「JUN MUSIC展:EXTREME IMMERSIVE DAY」~「時代はイマーシブだよ」と嘯く業界人にこそ聞いてほしい真のイマーシブサウンド~
2025年10月5日(日)城西国際大学 東京紀尾井町キャンパスで開催された「JUN MUSIC展:EXTREME IMMERSIVE DAY」
人影まばらな休日の紀尾井町、城西国際大学のキャンパスで最先端の立体音響を体験できる音楽イベントが行われると聞き向かった。
JUN MUSICは、作曲家・音楽プロデューサーの片倉惇氏を中心に、サウンドアーティストの助川舞氏、サウンドエンジニアの福島優大氏を擁した音楽クリエイターユニットである。最近では大阪・関西万博の石黒浩・シグネチャーパビリオン「いのちの未来」や日本科学未来館「ジオ・スコープ」等、大規模空間の音響プロデュースの他、花王株式会社ホームケア事業部のホラーアクションゲーム「しずかなおそうじ」のゲームサウンド全般を担うなど、話題のコンテンツの陰には何故か片倉惇の名前が挙がってくる。
実験的なサウンドと抜群の空間プロデュースを得意とする新進気鋭のクリエイター集団が醸し出す立体音響空間とは何なのか、彼らの提唱する「音のデザイン」を体感してみた。

通されたのは地下1階のスタジオ。本イベントはJUN MUSICと城西国際大学メディア学部滝口ゼミによる産学共同イベントであることから学生スタッフがメインで配置されている。映画やドラマの撮影実習で使用されるというスタジオは、小さなライブハウスほどの空間。センターには1本のスタンドマイクが置かれており、おそらくここにボーカルが立つのだろう。しかし客席はない。スタンドマイクを取り囲むようにドーナツ状の空間があり、その外側にギター、ベース、ドラム、キーボードが放射線状に配置されている。このドーナツ状の空間が、今日の観客席のようだ。
まずはバンド「WOos」の新曲「City Boy Dance」から。全方向からボーカルのウィスパーボイスに重なるようにそれぞれの楽器音が降り注ぐ。観客はおのおのが好ましい「位置」と「音」を見つけに旅に出る。客席で座って聞くのが当たり前と思っていた音楽は、自ら掴み取りに行く音楽に変わっていく、面白い。
続いて片倉惇氏の曲「ne/sin」が始まると、これまで驟雨のように降り注いでいた音楽は霧散し、暴力的なまでの音の坩堝に巻き込まれる。はじめは静かに、遠くから近くから響く猫の声、その猫の叫びは激しさを増しいつか虎に変化する、同時に波打つように体に叩き込まれ、鳴り響くガムラン、人々は戸惑いながら一方向に向けてぐるぐると廻りだす。そこにあったのは古代から日本人が見慣れたあの熱狂の風景、祭であった。

音のゲリラ豪雨に呆然とする間もなく5階へ。こちらでは、紀元前ギリシャの神々の戦いから始まり現代に至るまで、人と音の関わりの変遷をパネルで展示する「立体音響の歴史展」、デジタルクルーズ株式会社とJUN MUSICが共同開発中のオフィス環境を音響で最適化するモジュール「オフィスサウンドデザイナー」など、立体音響に関する展示作品が並ぶ。

その一番奥に鎮座していたのは謎のアーティスト「NALIL(ナリル)」の部屋。薄暗い部屋に乱立するいくつかの突起物。そのひとつに手を翳すことにより、ひとつの音が生まれる。さざ波のように連なるその音は、次第に小さな空間いっぱいに広がっていき、最後には身体ごと別の次元に連れていかれるような心持ちになる。半信半疑のまま部屋の外に出ると、そこにはこの場で体験した人々のそれぞれの体験が書かれたメッセージカードが展示してあった。その一つ一つに目を通し、ここまで自分が経験してきたことに一つの正解を見た気がした。

「わかろうとしないこと」それが音楽という名の芸術を完成させるのだ。音楽は今後、耳から「聴く」ものから、五感で「感じる」ものに進化していくのだろう。JUN MUSICが提唱する「音のデザイン」は、音楽を奏でる者と聴く者、その両者の耳と心を媒介にして最高の芸術に昇華させるための環境を作り出す。それぞれが感じたことをその時そのままの感情で受け入れる気持ち良さ、それがJUN MUSICの生み出す音の真骨頂だったのではないだろうか。






