第38回東京国際映画祭 映画『国宝』李相日監督と映画『TOKYOタクシー』山田洋次監督の対談&クロージングセレモニー
10月27日~11月5日に開催された第38回東京国際映画祭が幕を閉じた。10日間の上映動員数は69,162人、上映作品本数は184本。その他リアルイベント動員数は93,847人、ゲスト登壇イベント本数は184件、海外ゲスト数は2,557人となった。昨年度に比べ、上映動員数は7500人を上回り、三連休では屋外上映会の客席は満席、立ち見でも溢れかえるほどの盛り上がりをみせた。
今回はその中でもビックイベントの1つである、東京国際映画祭のセンターピース作品に選出されている映画『TOKYOタクシー』の山田洋次監督と、映画『国宝』の李相日監督とによる対談と各賞受賞作品・受賞者について綴っていく。
国際交流基金×東京国際映画祭 交流ラウンジにて山田監督と李監督のビック対談を開催
2025年11月5日、 日比谷ミッドタウンの交流ラウンジにて李監督と山田監督の対談が行われた。モデレーターは映画評論家の石飛徳樹さんである。
今回は、山田監督と李監督のビック対談でありながらも、山田監督は冒頭から「僕の映画より、『国宝』の話がしたい!」 と前のめりになりながら質問をしていた。
国宝の稽古はトータルで1年半だった。始めは歌舞伎の基礎である摺り足(赤ちゃんでいうと、よちよち歩き)に苦戦していて、李監督は「本当に撮影はいれるのかな?と不安に思っていたが、二人とも(吉沢亮、横浜流星)非常にストイックで、撮影がない時も常に稽古に励み、技術のエッセンスを絞ったとしても1年半でできたのはすごい。」と述べた。稽古の中であっちの方が進んでる。と進捗がわかるため、「お互いが切磋琢磨している過程がそのまま役の関係性になっていった。2人だったからよかったのかも。」と語った。
石飛さんから「長い小説だと、連続ドラマでもよいのではと思う人もいるんじゃないでしょうか。李監督は最初から映画と決めていたとおっしゃっていましたが、その理由は?」という質問に対して李監督は「スクリーンで見たい。原作に忠実に映像化すると8~10時間になる。原作と違うのは顛末を見せないことをルールとして決めていて、人生がどんどん進んでいく中であの人はどうなった?関係性は10年後どうだった?など帰結を見せないこと。見えない部分は観客の皆さんが埋めていく前提で作った。」と語った。
山田監督は、「時系列が混ざっても 観客がついていけている。シュールなことをやっているが、納得のいくものになっていたのは本当に感心したなあ。」と語った。

山田監督の『TOKYOタクシー』の脚本にあたって、構造的にはシンプルにパリ(*原作はフランス映画『パリタクシー』(2022))ではなく、日本が舞台で日本人の運転手とおばあさんだったらどうなるかな?という気持ちから始まったという。
映画の冒頭にタクシー運転手が朝ごはん食べる場面で木村拓哉さんが納豆をかき混ぜているシーンがあり、「前年のグランメゾン・パリでは一流シェフだったけど、今回は納豆をかき混ぜるのかとみんなで笑っていた」という発言が会場の笑いを誘った。
山田監督は木村さんについて、「本当にまじめ。自分の出番がなくなっても最後までセットにいる。自分の出番が2番手3番手でも最初からいるから、そう生きるんだと自分で決めているところがあるんじゃないかな。なかなかの男だ」と俳優としての姿勢についても評価していた。
撮影中は、必ずカメラの隣で俳優を見ていることで知られている山田監督に対して、李監督は「役者のどこを見ていますか?」と質問した。
山田監督は「俳優はレンズと監督を意識しているから、カメラのそばに監督がいるのは大事。若い監督は隣の部屋で、よーい、はい。など言っているが、あれはよくない。役者も嫌だと思いますよ」と語る。
その後、話はすぐに『国宝』に戻り、山田監督が特に感心していたのは、劇場の撮り方だという。「観客の目線から離れちゃいけないという約束事がある中で、役者の気持ちを映すシーンでは撮り方を舞台上の役者をとらえたのは斬新で面白かった。」と述べた。
俊介(横浜流星)と喜久雄(吉沢亮)が 最後に踊る「二人道成寺」では、大きい劇場の観客を1階から3階まで映す撮り方について、2階と3階は実はCGだと述べた瞬間、会場全体に驚きの声があがった。李監督は「本当は1階しかエキストラは入っていないが、ブルーバックを張って撮影している。客席数やエキストラの動員数に関しては500近くだが、詳細は内緒です。」と語った。山田監督も間髪入れずに次々と質問を投げかけていたが、「よくそんな撮影できたね。」と感心の声を漏らした。
対談中の約8割が『国宝』の話だったが、本当にお互いをリスペクトしていて45分では話し足りない様子だった。これから日本の映画について山田監督は、「かつて日本はアジアの映画の先進国だったが、今は中国や韓国など政府が援助して力をいれている。これは国の問題なので、これから真剣に取り組んでほしい。日本もそういうきっかけがこの東京国際映画祭で生まれるといいな」と語った。
対談の様子は東京国際映画祭の公式YouTubeにて配信されているので、ぜひ見ていただきたい。
https://www.youtube.com/watch?v=De3q_5-LHms
熱い10日間が閉幕。クロージングセレモニー受賞者発表

東京グランプリは『パレスチナ』が受賞!
11月5日(水)に閉幕を迎え、TOHOシネマズ 日比谷スクリーン12にてクロージングセレモニー が行われ、各部門における審査委員からの受賞作品の発表・授与が行われた。
各賞の受賞者は以下のとおり。
第38回東京国際映画祭 各賞受賞作品・受賞者
コンペティション部門
東京グランプリ/東京都知事賞 『パレスチナ36』(パレスチナ/イギリス/フランス/デンマーク)
審査員特別賞 『私たちは森の果実』(カンボジア/フランス)
最優秀監督賞 チャン・リュル監督(『春の木』、中国)
アレッシオ・リオ・デ・リーギ、マッテオ・ゾッピス(『裏か表か?』、イタリア/アメリカ)
最優秀女優賞 福地桃子、河瀨直美(『恒星の向こう側』、日本)
最優秀男優賞 ワン・チュアンジュン(『春の木』、中国)
最優秀芸術貢献賞 『マザー』(ベルギー/北マケドニア) 観客賞 『金髪』(日本)
アジア学生映画コンファレンス 作品賞『フローティング』(韓国)
審査委員特別賞『永遠とその1日』(台湾)、『エンジン再始動』(韓国)
アジアの未来 作品賞 『光輪』(韓国)
東京国際映画祭 エシカル・フィルム賞 『カザ・ブランカ』(ブラジル)
黒澤明賞 李相日、クロエ・ジャオ
特別功労賞 山田洋次、吉永小百合
日本人では、『金髪』 坂下雄一郎監督と『恒星の向こう側』 福地桃子さん、河瀨直美さんが受賞。

観客賞受賞 『金髪』
坂下雄一郎監督 コメント:
広く観客のみなさんから認められたのは嬉しいです。今後も映画作りに励んでまたこの映画祭に戻ってこれる様に努力します。

最優秀女優賞受賞 『恒星の向こう側』
河瀨直美さん コメント:
監督として、映画祭に参加したことはあっても俳優として参加できたのは中川監督のおかげです。チームの皆がいたからこそ、自分自身のすべてを出し切れました。福地さんには冷たい態度をとるなど、徹底した役作りをしていましたが、最後に彼女の温かさを背負えた瞬間涙が出ました。
最優秀女優賞受賞 『恒星の向こう側』
福地桃子さん コメント:
歴史ある賞をいただけて光栄です。身の引き締まる思いです。主人公を演じるにあたって、人物を見つめて追いかけて溶け合っていくような作業は決して一人では乗り越えられる時間ではありませんでした。この経験を胸にこれからも1つ1つの作品に向き合っていきたいです。
今年は、国内外の映画が幅広く上映され、「コンペティション部門」に加え、女性監督作品に焦点を当てた「ウィメンズ・エンパワーメント部門」、新たな映画の未来の開拓として、アジア各国で映画を学ぶ学生たちによる短編作品のコンペティション「アジア学生映画コンファレンス部門」など、多様なプログラムが多く展開されていた。国内外問わず、多くの方々が参加して、これからの映画業界に新たな風を吹かせるきっかけがこの10日間にたくさん詰まっていたと感じる。世代や性別、国を超えて今後の映画業界を盛り上げるため、第39回ではさらに多くの方に参加していただきたいと思う。
今回、クリエイターズステーションは初めて東京国際映画祭にプレスとして参加した。プレスの中でも舞台挨拶やQ&Aは取材を希望する人数が多く、前日の夕方まで取材の可否がわからないハラハラを常に感じていた。激戦区の中で抽選に当たって喜んだり、落選して落ち込んだり本当にさまざまな経験をした。しかし、レッドカーペットをはじめとし、10日間でこんなにたくさんの映画に触れて、監督を取材し、映画に対する熱い想いを聞くことができたことは大きな財産になったと感じる。これからの映画業界を担っていく方たちの想いを今後も伝えていきたい。
【開催概要】
名称:第38回東京国際映画祭
主催:公益財団法人ユニジャパン(第38回東京国際映画祭実行委員会)
共催:経済産業省
国際交流基金:(アジア文化交流強化事業)
東京都(コンペティション部門、ユース部門、ウィメンズ・エンパワーメント部門、アジア学生映画コンファレンス部門)
期間:2025年10月27日(月)~11月5日(水)[10日間]
開催会場:シネスイッチ銀座(中央区)、角川シネマ有楽町、TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 日比谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、丸の内ピカデリー、ヒューリックホール東京、東京ミッドタウン日比谷 日比谷ステップ広場、LEXUS MEETS…、三菱ビル1F M+サクセス、東京宝塚劇場(千代田区)ほか、都内の各劇場及び施設・ホールを使用
HP:https://2025.tiff-jp.net/ja/






