日常は奇跡のような瞬間の積み重なり、相次ぐ公演中止に演劇人ら痛感

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

 「初日が開いたらお客様がいらっしゃり、千穐楽が来るということは当たり前ではないんだと痛感しました」。新型コロナウイルスの感染が拡大し、政府が緊急事態宣言を発したことで、「エリザベート」や「ミス・サイゴン」の全公演の中止が決まるなどエンターテインメント界は事実上の活動停止を余儀なくされているが、まだ開催する公演もあった3月、初日をずらすことで上演にこぎつけたある公演で、出演者はそう話した。日常というのは実は奇跡のような瞬間の積み重なり。当たり前のように過ごしていることが、どれほど貴重なことなのかということを私たち観客もまた感じざるを得ない。

 「あの積み重ねは何だったの?」。公演が中止になった演出家はSNSでその苦しい胸の内を吐露して、たくさんの人から慰められていた。実際、演劇は2年前から会場(劇場)を抑え、脚本を書いてキャストを集め、告知してチケットを発売し、稽古に入る。何度も何度も議論をし、より良い表現を獲得する。その積み重ねは公演中止ですべてが一瞬に消失する。観客の前で上演されて初めて舞台は完成することを考え合わせれば、かたちとしては何も残らない。表現者たちが抱くそのむなしさに私たちは連帯し寄り添わなくてはならない。

 「演劇、そして劇場の灯を消すな!」。それは決して演劇人たちのエゴから出ている言葉ではなく、どんな災厄が降りかかっている時も「表現」の場を確保しなくてはならないという思いから出る言葉。古代ギリシャでも現代の欧米でもアジアでもそうやって文化は守られてきた。今こそ、演劇の本当の意味を考えるべき時なのだ。

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター
阪 清和
共同通信社で記者だった30年のうち20年は文化部でエンタメ分野を幅広く担当。2014年にフリーランスのエンタメ批評家として独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体などで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アートに関する批評・インタビュー・ニュース・コラムなどを幅広く執筆中です。パンフレット編集やイベント司会も。今春以降は全国の新聞で最新流行を追う記事を展開。活動拠点は渋谷。ほぼ毎日更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/)

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