金沢21世紀美術館「コレクション展2 文字の可能性」

金沢
ライター
いんぎらぁと 手仕事のまちから
しお

金沢21世紀美術館ではこの冬、収蔵作品を中心としたコレクション展「文字の可能性」が開催されています。

現代美術を扱う同館で「文字」をテーマとした作品を収集・展示する意味を、館長の鷲田めるろさんは「これまでモダニズムの美術から、文字や言葉は排除されてきた。しかし、コンテンポラリーの時代に入り、文字が再び美術の中に現れてきている。書というジャンルと現代美術館がどのように向き合っていくかは、今後の大きな課題。今回の展示は書と美術の結びつけ方を、自ら問いかけるものとなった」と話します。

11月には一部展示替えが行われ、文字を取り入れた全47点の作品が公開されています。

6つの展示室にはそれぞれテーマが設けられ、書作品はもちろん、どこに文字が隠れているのか分からない作品や、メッセージ性が際立つ作品など、さまざまな「可能性」を体感できます。

「文字のリズム」と銘打った展示室では、泉太郎さんの映像作品「古い名前、先客」が印象的です。

画面には“意地悪”を意味する「so mean」の形をした鉄の容器と、文字と同じ形でうごめく鰻(うなぎ)たちが映し出されます。

その前には、九谷焼作家・北出不二雄さんの「青釉 千字文深鉢」が展示されています。

展示室「想像へのいざない」では、一筋縄ではいかない作品が並んでいると感じました。

例えば、マルセル・ブロータースさんの「ミュージアム-ミュージアム」。

西洋美術のアーティストたちの名が刻まれた金の延べ棒は、作家や作品をお金に換える美術館(ミュージアム)への鋭い批評が込められています。

担当学芸員の梅谷彩香さんは「これを金沢21世紀美術館が収集し、展示するところに面白さがある」と説明しました。

同じ展示室の一角には止まった時計と、床に置かれた黒い板、何も書かれていないように見える本が6冊並びます。

1日のうち決まった時間に聖書などを読むキリスト教の習慣にちなんで定時に本を読み、読んだ部分は修正液で塗りつぶす過程を経て完成した、セシル・アンドリュさんの「定時課」です。

結果的に文字はもうそこにはありませんが、確かに存在していたことは塗りつぶした修正液が物語っています。

展示エリアの廊下には、インドの作家シルパ・グプタさんの無題作品がビニールテープで旗を形作っています。

テープには「ここに境界はない」と書かれており、壁に貼られることで違うメッセージを投げかけます。

「いかに生きるか」をテーマにした展示室では、柿沼康二さんの作品が見られます。

高さ7.5メートル×幅11メートルの大きな画仙紙に描かれた「不死鳥」。

書き直しがきかない一回きりの芸術と、書き残すことで「永遠」にも取って代われそうな文字。その対極性が美しい、圧巻の作品でした。

能登半島地震で被災し、剥き出しになったままの天井と相まり、不死鳥の力強さやエネルギーを感じます。

文字というものは、普遍的で絶対的なコミュニケーションの基準だと思っていました。

しかし、展示を見れば見るほど、文字は変容しうる、不確かで多様な存在でもあると気付かされます。

筆跡や指紋、アイデンティティなどが唯一無二であるように、文字の可能性も人間の数だけあるのかもしれません。

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コレクション展2 文字の可能性

会場:金沢21世紀美術館
展示室1〜6

期間:2025年9月27日(土) – 2026年1月18日(日)

休場日:月曜日(ただし1月12日は開場)、12月30日〜1月1日、1月13日

料金:
一般 450円(360円)
大学生 310円(240円)
小中高生 無料
65歳以上の方 360円
※( )内は団体料金(20名以上)
※当日窓口販売は閉場の30分前まで

出品作家
セシル・アンドリュ Cécile ANDRIEU
粟津潔 AWAZU Kiyoshi
マルセル・ブロータース Marcel BROODTHAERS
ギムホンソック Gimhongsok
シルパ・グプタ Shilpa GUPTA
井上有一 INOUE Yuichi
泉太郎 IZUMI Taro
柿沼康二 KAKINUMA Koji
北出不二雄 KITADE Fujio
ジョセフ・コスース Joseph KOSUTH
中村錦平 NAKAMURA Kimpei
邱志杰(チウ・ジージエ) QIU Zhijie
サイトウ・マコト SAITO Makoto
塩見允枝子 SHIOMI Mieko
ルパート・スパイラ Rupert SPIRA
横尾忠則 YOKOO Tadanori

プロフィール
ライター
しお
ブランニュー古都。 ふるくてあたらしいが混在する金沢に生まれ育ち、最近ますますこの街が好きです。 タウン情報サイトの記者やインターネット回線、動画配信サービスのまとめ記事などを執筆しながら見つけたもの、感じたことをレポートします。 てんとうむししゃ代表。

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