劇や映画、ドラマなどで展開する物語は黙っていてもどこかから自然に生まれてくるものではない。誰かが生み出そうとして生み出すものだ。そしてそれが生まれる場所は時代と共に移り変わっていく。戯作者の発想が出発点だった江戸時代から明治に入ると、小説で描かれる物語や劇作家が台頭し、映像が主役の時代になると脚本家、シナリオライターによるオリジナルに変遷。やがては漫画、アニメ、ゲーム、SNSへと変化してきた。コロナ禍の初期だった2020年8月に、主演の「電脳少女シロ」をはじめ、花京院ちえり、神楽すず、カルロ・ピノ、もこ田めめめ、ヤマトイオリとすべての出演者がVTuber(Vチューバー)という世界初の出演者全員Vチューバー映画として映画『白爪草』(監督・西垣匡基、脚本・我人祥太)が製作され、日本全国のミニシアターで上映された。今年2026年初頭には、それをもとに女優2人による2人ミュージカルとして上演された。今、物語の地下水脈はあらゆる場所に沸き出す勢いを見せている。

「Vチューバー(VTuber)」とは、バーチャルYouTuberの略語で、2Dや3Dでつくられたアバターのキャラクターを使って主にインターネットなどのメディアで動画投稿や生放送の配信をしている者のことを言う。日本初の造語ではあるが、世界でも定着しつつある。人間がやればユーチューバー(YouTuber)で、それをアバターに置き換えていることになる。アニメのキャラクター風のルックスが多く、美少女系が多いが、オペレーションをしている人の性別は女性ではないことも少なくなく、ネットならではの自由な表現の世界である。

2016年ごろに登場した「キズナアイ」がそのはしりで、徐々に人間のユーチューバーに匹敵するほどの注目を集めるようになり、アニメのキャラクターにも負けない人気を誇るキャラクターも増えてきた。

映画『白爪草』がコロナ禍のさなかに生まれたことは象徴的だった。「三密」が叫ばれ、ひとところに集まって創作活動や撮影ができない上、生身の俳優たちが至近距離で演技することも禁じられる中、会議や打ち合わせ、創作の相談、アバターづくりまでほとんどがリモート作業で可能になり、何よりウイルスに感染しないVチューバーは演者としてうってつけだった。「すべての出演者がVチューバー」というのも時代の必然だったように思われる。演技が不自然に見えないほどの表現技術の進化も成功のひとつの要因だろう。

実はエンターテインメントの世界では当時、AIに注目が集まり始めた時期でもあり、生身の俳優ではなくAIで生成した俳優で映画やドラマをつくるプロジェクトが海外でスタートした時期でもあった。しかし『白爪草』の登場で、特に日本では、Vチューバーやアバターに対する期待感が高まったのである。ネットでは海外諸国に後れをとっている日本ではあるが、アニメでは世界的な先進国であることも関係しているだろう。

映画『白爪草』は2022年12月にはスピンオフ作品『白爪草~小手毬の選択~』が制作され、テレ朝動画で公開されるなどさらなる広がりをみせた。ミュージカル「白爪草」はその延長線上にあるが、何よりも、クリエイター陣がこの「白爪草」という物語に大きな可能性を感じたからだろう。

ミュージカルでのあらすじに沿って説明すると、物語の舞台はある町の花屋。店員として働く白椿蒼(屋比久知奈)はささやかだが幸せな日々を過ごしていたが、ある日、6年前に母親を殺した罪で服役していた双子の姉、白椿紅(唯月ふうか)が出所したことを知る。

会うべきかどうか悩んでいた蒼だったが、カウンセラー(声・安蘭けい)に背中を押され、紅と会うことを決断。店長(声・もこ田めめめ)が帰った閉店後のこの花屋に紅が訪ねてくることになっていた。やがて店に現れた紅は「真実」を語りだす。

2人の間に6年前、何があったのか。紅は本当に母を殺したのか。サスペンスはさらなるサスペンスを呼ぶ。ここに至って、既に観客には真実が見えなくなっている…。双子の姉妹という関係性の設定、花々に囲まれた密室という場所、恐ろしすぎる母殺しという過去。すべてが一級品だ。

しかも、映画やネットと違って、観客の目の前で演じられる演劇は緊迫感が違う。紅がやって来ると分かった瞬間から、「なぜ来るんだろう」「何を言い出すんだろう」という疑問が頭の中に渦巻いている。

蒼はカウンセラーの助言もあって、この「再会」に対する覚悟を決めているはずなのに、なぜこんなに動揺しているのだろう。そもそもカウンセラーとは誰なのだ。なぜこの花屋という場所が裏ばれたのだろう。

普通なら情報が多いほど不安から安心へと近づくはずなのに、どんどん迷路の奥へと連れていかれる。

普段はライブハウスである上演会場はカラフルな花に囲まれ、一見華やかだが、花が一つ一つに花言葉を隠し持っているように、それぞれの情念のような秘密を宿していて、何よりも植物は生きている。生気と妖気を同時にはらんで、登場人物や観客を包み込んでいる。 映画でつくりあげたものに加えて、米ニューヨークの大学で演出を専攻した福田響志が脚本を手掛け、多くの人気ミュージカルに関わって来た元吉庸泰が演出にあたるなどクリエイティブを強化。アニメ「進撃の巨人」のエンディングテーマや「ぼっち・ざ・ろっく!」の主題歌を手掛けたことで知られるシンガー・ソングライター、ヒグチアイ(樋口愛名義の楽曲もあり)を起用し、緊迫のミュージカルを彩った。

もともとの映画の脚本を創り上げた元コンビやピンの芸人で放送作家でもある我人祥太の創造力がその後の信じられないほどの展開を支えていることは確かだが、出演者全員Vチューバー映画という自由な創造の場から生み出された物語がベースにあることが大きい。

今後もVチューバ―界隈から新しい物語が生まれ続けるかは未知数だが、それを期待させるに十分な新作ミュージカルの誕生だった。

※ミュージカル「白爪草」は2026年1月8~22日に神奈川県川崎市のライブハウス「SUPERNOVA KAWASAKI」で上演された。公演はすべて終了しています。

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
阪 清和
共同通信社で記者として従事した31年間のうち約18年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。2014年にエンタメ批評家・インタビュアー、ライター、エディターとして独立し、ウェブ・雑誌・週刊誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞・テレビ・ラジオなどで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅・食・メディア戦略・広報戦略に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。雑誌・新聞などの出版物でのコメンタリーや、ミュージカルなどエンタメ全般に関するテレビなどでのコメント出演、パンフ編集、大手メディアの番組データベース構築支援、公式ガイドブック編集、メディア向けリリース執筆、イベント司会・ナビゲート、作品審査(ミュージカル・ベストテン)・優秀作品選出も手掛け、一般企業のプレスリリース執筆や顧客インタビュー、メディア戦略や広報戦略、文章表現のコンサルティングも。日本レコード大賞、上方漫才大賞ATPテレビ記者賞、FNSドキュメンタリー大賞の元審査員。活動拠点は東京・代官山。Facebookページはフォロワー1万人。noteでは「先週最も多く読まれた記事」に26回、「先月最も多く読まれた記事」に5回選出。ほぼ毎日数回更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/)。noteの専用ページ「阪 清和 note」は(https://note.com/sevenhearts)

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP