ドラマ、音楽、映画、舞台と注目浴びる韓国コンテンツ、日本製作で「梨泰院クラス」もミュージカル化

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

日本時間2025年6月9日に授賞式が開催された米演劇界の最高の栄誉「第78回トニー賞」でミュージカル部門の作品賞に「メイビー、ハッピーエンディング」が選ばれたが、このことが大きな注目を集めたのは、この作品がもともと韓国発のミュージカル作品だからというのが大きな要因だ。今回のトニー賞でこの作品は計10部門でノミネートされ、ミュージカル作品賞のほか、ダレン・クリスのミュージカル主演男優賞、マイケル・アーデンのミュージカル演出賞、ミュージカル脚本賞、オリジナル楽曲賞、ミュージカル装置デザイン賞と最多の6部門で受賞しているので、米国版のキャスト、スタッフが優れていたことは間違いないのだが、やはり作品の持つ力が多くの受賞をもたらしたことは間違いない。

韓国のコンテンツが、韓流ドラマ(イカゲーム)、K-POP(BTS)、韓国映画(パラサイト 半地下の家族)に続いてついに舞台作品でも世界に認められた瞬間だったのだ。 韓国の演劇作品は既に日本でも大人気で、「メイビー・ハッピー・エンディング」は近未来のソウルを舞台に、使われなくなった2体の家庭用ロボット同士の愛を描いたラブストーリーである「メイビー、ハッピーエンディング」は日本で2020年に日本人キャスト版が上演されている。

日本では怪物譚としてのイメージが強い作品を原作の主旨に立ち戻って人間性への根源的な問い掛けのドラマとして韓国で再構築されたミュージカル「フランケンシュタイン」、愛希れいかの主演で日本で上演された「マリー・キューリー」、若手俳優の有望株が集まった「ダーウィン・ヤング 悪の起源」など韓国発ミュージカルは今や日本ではなくてもならないものになっていると言っていい。 昨年は、最初から海外展開を想定して選出段階から台本を英語、日本語、中国語に翻訳する資金が援助される韓国の演劇公募展「Glocal Musical Live」から生み出されたミュージカル「ファンレター」が日本初演され、絶賛を浴びたばかり。

そして、スマートフォンで読むかたちに特化した韓国のネット漫画「WEBTOON(日本では商標登録されているため、特定の企業のスマホ向け漫画のみを指す)」から生まれ韓流ドラマとして日韓で大ヒットした物語を日米韓のクリエイターが世界で初めて舞台化したミュージカル「梨泰院クラス」が今年春から夏にかけて、東京・池袋、大阪・箕面、愛知・豊橋で上演されている。 日本でも地上波で「六本木クラス」として日本版キャストでドラマが放送されたので、よく知られていると思われるが、簡単に紹介すると、国内最大手の飲食チェーン「長家(チャンガ)グループ」とその創業者である総帥の御曹司に自分や父親の運命を狂わされてきた正義感の強い若者パク・セロイが、あくまでも合法的に復讐を果たす物語だ。 韓国ドラマに特徴的な貧富の差と下剋上、正義と悪徳の闘い、大企業の強引さと欺瞞、出生の秘密による家族の間での愛憎などの要素のほかに、LGBTQや巨額マネーゲームなどの現代的な問題や耐え続ける愛の試練などの古典的要素も混ざり合い、視聴者や観客をひと時も飽きさせないスピード感を持っている。

ミュージカルでは、飲食業界で成り上がろうとするパク・セロイらの高揚感をダンスや楽曲、歌で巧みに表現。梨泰院という街の持つ自由奔放で多様性に満ちた雰囲気を描き出すことに成功している。もちろん、梨泰院は飲食業界の最激戦区であり、街が持つ厳しさも指し示す。

パク・セロイは決して完璧な人間ではなく、直情的で自分勝手な面もあるが、信念を持った生き方や、仲間や従業員に対する愛情、ぶれのない正義感が周りの人間を惹きつけ、変えていく力を持った人間だ。つまりセロイと周囲は互いに影響し合って高め合い、人間的な成長を促しているのだ。これはまさにミュージカルの基本のひとつであって、そこに善悪の闘いやビジネスゲームを混ぜ合わせることによって豊かな広がりを持つ物語になるのである。 パク・セロイを演じたWEST.の小瀧望のゆるぎない演技といい意味でスキのあるかわいげのあるセロイの性格を表現する巧みさが際立つが、愛していながら名参謀の座に甘んじているチョ・イソのもどかしい苦悩を体現した和希そら・sara(Wキャスト)や絶対的なヒールとしてチャン・グンウォン役を好演した秋沢健太朗の奮闘もあり、魅力的な作品に仕上がっている。

韓国のコンテンツが日本で、そして世界へ、また大きく飛躍することは、間違いなさそうだ。

ミュージカル「梨泰院クラス」は2025年7月6~11日に大阪府箕面市の東京建物Brillia HALL 箕面 大ホールで、18~21日に愛知県豊橋市のアイプラザ豊橋で上演される。6月9~30日に東京・池袋の東京建物Brillia HALLで上演された東京公演はすべて終了しています。

プロフィール
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阪 清和
共同通信社で記者として従事した31年間のうち約18年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。2014年にエンタメ批評家・インタビュアー、ライター、エディターとして独立し、ウェブ・雑誌・週刊誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞・テレビ・ラジオなどで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅・食・メディア戦略・広報戦略に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。雑誌・新聞などの出版物でのコメンタリーや、ミュージカルなどエンタメ全般に関するテレビなどでのコメント出演、パンフ編集、大手メディアの番組データベース構築支援、公式ガイドブック編集、メディア向けリリース執筆、イベント司会・ナビゲート、作品審査(ミュージカル・ベストテン)・優秀作品選出も手掛け、一般企業のプレスリリース執筆や顧客インタビュー、メディア戦略や広報戦略、文章表現のコンサルティングも。日本レコード大賞、上方漫才大賞ATPテレビ記者賞、FNSドキュメンタリー大賞の元審査員。活動拠点は東京・代官山。Facebookページはフォロワー1万人。noteでは「先週最も多く読まれた記事」に26回、「先月最も多く読まれた記事」に5回選出。ほぼ毎日数回更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/)。noteの専用ページ「阪 清和 note」は(https://note.com/sevenhearts)

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