甲州名物は「ほうとう」?むしろ「吉田のうどん」!

山梨県
フリーライター
youichi tsunoda
角田陽一

先月の記事は東京都の多摩地域から埼玉県一帯に伝承されている食文化「武蔵野うどん」を紹介させていただいた。

 

お江戸から武蔵野台地を西に向かう大動脈は、現在では国道20号線か中央線。昔の甲州街道。そう、西に向かい多摩川を越え、さらに相模川の水源地帯の山々を抜ければ甲州、甲斐の国、現在の山梨県である。

山梨県といえば武田信玄にブドウ、富士山の北半分。郷土料理では「ほうとう」が連想されるだろう。小麦粉を練った生地をそれほど「寝かせる」こともなく、手早く麺棒で伸ばして幅広に切る。その麺を野菜と共に煮込む。味付けは味噌。あらかじめ下茹でも水締めもしないままで煮込んだ麺はとろみを帯び、カボチャや里芋はじめ煮崩れた野菜類と交わるなかに味噌の味が染みて何とも言えない舌触りに歯触りを醸し出す。

甲州の名物麺料理・ほうとう。

だが山梨には、北半分を有している富士山の存在ゆえに生まれた名物麺料理がまた存在する。

それが「吉田のうどん

富士山北東山麓の街・富士吉田

甲州街道八王子から甲州街道を西へ。そのまま甲府盆地方面へ向かわずに相模川の谷を遡った先に位置するこの街は、江戸期より富士山信仰、富士登山客相手の宿場町として栄えた。

そして武蔵野台地同様、水に乏しい気候。富士山麓の寒冷な気候も相まって稲作が難しい土地だった。だから人々は麦を栽培して食に充て、宿場の旅人には「ちょっとゼイタクな麦料理」としてうどんを供した。これこそが当地の名物「吉田のうどん」

吉田のうどん
最大の特徴は「麺におそろしくコシがある
ことである

 

昨年の4月
筆者は知人と共に山梨県に行った折、この「吉田のうどん」を始めて食べた。
場所はあいにく富士吉田ではなく、甲府盆地東方のショッピングモール近隣のうどん店

 

それがこちら。

馬肉にキャベツに温玉、さらに刻み揚げにキンピラ牛蒡、山菜とトッピング総ざらいの「全部乗せ」。これでも1000円に達しない。ただのかけうどんなら500円以下。これがガッツリ系ラーメントッピング全部乗せならば1600円は下らないだろう。

さて肝心のお味。

本当に麺が固い。歯が折れるとまでは行かないが、。
しっかり噛まなければ嚙み切れない。

噛めばグッと歯に応える。スルスル軽快に啜りこめるようなものではない。

だがその固さがクセになる。
しっかり麺を、小麦のエッセンスをしっかり味わっている気分にさせてくれる。
口中に広がるずっしりとした大地の恵みを感じ取れる。

麺を彩るのは具だが、こちらも面白い
普通、うどんに入れる「肉」と言えば関東から東日本では豚肉、関西から西日本では牛肉
だが「吉田のうどん」、入る肉は牛でも豚でもなく「馬肉」なのだ。馬肉をホロホロに煮付けて具とする。さらに「茹でキャベツ」。日本でなじみ深い大根や小松菜ではなく、明治以降伝来の西洋野菜というのが面白いところ。

全体をまとめ上げるエッセンスの「薬味」。一般的な七味唐辛子でも一味でも、あるいはおろしショウガでもなく「すりだね」。
唐辛子粉に粉山椒、そしてゴマを油で炒り上げたもので、各店舗の手作りというところに魂が籠る。

 

重ねて言うが、こんな絶品うどん、具も全部乗せで「千円以内」で済んでしまう素晴らしさ。

うどんと言えば讃岐に難波、博多だが、ぜひ知られてほしいのが関東のうどん文化だろう。

プロフィール
フリーライター
角田陽一
1974年、北海道生まれ。2004年よりフリーライター。アウトドア、グルメ、北海道の歴史文化を中心に執筆中。著書に『図解アイヌ』(新紀元社 2018年)。執筆協力に『1時間でわかるアイヌの文化と歴史』(宝島社 2019年)、『アイヌの真実』(ベストセラーズ 2020年)など。現在、雑誌数誌で連載中。

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