《インタビュー》東京国際映画祭「Nippon Cinema Now」上映『みらいのうた』のエリザベス宮地監督「吉井さんから喉の治りが早かったといわれた時は本当に嬉しかった」
東京国際映画祭(2025.10.27~11.5)の「Nippon Cinema Now」部門は、日本映画の新作を上映する部門として「海外に紹介されるべき日本映画」という観点を重視して選ばれた8作品が選ばれました。THE YELLOW MONKEYのボーカル吉井和哉さんが闘病を経て、ステージ復活までの濃密な3年間を描くドキュメンタリー映画『みらいのうた』。エンディングテーマは映画と同タイトルの「みらいのうた」を吉井さんが担当しています。今回は、東京国際映画祭で上映された時の心情や伝えたいメッセージなどを監督のエリザベス宮地さんに伺いました。
「スタートとゴールがなかった」上映の旅立ちの瞬間

上映後の質疑応答の前に、エンディングで「みらいのうた」がかかったときに、吉井和哉さんが「旅立ちましたね」とおっしゃっていましたが、改めて上映されたときのお気持ちをお聞かせください。
いつも上映の前日がすっごい寂しくなっちゃうんですよ。 前日に「みらいのうた」を聴きながらいつも歩く散歩道(神田川)があるんですけど、歩いてたらずっと涙が止まらなくて。どういう感情か分からないんですよね。 嬉しさもあるし、寂しさももちろんあって。 でもこの間、質疑応答が始まる前に舞台袖で最後のエンディングに「みらいのうた」が流れていた時に吉井さんから、「旅立ちましたね」って言われたときは、すごい安心した気持ちになりました。スタートからゴールもなかったし、何になるか分からなかったので、それがちゃんと映画になったっていうのをこの間の質疑応答の舞台袖で初めて実感しました。

© 2025 ”TimeLimit” Film Partners
3年間の取材の中で、本当にいろんな出来事があったと思うのですが、その中で一番印象的だったことはなんでしょうか?
もちろん、吉井さんの病気もそうだし、そこからの復活ライブもそうなんですけど、ものすごく感動したのが最後のEROさんの復活ライブに向けて、30年以上住んでるEROさんの家で打ち合わせをするシーンがちょこっとだけあるんですよ。 そこで吉井さんとEROさんが40年ぶりに一緒にギター弾いて、セッションし始めるんですね。そこの部分は音は使ってないんですけど、カメラを回してて、40年前もきっとこういう空気だったんだろうなみたいな。何にも変わってないんだろうなって思って、それを見てゾクゾクしちゃって。場所もそうだし、2人の間に流れてる時間って、ずっと多分これだったんだろうなっていうのが 2人を撮っててものすごく感じました。タイムワープしたかのような、その時の空気感がめちゃくちゃ印象に残ってますね。
音楽ってすごいですよね。若い10代の頃に聴いた音楽を30年後聴いても、その時の気持ちに一瞬で戻れるじゃないですか。そういう音楽のマジックみたいなのを撮ってても感じました。きっとこういう時間があの時も流れてたんだろうなって、すごく胸に来るものがありました。

レッドカーペットの様子
左から、エリザベス宮地監督、EROさん、吉井和哉さん
今回の作品を通して、鑑賞する人にメッセージとして一番伝えたいことは、どのようなことでしょうか?
これも質疑応答で話した内容なんですけど、吉井さんがこの間おっしゃっていたのが、「自分にEROさんがいたように、見る人にとっても絶対EROさんみたいな存在はいる」と思っていて。それは家族かもしれないし、友達かもしれない、恋人かもしれないし、 人によっては人じゃなくて場所であったり、景色だったり、動物だったり、でも自分の核となるような部分を作ってくれた出会いって絶対あると思っていて。そういう存在を思い出してくれたらいいなと思いました。たぶん、映画を観終わった後に思うことって、吉井さんとかEROさんのことよりも自分の人生だと思うので、その時思い浮かぶ人がいたらいいなと思いますね。
映画を観終わった後に、私もこれからの人生の一瞬一瞬をもっと大切にしようと思いました。
思いますよね。撮影の度に思いましたもん。撮影期間中に結婚したんですけど、撮影から帰ってくる度に奥さんが、「吉井さんの撮影から帰宅する度に毎回優しくなって帰ってきてるよ」って言ってくれたのが、すっごい嬉しくて。そういう時間なんだろうなって。自分のことは自分ではあんまりわかんないので、そういうのが身近な人にも伝わるような時間なんだなって思うとすごく嬉しかったです。

「ドキュメンタリーを撮っていたからこそ、喉の治りが早かった」
質疑応答で吉井さんが「ドキュメンタリーを撮っていたからこそ、喉の治りが早かったんだと思います。」とおっしゃっていましたが、これは宮地さん、言われてすごく嬉しかったんじゃないかなと。
めちゃくちゃ嬉しかったです、、! カメラって良いものを撮影できるという反面、暴力性だってあるし、常に両方内蔵しているものがカメラだと思うんです。ただ今回、吉井さんは撮影中に病気が発覚して、「宮地君が復活するまで撮るって言ってるから」と、カメラで撮影することをいい面として捉えてくださっていました。
とにかくカメラの前でどうありたいかというか、自分を立志してたんだと思うんですよ。カメラの両面性は常にある中で、吉井さんはポジティブな方向にエネルギーを変換してくださったんだなと思って。だから「ドキュメンタリーを撮っていたからこそ、喉の治りが早かった」といわれた時は嬉しかったです。とっても嬉しかったです。あんな嬉しい言葉ってなかなかないですよね。 被写体の方からそう言われたのは初めてかもしれない。
吉井さんも「喉の調子が悪くて、声が上手く出せないときは、正直一人でいたいときもあったけど、やっぱり撮っててよかった」とおっしゃっていましたね。本当に一人でも多くの方に見てほしいなと思いました。
本当によろしくお願いしますね。(笑)上映する以上はヒットさせないといけないんですけど、めちゃめちゃいい映画見たときって「この映画あの人に紹介したい」って頭に浮かびませんか? 僕は具体的に浮かぶんですよ。連絡もしますし。それって映画によって違うので、そういう人がみなさんの見た人の中に一人でもいたら本当にそれでいいっていう感じですね。この映画観終わった後、吉井さんの音楽の感じ方も変わると思うので、THE YELLOW MONKEYの曲もぜひ聴いていただけると嬉しいです。
大切なのは謙虚さを忘れないこと。傍にいさせてくれた喜びと感謝

それでは最後に、エリザベス宮地さんがドキュメンタリー映画を制作をする上で大切にしていることを教えていただけますか?
僕は基本的にドキュメンタリーを撮っていてミュージックビデオもたまに撮るんですけど、ドキュメンタリーって監督、撮影、編集を全部やってるんですが、あんまり自分がクリエイトしたって思わないんです。結構全く思わなくて、編集の時とかは頑張って作品にしたいっていう気持ちはものすごくあるんですけど、 なんかそれよりもドキュメンタリーって偶然性だったり、被写体の方のそばにいさせてくれた喜びとか感謝の方が強いんで、自分が監督したぞ!撮影したぞ!編集したぞ!ってなれないんですよ。本当に大事なのは人かなと思ってます。吉井さんが今回3年間もいさせてくれたこと、絶対撮られたくない時もあったけど、それは忘れちゃダメだなって。これは人がいて成り立つことだし完全に一人でできるものもあるかもしれないけど、 基本なかなかそうはいかないと思うんですよ。 作ったら公開するタイミングで配給とか宣伝の人、いろんな人と関わることになるので、謙虚さを忘れちゃダメだなっていうのを自戒として常に大事に思っています。
Photo& text:Mimi Nakamura
1985年高知県生まれ。東京を拠点に活動。ドキュメンタリー手法を軸に、藤井⾵、back number、吉井和哉、anoなど様々なアーティストのドキュメンタリー映像やusicVideoを監督。2020 年に監督した優⾥「ドライフラワー」MV は現在までに2億回再⽣を越える。また、2025年に監督したback number「ブルーアンバー」MVは、実在するドラァグクイーンを主役としたドキュメンタリーとフィクションが入り混じった内容が話題となる。ドキュメンタリー作品としては、俳優・東出昌⼤の狩猟⽣活に1年間密着したドキュメン タリー映画『WILL』を2024年に劇場公開。2⽇間で14万⼈を動員した藤井⾵の⽇産スタジアムライブに密着したドキュメント作品「Feelin’ Good (Documentary)」、SUPER EIGHT の安⽥章⼤がアイヌ⽂化を取材するテレビ番組「Wonder Culture Trip―FACT―」などを2024年に公開。また実在する独身プログラマーを主人公に起用し、現代の東京の独身生活をリアルに描いた短編映画『献呈』が2025年のモスクワ国際映画祭 短編コンペティション部門に日本人としてはじめてノミネートされた。

©2025「みらいのうた」製作委員会
『みらいのうた』
2025年12月5日(金)公開
主演:吉井和哉/ERO
監督・撮影・編集:エリザベス宮地
配給:murmur
©2025「みらいのうた」製作委員会
公式サイト:https://mirainouta-film.jp/
公式X:https://x.com/MIRAINOUTA_film
作品解説
不屈のロックバンド・THE YELLOW MONKEY。そのボーカルとして、多くの音楽ファンを、今も魅了し続けている吉井和哉。本作は撮影開始した矢先に病が発覚し、闘病を経てステージ復活までの濃密な3年間を記録。2024年感動的な復活を遂げた東京ドーム公演の熱く壮絶なライブパフォーマンスや、原点・静岡で、吉井をロックの世界に導いた人物との交流も映し出す。






