映像2024.02.20

映画ソムリエ/東 紗友美の”もう試写った!” 第32回『悪魔がはらわたでいけにえで私』

Vol.32
映画ソムリエ
Sayumi Higashi
東 紗友美
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『悪魔がはらわたでいけにえで私』

▶恐怖とバイオレンス!血飛沫、生首、吐瀉物!ぶっとんだ映像レベル:100

バイオレンスホラーなのに後味は多様性?ギャップ映画を見たいあなたにオススメ!

皆さん、この映画の場面写真を見て驚きませんでしたか?ゾクッとしませんでしたか?
私は嘘は苦手です。だから正直に書きます。
この映画は大量の血が飛び交う凄惨なシーンが満載、最初から最後まで度肝抜かれるゴア※なホラー映画。
映像表現としては苦手な人もいるかもしれない。しかし、声を大にして伝えたい。

この映画はただ血飛沫が飛ぶだけの映画ではなく、また別の狂った面白さがあるということを!
こんなものを作り出してしまった監督が日本にいることを誇りに思います。

60分のゾンビの宴。この作品において、鑑賞後に私がもっとも強く感じたのは「多様性」や「偏見をとびこえる」ことについての物語だったこと。意外すぎる。

ハルカ、ナナ、タカノリが、突然連絡が取れなくなったバンドメンバーのソウタの家を訪ねると窓ガラス一面に新聞紙が貼られており、彼の様子もどこかおかしくなっていた。
ナナが部屋の奥に貼られている不気味なお札を剥がすと、別の世界への扉が開かれてしまう…というお話だ。

『転がるビー玉』(2020年)『異物 -完全版-』(2022年)などのジャンルレスな作品を撮り続ける宇賀那健一が監督を務め、スラムダンス映画祭、ポルト国際映画祭、富川(プチョン)国際ファンタスティック映画祭などで上映された宇賀那監督による短編「往訪」に、新たなキャストと展開を加えて長編映画化。

ホラー映画『悪魔がいけにえではらわたで私』は、世界の映画祭でも話題になった。
ファンタスティック・フェストでのワールドプレミアでは一瞬でチケットが完売、モントリオール・ヌーヴォー・シネマでの上映でも同じくチケットが完売、トリノ映画祭では審査員特別賞を受賞した。

宇賀那監督はガッツがある。自身で海外の映画祭のプログラマーとやりとりをして、挑戦している。今では大手の映画会社から海外の映画祭に出品する際の相談まで受けているそうだ。自身で作ってきた道は、今後も宇賀那監督の人生を支えるに違いない。

さてさてこの映画はとにかく残酷で、グロい。
しかし、あらゆるシーンすべてにこだわりを感じる。生首にすら愛情を感じる。
そして、音響まで最初から最後まで不気味でありながらも同時に爽快な気持ち良さがあり、スクリーンでの鑑賞がオススメだ。
見る者に現実を忘れさせてくれるような映画体験であった。

千葉県九十九里ののどかなプレハブで巻き起こる血祭り。
世界の混沌を映し出したような常識破りのこのゾンビ映画は、我が日本の千葉県こそがゾンビアイランドであったとする地域寄り添い(?)系映画でもあるのだ。『翔んで埼玉』(2019年)も『DESTINY鎌倉ものがたり』(2017年)もこれには驚くだろう。
九十九里にはゾンビがいるのかもしれない、と思ってしまうほどカオスだけど妙に世界観がマッチした映像も新鮮だ。

劇中で繰り返される「人間ですか?」という台詞が最後は遠のいていく。
私はゾンビが苦手だけど、いつの間にか
「なんだっていいじゃないか。人間でもゾンビでもまた別の生き物でも。」と感じていた。
恐怖とバイオレンス、血飛沫と吐瀉物。ぶっとんだ映像についに私は頭がおかしくなったのか?変になったのか?
ゾンビへの恐怖が少しずつ薄らいでいく。友だちになれるかもとさえ思った。

ようやく自分が偏見の片鱗を、乗り越えられていることに気付いた。哲学のある映画だった。

また、ホラー映画ファンに向けて特筆したいことがある。
1984年に公開されて以来カルト的な人気を誇る『悪魔の毒々モンスター』のロイド・カウフマン監督がこの映画に出演している。宇賀那監督から直々のオファーと「往訪」を気に入ったことで、快諾してノリノリで撮影に応じてくれたそう。カウフマンが日本の千葉県にまつわる警告を発令するシーンは注目だ、お楽しみに。

最後に、主演の詩歩さんが面白い。
無防備な色気を放つ前半から別人のように大暴れする後半は、まるで脱皮の瞬間を目の当たりにするかのよう。
どれだけ風貌を変えても”感情がある芝居”を見せつづけてくれるのが印象的だった。
どんな姿になっても無垢な魂を持ちつづける姿が偏見を乗り越える術を教えてくれるようだった。
また彼女には大暴れしてほしい。

 

※ゴア…血や内臓が露出した暴力的な描写を指す言葉。(Weblio 辞書より引用)
※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です

『悪魔がはらわたでいけにえで私』

 

監督・脚本 宇賀那健一
プロデューサー:高橋淳、野村啓介、WATANABE
撮影・編集:小美野昌史
撮影助手:大西恵太
照明:淡路俊之、津田道典
録音:Keefar、茂木祐介
整音:Keefar
効果:小川高松、Keefar
音響スーパーアドバイザー:大川正義
衣装:WATANABE
特殊メイク・特殊造型:千葉美生、遠藤斗貴彦
特殊メイク助手:池田恋、森田由華、河口伶
VFX:若松みゆき
音楽:ILA MORF OEL、Keefar
ゴキブリ操演:ジョニー小野
緊縛指導:BENIPEONIA
銃器:遊佐和寿
字幕翻訳:Sayaka Rui
制作:WATANABE、宇賀那健一
制作担当:山口隆実
制作デスク・応援:真田和輝
制作応援:菅野奨貴、武川大樹
演出応援:安部一希
ダビング:アオイスタジオ
宣伝デザイン:WATANABE
制作協力:LONDOBELL.inc
造型協力:TOXIC EFFECTS
車両協力:渡辺真人
宣伝:株式会社 AB10、木村真奈美
宣伝協力:矢部紗也華
予告編制作:株式会社 FFQ、ワタベカズ彦、伊藤彩
後援:Citrus Junos
制作・配給・宣伝:株式会社 Vandalism
製作:『悪魔がはらわたでいけにえで私』製作委員会

プロフィール
映画ソムリエ
東 紗友美
映画ソムリエ。女性誌(『CLASSY.』、『sweet』、『旅色』他)他、連載多数。TV・ラジオ(文化放送)等での映画紹介や、不定期でTSUTAYAの棚展開も実施。 映画イベントに登壇する他、舞台挨拶のMCなどもつとめる。 映画ロケ地にまつわるトピックも得意分野で2021年GOTOトラベル主催の映画旅達人に選出される。 音声アプリVoicyで映画解説の配信中。

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