彼女の瞳が捉えた歴史の真実と代償 『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』
先日、現在公開中の『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』を観に行ってきた。
英国版『VOGUE』誌のファッションフォトグラファーとして活躍しながら、同時に第二次世界大戦では従軍記者として最前線を駆け抜けた、リー・ミラー。
本作品では、彼女が第二次大戦中に従軍記者として戦場に向かい、カメラマンとして戦争の真実を撮り続けた約10年を中心に描かれている。
印象深かったのは、彼女の登場シーンの多くでたばこを吸っていたこと。
酒を飲んでいるか、カメラを手にしているか、あるいはどれもか。
たばこと酒は、彼女の心の隙間や苦しみを覆い隠すもののようにも見えたし、一方でカメラは、彼女自身を支える軸だったのかもしれない。
とりわけ忘れがたいのは、ヒトラーがベルリンで自死した日、ミュンヘンにある彼のアパートの浴室で撮影された写真を撮るシーンだ。
この写真は、彼女の作品の中で最も有名なもののひとつになっている。
泥だらけになった軍靴をバスマットに脱ぎ、かつての独裁者のアパートのバスタブに浸かるリーの姿。
言葉にできない何かが彼女たちを突き動かして撮ったような、「戦争の終わり」を象徴するような皮肉めいた写真は、80年経ったこちらを惹き付ける奇妙な力がある。
そして最後のシーンには、不意を突かれた。
静かでありながら、心に強く残る瞬間だった。
戦時中に、あまりにもたくさんの死や悲劇を真正面から写し取ってきた彼女に降りかかった代償が静かに語られているようだった。
私はリー・ミラーという人物についてほとんど知らないままこの映画を観たため、彼女が生きた背景をもっと知っていれば、より深く話が入ってきたかもしれない。
伝記映画の楽しみのひとつに、観終わった後に描かれた人物の歴史を改めて辿ってみることがある。
そのあとで、改めてもう一度観てみたい作品だ。
