【新作映画情報】『劇場』7月17日全国公開/配信

東京
映画プロデューサー
【新作映画情報】Vol.07
村田徹

「いつまで持つだろうか・・・」

本作の中で主人公の永田(山﨑賢人)が幾度となく呟くセリフです。
演劇の世界で夢を追う主人公の苦悩が集約されている言葉です。

本作は、芥川賞受賞作であり爆発的な大ベストセラーとなった「火花」に続く又吉直樹さんの第2作目、小説「劇場」を、主演に山崎賢人、ヒロインに松岡茉優さんを迎え、行定勲監督がメガホンを取り、実写映画化された大注目作です。

4月に全国規模でのロードショーを予定していたものの、コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、残念ながら延期を与儀なくされた作品でもあります。
無事に7月17日の公開が決まりましたが、既に大々的なプロモーションを行ってきた直後の延期ということもあり、製作関係者のご苦労は相当なものであったに違いありません。

さて、話を一旦作品に戻します。

【あらすじ】
中学から友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家兼演出家を担う永田(山﨑賢人)。
しかし、その前衛的な作風は上演ごとに酷評され、劇団員たちも離れていき、劇団は解散状態になっていた。
そんなある日、永田は街で、偶然同じスニーカーを履いた沙希(松岡茉優)と出会う。
普段の永田からは考えられない積極さで沙希に話しかける永田。
演劇のことだけを考えてきた永田と、女優になる夢を抱き上京し、服飾の学校に通っている学生・沙希の恋はこうして始まった・・・。

 

まずは冒頭の二人の出会いのシーン。
永田くん、怪しすぎます。
沙希ちゃん、そんな男は危ないから相手にしないでー!
(と、観ている人は心の中で叫びます。私の場合は完全にお父さん目線)

しかし、ストーリーが進まなくなるので、ここはグッと堪えることにしますが、この心の声はむなしくも映画の後半まで続くことになります。
簡単に言うと、そんな映画なのです。

舞台俳優としての成功を夢見る男と、そんな彼を真っすぐに優しく支え続ける彼女の恋愛ストーリー。
聞こえはいいのですが、家に転がり込んできた永田を沙希は徹底的に甘やかし、優しすぎるその姿に、観客は終始胸を痛めることになります。

夢を叶えることが彼女を幸せにすることだと思っている永田と、ただひたすら彼を支え、許し、心を休める居場所を作りたかった沙希。
そんな二人の気持ちは並行線以上に離れていき、すれ違いとなり、ただひたすら苦しい恋愛になっていきます。

 

しかし、どう贔屓目にみようとしても永田くんは酷い。
同情できる余地はありません。
完全なヒモ状態でありながら、自分本位で、劣等感の塊で、身勝手過ぎる生き物。

終始、気持ちをモヤモヤさせながら映画は後半戦に突入しますが、観ている側は、この作品の結末がどこに向かおうとしているのか不安でしかありません。

その後、「演劇で出来る事は現実でもできる」というセリフと共に、「劇場」というタイトルらしいエンディングに突き進んでいきます。

そしてラストの沙希のセリフがあまりに切ない。
世の男性はどういう気持ちでこの言葉を受け取るのでしょうか。

 

山﨑賢人くん、松岡茉優さん、共に素晴らしい演技でした。
お二人とも、最高レベルのキャリアの作品になるのではないでしょうか。
特に松岡さんの、笑いながらも複雑な心情を訴える演技には感服です。
それを見事に引き出した行定勲監督の手腕の素晴らしさは言うまでもありません。

また、この映画はタイトルに相応しく、下北沢を中心に原宿や渋谷等、演劇関係者には馴染み深い場所で撮影が行われていました。
私自身も見慣れた場所が多く登場し、それだけで気分が上がりました。

さて、冒頭でも触れた公開延期の話題ですが、この作品は別の意味でも注目を浴びることとなりました。
これまで映画業界でタブーとされてきた、劇場公開とインターネットでの配信(Amazon Prime video)を、同時に行う選択をしたことです。

大きな制作費が伴う作品は、公開時期のタイミングに苦慮せざるを得ない事情があります。
劇場の座席数が半減されている今の状況では、製作費のリクープ(回収)が難しい為です。

製作関係者の皆さまは、コロナウイルスの収束が見えない中で、苦渋の決断をされたことと思います。
これが今後、新しい上映の形となるかは分かりませんが、映画業界に一石を投じる作品になることは間違いないでしょう。
私も映画制作者の一人としてとても注目しています。

7月17日に満を持して公開される映画「劇場」。
あなたは映画館へ足を運びますか? 
それとも自宅でご覧になりますか?

『劇場』
7月17日(金)全国公開/配信

出演:山﨑賢人 松岡茉優
   寛 一 郎 伊藤沙莉 上川周作 大友律 / 井口理(King Gnu) 
   三浦誠己 浅香航大
原作:「劇場」又吉直樹 著(新潮文庫)  
監督:行定勲  
脚本:蓬莱竜太  
音楽:曽我部恵一

配給:吉本興業

https://gekijyo-movie.com

©2020「劇場」製作委員会

プロフィール
映画プロデューサー
村田徹
㈱フェローズ コンテンツマネジメントセクション マネージャー /映画「スパイの妻」2020年10月公開予定/映画「ブルーヘブンを君に」近日公開予定/映画「恋のしずく」2018年10月公開/映画「カノン」 2016年10月公開/映画「ちょき」2016年11月公開/短編映画祭「フェローズフィルムフェスティバル学生部門」/東京在住・石川県金沢市出身

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