シアターコクーン・帝劇建て替えのための休館・閉館で代替劇場に活気

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

いま東京の劇場界隈がざわついている。と言っても不穏な動きがあるわけではなく、演劇界の中核となっていたシアターコクーン(東京・渋谷)、帝国劇場(東京・丸の内)が相次いで建て替えのための休館期間に入り、その間の代替劇場として使用されている東京各地の劇場にあらためて注目が集まっているのだ。これまでのイメージに加えて新たな一面を見せて従来とは違う客層を獲得している老舗劇場もあれば、立地を活かした演目選びで特色を打ち出している劇場や、上演作品の増加で、これまで今一つだった知名度を上げている劇場などさまざま。期間限定の特需ではあるものの、今後の生き残り戦略にも直結するとあって、各劇場は必死だ。(写真は特定の劇場の客席ではありません)「演劇の殿堂」と呼ばれることもあるシアターコクーンは東京・渋谷の東急Bunkamura(文化村)の中核施設だが、隣接する東急百貨店本店の建て替えに伴って、2023年4月から休館に入った。

2代目だった東京・丸の内の帝国劇場は日本のミュージカル界を牽引してきた劇場で、特殊な舞台機構の存在もあって、スケールの大きい公演を長年提供してきた。隣接するビルとともに建て替えのため今年2025年2月に閉館した。両劇場は休館・閉館前から入念に準備を進め、シアターコクーンを運営する東急文化村は新宿・歌舞伎町にオープンさせた東急歌舞伎町タワーの中に東急が新設した劇場「THEATER MILANO-Za」を代替劇場と位置づけて公演を行っている。帝国劇場を運営する東宝は近くの日生劇場のほか、従来から関連公演を上演していた東京国際フォーラム(有楽町)や東京建物Brillia HALL(池袋)、加えて東急系が運営するミュージカルに強い東急シアターオーブなどでも公演を行っている。さらには、かつては歌舞伎や新派公演で知られ、現代では演歌公演や歌謡ショー、時代劇公演で有名な明治座(人形町・浜町)でも公演を行っている。

「THEATER MILANO-Za」がある東急歌舞伎町タワーは歌舞伎町の中心地にあり、まるで歌舞伎町と地続きのような不思議な空間性を持つ劇場。そのことは既に上演する作品にも影響を与えており、昨年2024年には、かつて松尾スズキが生んだ傑作戯曲「ふくすけ」を「ふくすけ2024 ―歌舞伎町黙示録―」として上演。内容も明確に歌舞伎町を舞台にして、歌舞伎町が現代において新たに獲得してしまった複層的な歪みが土地に蓄積してきた猥雑な雰囲気と相まっていっそう物語の宿命性の根深さを際立たせ、観る者を戦慄の渦に巻き込んだ。

なにしろ劇場のあるビルを一歩出ればそこは歌舞伎町のディープゾーンのど真ん中。観客はまるで醒めない夢のように現実の世界を彷徨(さまよ)うことになる。明治座では従来から主催興行主にかかわらずさまざまな公演を受け入れているものの、ミュージカルを立て続けに上演している東宝作品の本格的な上演はまた格別のものがある。この5月には1カ月弱にわたって、王道のチャールズ・ディケンズ原作の小説を舞台化したミュージカル「二都物語」の再演公演を上演。主演の井上芳雄や浦井健治を目当てに若い世代が大勢訪れた。

昨年2024年、東宝と複数年・複数月の貸館契約を締結し、帝劇閉館中にさらなる公演の上演も予定。明治座側の体制も整え、万全の受け入れ態勢をとっている。 現代劇やミュージカル公演も積み重ねてきた明治座にとっても、劇場が旧来のイメージから進化していくことにつながるメリットがある。

また宙づり機構など一般的な劇場にはない設備なども充実し、東宝との協業後も、さまざまな制作体とのコラボレーションが活発化する可能性もありそうだ。 東急シアターオーブは東宝との協力によってミュージカル作品のラインナップ強化につながるほか、演劇興行的にはライバル関係の面もあるものの、ますます切磋琢磨して互いの進化につなげられる可能性も広がる。

また東京建物Brillia HALLは正式名称が豊島区立芸術文化劇場であることからも分かるように、運営主体は東京都豊島区。2019年の開館以来、公演が途切れることはないが、世間での知名度はいまひとつ。従来から演劇を街の活性化の推進材として位置付けている豊島区の文化推進行政イメージの浸透とともに、公演の増加が池袋を東京の演劇の中心地として発展させることにつながれば願ってもないことだろう。

現時点でシアターコクーンと帝劇の再開・オープン時期は不明だが、シアターコクーンは2028年度ごろ、帝劇3代目は2030年度竣工とされている。2029年度にはJR東京駅前の八重洲地区に、阪急電鉄、梅田芸術劇場、阪急阪神不動産が事業主体となるキャパシティ1300人の新劇場がオープンすることも最近発表された。

演劇界をさらにどれほど広範に活性化できるかに大きな注目が集まっている。

プロフィール
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阪 清和
共同通信社で記者として従事した31年間のうち約18年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。2014年にエンタメ批評家・インタビュアー、ライター、エディターとして独立し、ウェブ・雑誌・週刊誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞・テレビ・ラジオなどで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅・食・メディア戦略・広報戦略に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。雑誌・新聞などの出版物でのコメンタリーや、ミュージカルなどエンタメ全般に関するテレビなどでのコメント出演、パンフ編集、大手メディアの番組データベース構築支援、公式ガイドブック編集、メディア向けリリース執筆、イベント司会・ナビゲート、作品審査(ミュージカル・ベストテン)・優秀作品選出も手掛け、一般企業のプレスリリース執筆や顧客インタビュー、メディア戦略や広報戦略、文章表現のコンサルティングも。日本レコード大賞、上方漫才大賞ATPテレビ記者賞、FNSドキュメンタリー大賞の元審査員。活動拠点は東京・代官山。Facebookページはフォロワー1万人。noteでは「先週最も多く読まれた記事」に26回、「先月最も多く読まれた記事」に5回選出。ほぼ毎日数回更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/)。noteの専用ページ「阪 清和 note」は(https://note.com/sevenhearts)

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