《インタビュー》東京国際映画祭「Nippon Cinema Now」部門上映、『万事快調<オール・グリーンズ>』の児山隆監督、「僕は高校生の時、キラキラした青春の物語を見るたびに絶望していた」
東京国際映画祭(2025.10.27~11.5)の「Nippon Cinema Now」部門は、日本映画の新作を上映する部門として「海外に紹介されるべき日本映画」という観点を重視して選ばれた8作品が選ばれた。今後の日本映画を担う才能ある監督たちの中から、『万事快調<オール・グリーンズ>』の児山隆監督にインタビューしました。

――今回、東京国際映画祭に上映されることが決まった時の気持ちをお聞かせください。
今回、2本目の映画なんですけど、1本目の映画が初めて一般のお客さんに見ていただいた場所が東京国際映画祭だったので、今回『万事快調<オール・グリーンズ>』が流していただけるっていうのは、自分的にはもう本当むちゃくちゃ感慨深いというか、思い出の場所に帰ってこれたというか。本当に嬉しかったです。
――レッドカーペットを拝見しましたが、どんな気持ちでしたか?
僕、レッドカーペットは本当に慣れなくて、できれば欠席したいんですけど、出ないといけないっぽいんで出てます。
――レッドカーペット全体の中で、南沙良さん、出口夏希さん、吉田美月喜さんの3人が衣装も含めてすごく華やかで目立ってました!
あの3人は本当に素晴らしい!そして羽村仁成君も含めた4人は本当に素晴らしいかったですね。まあ僕はいいんですけど(笑)。

――今回の作品の撮影中、特に印象的なエピソードがあったら教えてください。
とにかく毎日が本当に楽しい撮影現場でした。具体的なエピソードというより、本当に南沙良さん、出口夏希さん、吉田美月喜さんっていう、本当素晴らしい俳優3人のアンサンブルをほとんど毎日見ることができて、それは本当に幸せでした。監督をしていて、ああ、こんなにもこの3人をこの瞬間に撮影させていただけることができるなんて、本当に監督冥利に尽きるなっていうふうに思ってたので、幸せをかみしめながら、毎日過ごしてました。
――若手俳優が多い現場で、ハッと気づかされるようなことはありましたか?
僕もまだ2本目ですから、彼女たちはたくさん映画に出ているとことを考えた時に、若手というより本当に学ぶべきこともたくさんありましたし、すごく刺激を受けるところもたくさんありました。なので若手という意識はあまりなかったかもしれない。現場にすごくストイックに臨む人たちで、それぞれが本当に集中しながら現場に臨んでたので、現場中は会話は少なかったかもしれないです。
――事前に監督から、役についてのアドバイスとか、どんなふうに演じてほしいみたいなことは話しましたか?
南さんに関して言うと、南さんはどっちかっていうと今まで優等生を演じてきて、今回のキャラクターとはちょっとイメージが違う役柄を演じてたことが多いと思うので、この新しい挑戦というか、そういうことを一緒にできたらなっていうことは事前にお話させてもらいました。今回演じた朴秀美というちょっと荒っぽいって言うんですかね。純粋だけどユーモアもある朴秀美というキャラクターが僕自身もすごい好きなので、そういう意味で南さんが楽しんで、南さんにしかできないものにしたいですね、という話はしました。
出口さんはもうとにかく本当にスターというかキラキラしているので、彼女のその魅力のままいかにやりやすく美流紅として違和感を持たずに現場に臨めるかっていうことを気にしながら撮影しました。すごく気を使われる方だったりもするので、役に集中できるような環境づくりができるように、自分的には努めたつもりです。
吉田さんに関して言うと、吉田さんは朴秀美と美流紅の2人をちょっと俯瞰で見てて、南さんと出口さんの中で、自分がどうやったら輝けるんだろうということを常に模索していました。ポイントで僕に「ちょっとこういう風にしたいんですけど」と相談を受けたりして、それに対して「あ、いいんじゃないですか、やってみたらどうですか」という感じでセッションしていました。
それはあくまで3人それぞれの事前のインプットでしかないんですけど、どっちかっていうと3人が集まった時の魅力は、要はそれぞれがそれぞれの立場と、役作りと、それに対してどう集中していくかということで役を生きていくと思うんです。その役を生きた3人が、おそらく価値観も違うであろう3人が役の中で化学反応っていうんですかね、3人の魅力が画面の中にポンと出てきた時のみずみずしさは、こんなにも美しく輝くんだ!って、やりながらびっくりしてたっていうのはあります。それが本当嬉しかった部分ですね。

――朴秀美のラップについては何かご意見はありますか。ラップシーンが結構長くて印象的でした。
フリースタイルしているところは、原作にもあったシーン。美流紅に対してのシーンは、原作を脚本上ちょっと変更させてもらったりしてるんですけど、本当にうまいです。一番最後に出てくるところは、あれはもうまるまる映画のオリジナルで、かつ撮影中にやろうと思いついて。それで各所に相談して、一番はプロデューサー陣の皆さんに、単純にスケジュールにないとこだったんで、これが撮影できるかっていうことを制作部、演出部の皆さんに相談してもらいつつ、僕の方でリリックというか、歌詞の元みたいなものを作って。それを荘子itさんというラップ指導をされている方に、ブラッシュアップしていただいて。それを南さんに渡して練習していただいて、という感じだったんです。すべてこれが現場中に起こったことなので、本当にまあね、思いつくなら早くしろよって話だったんですけど(笑)、思いついてしまって。
――ラストのリリックは監督が書かれたんですね!特に気に入ってるフレーズはありますか?
いや、でもだいぶ荘子itさんに直してもらったんで。僕は彼女にしか歌えない何かっていうのを意識しながら、あくまでベースを書いた人間っていうニュアンスでしかないんですが、荘子itさんがむちゃくちゃ良くしてくれたんで、全部好きです!
――監督は編集もされてますが、編集でこだわったところは?
いい絵が作れればいいなと思いながらやってました。こだわりはそうですね、いくつかあります。間は大事にしてますね、ずっと。俳優の皆さんとの距離感、キャラクターとの距離感を間違いないようにというか、極端に寄り添いすぎもせず、かといって突き放しすぎもせずというか。うん、それが編集でうまく見せることができたらいい物語になるのでは、ということを模索しながらやってました。

――ちょっと話が変わりますが、監督自身が高校生だった頃、今回の映画の中に出てくる登場人物にマインドが近いのはどの人物でしょうか?
岩隈真子(吉田美月喜)じゃないですかね。もう間違いなく、岩隈だと思います。っていうか、やっぱキラキラした青春ってないじゃないですか! 世の中で語られているキラキラした青春っていうのが、なんかあまりにも押し付けられているような気がして。僕はそういう物語を見るたびに、高校生の時に絶望していたので、自分にはそんなキラキラ青春したものはもう来ないんだっていうふうに思っていて。だから、なんて言ったらいいんですかね。そうじゃない人間に向けて作りたかった、というのはあったかもしれないです。すべての人に向けてはいるんですけど、特にそういう人にが観てくれたら嬉しいかもしれないですね。
――では、監督がこの作品で一番伝えたかったことを教えてください。
僕は、物語というのは人間を救ってくれるんじゃないかなというのを常々思っていて。僕もたくさんの物語に触れて、今回のキャラクターもあの窮屈な村で、主人公の朴秀美はSF小説、美流紅は映画、岩隈は漫画に救われていると思うんですよ。自分の物語は自分のものだと思うので、自分の物語を生きる人たちの物語を描きたかったのかもしれないです。で、そうなってたらいいなと思います。彼女たちは自分の物語を生きるために、前に踏み出したと思ってます。
――最後に、クリエイターズステーションの読者にメッセージをお願いします。将来映画を作りたいと思っている人たちもいっぱいいると思います。
映画監督やりたい人はライバルなんで。まあ、あんまり送る言葉はないです(笑)。でも、そうじゃない人たち、そうじゃない何かものを作りたいと思っている人たちは、どっかのタイミングで一緒に何か映画作りがご一緒にできたら嬉しいですね。これを読んで、「一緒に児山さんと映画撮りたい!」とかって言ってくれたら嬉しいです。でも映画を撮りたいって言ってる映画監督目指してる人はライバルなんで。はい、頑張ってください!(笑)ありがとうございました!
(text:Kiyori Matsumoto / photo:Mimi Nakamura)
児山 隆
2021年、第2回未完成映画予告編大賞MICANにてグランプリを受賞した『猿楽町で会いましょう』(19/監督・脚本)が公開。若手俳優たちから「自然な演技」以上の生々しい所作や表情を引き出し、ストーリーテリングを駆使する演出手腕に定評がある。

©2026「万事快調」製作委員会
万事快調〈オール・グリーンズ〉
<キャスト>
南 沙良 / 出口夏希 / 吉田美月喜 / 羽村仁成 / 金子大地
<スタッフ>
監督/脚本/編集:児山 隆
原作:波木 銅
主題歌:NIKO NIKO TAN TAN「Stranger」 (ビクターエンタテインメント/Getting Better)
作品概要
未来が見えない町に暮らす朴秀美と美流紅たち。未来が見えないどん詰まりの高校生が、自分たちの夢をかなえるために、この町とおさらばするには、一攫千金を狙うしかない! 彼女たちは、同好会「オール・グリーンズ」を結成し、禁断の課外活動を始める――。南沙良・出口夏希の今最も旬なふたりがW主演を務め、時代の閉塞感を吹き飛ばす、不適切で爽快な青春映画が誕生!






