日本の音楽賞に変化の動き、賞は国民が育てる、推し活にプラス「柔軟な耳」を
「BE-FIRST」、「CANDY TUNE」、アイナ・ジ・エンドら昨年2025年の日本レコード大賞も多彩な顔触れが候補曲のアーティストに選ばれたが、2023年、2024年と続く勢いを維持した男性3人組バンド「Mrs. GREEN APPLE」が昨年大ヒットさせた「ダーリン」で大賞に輝いた。「Mrs. GREEN APPLE」の大賞受賞はバンドとしては史上初の3年連続となった。ボーカル、大森元貴の表現力の豊かさ、作詞作曲能力の高さ、バンドとしての一体感、ミュージックビデオを含めた作品展開力と創造力の多彩さなど、誰もが納得できる受賞だ。とはいえ、長いレンジで見ると、音楽指向の多様化などにともなって、必ずしも受賞が毎年国民の認識と完全一致することは少なくなってきていることも確かだ。ただ、日本レコード大賞だけをとってみても大賞、新人賞、歌唱賞といった主幹部門に加えて2020年に特別国際音楽賞が新設されるなど音楽界の流れに沿ったてこ入れも行われ、昨年2025年からはレコ大とは別に、全く新しい音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」もスタート。近年さまざまな動きが出てきた。
私は新聞記者時代、日本レコード大賞(以下レコ大)の審査員を3年間務めた。数えきれないほどの候補曲の中から対象曲を絞り、議論を重ねて優秀作品を選んでいく。大賞や最優秀新人賞のように授賞式当日に結論を出す賞もある。私は中学のころからシンガー・ソングライティングを含めたバンド活動をしていたし、大学の卒業論文は「ライフヒストリーにおける流行歌の位置」と題し、各世代がどんな流行歌が心に残っているか、それはどんな思い出とリンクしているかを分析して社会心理史にまとめた研究で当時の新聞に取材されたほどの流行歌オタクだったので、レコ大の審査ではそれぞれのアーティストに音楽担当記者としてインタビューした時に感じたことなどを積極的に発言して、真摯に議論に参加した。
ただ、不満もあった。最終投票の直前に「尾崎紀世彦やちあきなおみ、子門真人らのころを思い出せば分かるように、レコ大は国民の記憶と共にあった。その原点に戻るべきでは?」「ニューカマー(新顔)に厳しすぎる」「受賞拒否や賞レース軽視のうわさにビビりすぎではないか。堂々とわれわれの判断をぶつければいい」と大演説をぶったこともある。
演歌から歌謡曲、ロック、ヒップホップまで全く違う性格のジャンルが同居する対象曲の中からたったひとつの大賞を選べるわけがないという思いもあった。つまり多様性への道を歩み始めた日本の音楽の中からオンリーワンを選ぶことに無理が出始めているという思いが強くなっていたのだ。何人かの審査員には提言したが、要するに「グラミー賞を目指すべきだ」ということだ。しかし当時は現実的な提言としては受け取ってもらえなかったのも事実だ。 米国最大の音楽賞であるグラミー賞は、映画やテレビ番組に比べて顕彰する賞がなかった音楽業界全体の発展をはかるため、1959年からスタートした。
私がグラミー賞を目標とすべきだと言ったのは、何もエンターテインメントに関する賞は米国のまねをしておけばいいと安易に考えたからではない。グラミー賞はポップス、ロック、リズム&ブルース、ラップ、ヒップホップ、ジャズ、カントリー、クラシックなどなど100以上の部門に分かれ、統廃合や新設などを小刻みに繰り返して、近年でも70~80前後の部門がある。日の当たらないジャンルも音楽のひとつであるとする考えが浸透していて、カテゴリーを変更することにもとても柔軟な賞だからだ。
レコ大もグラミー賞に触発されて創設されたものである。しかしながら、日本が違ったのは「多ジャンル」という考え方が抜け落ちていた点。 日本でも演歌とポップスの頂点に立つ曲を別々に選んだ時期もあったが、抜本的な改革に直結するものではなかった。しかし例えばグラミー賞のような感じで「演歌」部門があれば、ファン層の高齢化や若者の人気低迷に悩む演歌業界にも新たな光明が差し込む。余計な要素が入り込む余地のない賞としてこれまでもCDやレコードなどの売り上げ(総出荷数から返品数を引いた数)を判断基準にした「日本ゴールドディスク大賞」があったが、昨年日本の音楽界にとっては画期的な動きがあった。音楽業界の主要団体が共同で立ち上げた「MUSIC AWARDS JAPAN」のスタートだ。
最優秀楽曲賞、最優秀アルバム賞、最優秀アーティスト賞、最優秀ニュー・アーティスト賞など主要6部門を中心に、最優秀ジャパニーズソング賞、最優秀国内ロック楽曲賞、最優秀国内ヒップホップ/ラップ楽曲賞などジャンルに配慮した部門や、最優秀国内オルタナティブ楽曲賞など発表時期にとらわれない部門、最優秀国内シンガーソングライター楽曲賞などアーティストの形態に着目した部門、最優秀アイドルカルチャー楽曲賞、最優秀アニメ楽曲賞、最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞など日本のポップカルチャーをフィーチャーした部門など多くの部門が存在する。演歌に対しても最優秀演歌・歌謡曲楽曲賞でカバーしており、配慮の行き届いた構成となっているのだ。
最優秀リバイバル楽曲賞といった「再評価」や「進化した演出」を考慮した部門や、配信での人気に注目したベスト・オブ・リスナーズチョイス:国内楽曲 powered by Spotifyもある。 韓国、中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイとアジアの各国別の特別賞や、欧米の洋楽に関する部門もある。まさに「日本音楽を世界へ発信して、音楽の未来を切り開き、同時に海外アーティストの日本市場への進出を促進すること」を目的とした賞なので、実に細かく幅広い。海外との結びつきも絶対的な要素だ。
音楽ライターや評論家、批評家だけでなく、ミュージシャンやアーティスト、エンジニア、メディア、音楽出版社、クリエイターも投票に参加する点も画期的。 2026年には東京で開催されることが決定している「MUSIC AWARDS JAPAN」。これだけ翼を広げ切った賞が果たして続けていけるのか、目指す方向が違うと感じてしまう参加者が出てこないか、いろいろと懸念されることやこれからの課題は少なくないが、「賞は国民が育てる」とも言われる。レコ大やその他の音楽賞も含めて、本当に意味のある素晴らしい賞にするためには、多様な人々の評価が必要だ。ファンも単なる「推し活」だけでなく、さまざまな楽曲に接する「柔軟な耳」を持って、音楽に接してほしい。それが日本の音楽を底上げし、さらに前に進める力になるはずだ。







